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chapter3-5 包囲網

 ゴーレム単体で見たとき、それほどの脅威はない。自重もあって力はそれなりだったが、なにしろ動きが遅いからだ。動作がもっさりとしているのも相まって、避けるだけなら苦にもならない。

 だが、それが六体となるとどうだろうか。


「おっとぉ……!」


 側面から振り下ろされる拳を斜め前へ転がることで回避する。続けざまに別の個体が迫るが、それも転がって避けた。ゴーレムの包囲から一時的に抜け出すと、なんとか再び距離をとることが出来たが、正直じり貧だ。

 のそのそとした動きで再度包囲網を作ろうとするゴーレムを見ながら、さてどう切り抜けようかと考えた。

 動きが遅いといっても数が多い。体の幅が大きいので横並びになられると隙間も小さく、来た道を引き返すのも容易ではなかった。

 そして厄介なのが、動きが静かという点。一体ならなんてことはないが、複数体に囲まれると背後などからの攻撃がとにかく分かりにくい。光源があれば陰などから察知できるのだが、カンテラの灯は今やほとんど燃えカスだ。

 しかも敵は数の利を生かし、組織的に壁の方へ追い詰めようとしてくる。

 立ち回りに必死で、採掘道具から双剣に変える暇もない。


「さて、どうしたものかなあ!」


 再び迫るゴーレムの攻撃を回避し、更に追いすがる敵をなんとかかいくぐる。

 だが、次第に逃げ場が少なくなってきた。一度反対側へ抜け出したいが、こうも連続で攻撃されるとそれも容易にはできない。

 そしてまた一体が飛び出してくる。


「考える時間をくれないか!」


 転がって避けると、今度は避けた側のゴーレムが攻撃する。避け、更に迫る。転がり、立ち上がる間もなく後ろへ跳ぶ。

 いよいよ追い詰められていた。背中に岩壁を感じる。にじり寄るゴーレムが腕を振りかぶった。

 もう逃げ場がない!

 咄嗟にしゃがみこんで回避できたが次がくる。右側から新たに距離を詰めようとするゴーレムが見えた。

 その足元。壁際に沿った場所だけが、ほんのわずかに隙間が空いていた。もうそこに飛び込むしかない。

 タイミングを読め。モーションはもう何度も見ただろう。

 繰り出す腕と同じ足が前に出る。知能があるのは分かっている。攻撃しにくいから壁側からは殴らないはず。なら出るのは右足のはずだ。

 出した瞬間だ。そのタイミングであの隙間へ飛び込む。

 右足のはずだ、見ろ、見ろ、見ろ。

 ゴーレムの動きがスローモーションのようにゆっくりに見え。

 そして。


「右――足ぃ!」


 見えたと同時に、壁へ沿うように体を投げ出した。足と胴体と壁、そのわずかな隙間へ不格好に飛び出す。

 賭けに勝った。

 背後でゴンという衝撃、弾けた小石が後頭部をかすめる。受け身も取れず強かに体を打ち付けたがなんとか体制を整えた。

 振り返った先、ゴーレムはまだ背中を見せている。

 今のうちに距離をとる。そう考えたとき、奇妙な感覚を覚えた。

 それはここまでの道中でずっと感じていたもの。眉間の辺りをざわつかせるような違和感。

 ゴーレムの背中からは、鉱石の反応があった。


「んお?」


 思わず戸惑いの声が出た。

 相手は岩でできたモンスター。どのようにして生まれ、動いているのか分からなかった。

 そこへきてこの反応。

 これは、つまり、そういうことか?

 逡巡の間、ゴーレムが動き出す。ハッとしてすぐさま距離をとった。

 なるべく中央をとろうと駆ける。それを囲むように、六体のゴーレムは再び半包囲を組もうとしていた。

 出口へは中々抜け出せない。適当な通路に入ればそれこそこの坑道から脱出できなくなる。

 試すしかない。

 あれが本当に鉱石の反応を示すものなら、できるはずだ。

 私は手にしたままの鉄杭と鉄槌を握りしめた。


 鉱石なら、採掘道具で掘れるはずだ。

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