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chapter1-1 ゲート・オブ・バスティアン

よろしくお願いします。

お暇つぶしになれば幸いです。

 いい歳をしたおじさんが、待ちに待ったゲームの発売日に年甲斐もなくはしゃいでいるだなんて、若い部下たちに知られたら気味悪がられたりするだろうか?

 仕事でそれほど厳しく当たった記憶はなく、比較的部下には慕われていると思ってはいるが、若者からしたらおじさんがおじさんらしからぬことをするだけで、大体のことは気持ちが悪いものだ。

 まさか彼らも、私が話題の新作ゲームが楽しみすぎて鼻歌交じりに仕事をしているだなんて、夢にも思わないだろう。ついでに、このために明日から三日間の有給をとっているということも。


 だが、今日ばかりは、それも許してほしい。

 思えばゲームの発売日にわくわくすることなんて、どれぐらいぶりだろうか?


 仕事を定時に終え、部下からの食事の誘いも断って逸る足取りで帰路を急ぐ。

 途中の電気屋さんで予約してあった機器とソフトを受け取ると、今日ぐらい夕飯は出来合いのものでいいかと、適当な弁当を買って帰る。

 帰宅したらさっとシャワーを浴びて、かきこむように弁当を食べ、受け取ってきた機器の梱包を解いた。

 厳重な梱包の中、フルダイブ型VR対応の機器が入っている。見た目はバイクのヘルメットのようだが、重さはそれほど感じない。これで一般的なPCよりも処理性能は遥かに上回るというのだから、技術の進歩というのは目覚ましいものだ。


 私が知っている、以前プレイしていたゲームのVRは、ここまでハイテクではなかった。ローテクというわけでもないが、精々が大きいゴーグルの内側がモニターになっていて、首や体を動かすとモニター内のキャラクターも動くというものである。

 VRといってもゲームによってはFPS(一人称目線)とTPS(三人称目線)があり、TPSは体で操作するフルモニターのゲームという感じなので、フルダイブ型VRほどの恩恵があるとは言えなかった。

 私のプレイしていたハンティングゲームはTPSだ。フルダイブ型VRは脳波で操作する特性上一人称操作のみなので、今までゲームで得たものがどこまで役に立つかは分からない。

 そもそも以前ゲームをやり込んでから今日まで、随分と間が空いているから、まともに動かせるかどうかも不安だ。


 ソフトのインストールをしている間に、スマートフォンでこれからプレイするゲーム、『ゲート・オブ・バスティアン』の内容を紹介する記事でおさらいする。




 純日本製! フルダイブ型VRMMO『ゲート・オブ・バスティアン』

 世界が熱望していた日本製フルダイブ型VRMMOが三度のベータテストを経て、ついに発売日を発表した。

 本作は、近年のステータス至上主義のファンタジーMMOとは一線を画している。レベルの概念は存在するものの、ステータスやスキルはすべて非表示。武器や防具すら、鑑定しなければどれほどの強さなのか分からないようにするなど、徹底している。

 にも拘わらず、本作は生産の自由度も高い。開発者側が用意した武具や衣服以外にも、プレイヤーが作るオーダーメイドにも対応しており、ベータテストでは作れなかったものがなかったほど。そのリアリティは限りなく現実的と言えるものだ。

 それもそのはず。開発者の語るゲームコンセプトが、まさに異世界に居るようだと思わせたい、というものだからである。


 中略 


 なんと言ってもNPCのAIが非常に高度な学習能力を持っていることだろう。彼らは時にプレイヤーよりも人間らしく、電脳の世界で生きている。

 ベータテスト時ですら、一人一人がストーリーを持っていて、時にクエストという形で協力し、気まぐれで助けたことによって町が発展したりした。それらはすべてNPCの手によるものである。

 異世界の名にふさわしい本作ではあるが、あえて厳しい言い方をすれば、プレイヤースキルが問われすぎているということだろう。

 単純にレベルを上げればステータスが上がり、できることが増えていくという安易なシステムではないため、MMOライトユーザーからすれば敷居の高すぎるゲームになってしまうかもしれない。

 しかし、それを差し引いたとしても、本作はすべてにおいて自由だ。自分のやったことが目に見えないだけで成長につながる。ソロで己のスキルを試すのもよし、集団で狩りをするのもよし。それら一人一人のプレイングが、独自の成長とストーリーを生み出すのだ。

 発売まであと半年、世界中が異世界に旅立つことを、今か今かと待ちわびている。



 記事の読了と共に、インストールの完了を知らせるアラームが鳴る。ゲーム開始前の今、期待は最高潮を迎えていた。

 フルダイブ型のVRを使うのは初めてなので、その緊張もあるだろう。胸が高鳴っている。

 ベッドに横たわり、VR機を装着する。内部モニターには脳波やバイタル、身体情報取得チェック中のランプが明滅し、注意事項が表示されていた。

 六時間を超えるプレイ、心拍数など体に異変が生じた場合、セキュリティの問題が発生した場合など、強制的にシャットアウトされることがございます。といった内容だ。なるほど、セーフティはそうなっているのか。

 初めてのことだらけで、一つ一つがすべて新鮮だ。今なら利用規約すら目新しく見えるかもしれない。

 そうこうしている間にチェック中のランプが消え、インストール済みのソフトが表示される。広大な大地を背にした『ゲート・オブ・バスティアン』の文字が、別世界への誘いに見えた。

 画面に映るカーソルを視線で動かすと、迷わずソフトを起動する。 ポーン、という起動音の後、視界が真っ白に染まると、体から力が抜けていくような浮遊感。


 そうして私は、異世界へと飛び立った。


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