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神々の遊ぶ庭の裏山で遭難したら熊に襲われてしまいました  作者: おかわりいくら丼
始まりの譚
14/16

第14話 深夜の訪問者

訪問ありがとうございます。


誤字脱字、事実誤認等があればご連絡ください。

「何か居るぞ!?」

 見張りのアッシクがつぶやく。


「ブラッディエイプだじゃ!血の匂いに引き付けられただじゃ。」

 タシロが相槌を打つ。


 今夜は、月明かりも無い漆黒の闇。光源は目の前の焚火のみ。

 タシロが焚火の炎を大きくするため薪と炭を入れる。さらに腰に下げている袋から、粉を振りかける。昼間のような明かりが周囲を照らし、地面に影が現れる。

 木立の間には、ブラッディエイプたちが棍棒を持って立っている。樹上に居るものは、目をギラつかせ、いつでも飛び掛かれるよう隙を伺っている。


 周囲が明かるくなったのを合図に、テントから全員出てくる。それぞれの手には武器が握られ、迎撃態勢をとる。

 アシッチと娘たちは馬車の中で息を潜めている。


 サンペが周囲に意識を飛ばす。

「敵の数は五十三匹。かなりの数です。タシロとチパトパは炎を大きくして、周囲を照らしてください。トオサとマッセは馬車の上から迎撃。アッテレたちは、馬車と荷車の守備をお願いします。ラムアンは私と一緒に来てください。」


 そう言うと、サンペは盗賊たちから没収した武器を全て出しながら続ける。

「武器の切れが悪くなったらすぐに取り換えてください。切れない武器は体力を奪い、隙を作ります。武器の管理はタシロに任せます。」


 サンペはそう言うと、ラムアンと闇の中に消えていった。



「荷車に三匹。馬車に四匹であります!」

 マッセが近づくブラッディエイプの数を叫ぶ。


 荷車の守備はメチウとウエンク。馬車の守備はアッテレとアッシク。

 闇の中からブラッディエイプが次々と現れ、焚火に照らされる。

 現れては、各自が確実に仕留め、馬車の上からマッセたちが援護する。第一波を撃退し、次の攻撃に備える。


 第三波を撃退した直後、マッセが叫ぶ。

「四匹が五つ来るのであります!ほぼ同時に来るのであります!」


「全員目を閉じるだじゃ!」

 そう言ってタシロが粉を焚火に入れる。周囲にくっきりと影が現れる。

 ブラッディエイプたちは、突然の閃光に一瞬視覚を失い、動きが止まる。


 その瞬間、四人は自分の近くにいるブラッディエイプを始末する。トオサとマッセも二匹ずつ仕留めていた。


 周囲を確認したマッセが、

「トオサ様。矢の残りはどのくらいでありますか?」

 と尋ねる。


「あと三本で終わりだ。」

 そう言うと、マッセが


「トオサ様。一緒に来て欲しいであります。今サンペがボス猿と戦っているのであります。ここの猿は全滅したのであります。」

 そう言うと、トオサが


「主殿がボス戦を行っている。アッシクとタシロとチパトパには、ここで引き続き守備を任せたい。アッテレ、メチウ、ウエンクは一緒に来い!」


 四人はマッセの案内でサンペの下に向かう。




 森の少し開けた場所に向かって、目を凝らしているサンペとラムアンが居た。

 闇夜にブラッディエイプたちの呼吸音が響く。


「三匹いますね。」


「あ~。ボスとナンバーツー、ナンバースリーといったところね。」

 ラムアンが返す。


「ここでは、三枚のお札は出さないでくださいね。」とサンペ。


「あ~。分かったね。でも、どうやって仕留めるね?」


「そうですね。何とかして明るくなってもらわないと。このまま相手の動きが確認できない状況だと、ちょっと手が出ませんね。」

 といっても日の出まではまだかなりの時間が残っている。


「あ~。ちょっと待つね。サンペはブラッディエイプの場所は正確にわかるのね?」


「はい。それはわかります。ここから八歩ほど先に三匹が固まっています。」


「あ~。それはわかるのね。その三つのうち、どれがボスか分かるのね?」


「いえ。そこまではわかりません。」


「なら、その三つに意識を集中してみるね。」


 サンペは言われた通り三匹に意識を集める。

 次第に三つの点が視覚の情報として頭に浮かぶ。一匹が棍棒を持ち、二匹が剣を持っている。『大きい。』


「二匹が剣で、一匹が棍棒を持っていますね。しかし、かなりでかいですね。」


 そう言うとラムアンが

「あ~。そうだね。普通のブラッディエイプなら大した事ないけど、このクラスになると少し大きいね。あ。それから棍棒ではなくて金棒だから気を付けるね。」


「あ~。最初に剣の二匹を始末するね。これから一匹だけ離れて行くので、その一匹をサンペにお願いするね。弱点は、首の後ろなので、そこを一突きするのね。」


 そう言って、石を四つまとめて前方に投げる。

 音に反応した一匹が、様子を見に行く。

 サンペが後ろから音を立てずに近づく。

『グサリ』とブラッディエイプの首に、後ろから短剣が刺さる。

 もう一匹はラムアンが仕留める。ラムアンに仕留められたブラッディエイプは、派手に血を噴き出しながらその場に倒れる。辺りに血なまぐさいにおいが立ち込める。


 血の匂いに興奮してボス猿が暴れだす。金棒を振り回し、周囲の木々をなぎ倒す。


 ボス猿の鼻が人間の匂いを捉える。サンペに向かって最短距離で一気に迫る。

『早い!が、躱せる。』

 サンペがボス猿の初撃を躱し、柄尻に右手を当てて、咽喉に剣を突き刺す。

 しかしサンペの剣はボス猿に刺さらず、サンペが体ごと弾かれる。

 サンペの剣を弾いたボス猿の体にはかすり傷一つない。


 再び漆黒の闇が訪れ、全ての動きが停止する。


 ボス猿はサンペの匂いを探るが感知できずにいた。

 サンペが弾かれた先に、先ほどラムアンが始末したブラッディエイプが転がっていた。サンペは素早くブラッディエイプの血を全身に塗り付け、自分の匂いを消す。


 ラムアンに近づき

「全く刃が立ちませんでした。まるで全身鎧のようです。」


「そうなのね。ボスともなると、かなり強い魔物になるのね。しかし、臭いね。」


「すみません。匂い消しの方法が他に浮かばなかったものですから。弱点はやはり首の後ろですか?」


「あ~。違うね。ボスともなるとかなり防御力も高いね。体の表面はサンペの言う通り、鎧に覆われているように固いね。だから、奴の場合は、眼球か口の中あとは、鼻の穴になるのね。本当に、臭いね。」


「すみません。もう少し我慢してください。そうなると接近戦しかないですね。」


「そうなのね。接近戦になるのね。ただ、少し様子を見るね。しかし、本当に臭いね。」

 そう言ってラムアンはサンペから距離をとる。


 ボス猿は二匹の死体を確認したあと、頭部と腹部を食べ始める。


『バキバキ、ゴリゴリ。クチャクチャ。』

 漆黒の暗の中で、ボス猿の咀嚼音だけが響く。


 サンペから少し離れた場所のラムアンが

「あ~。もしかしたらボス猿は山に帰るね。今回のブラッディエイプの襲撃は、我々が山賊たちを退治したのが原因なのね。元々ブラッディエイプは人里から離れた場所に居る魔物なのね。それが人間の血の匂いにつられて出て来ただけね。この状況だとこちらが圧倒的に不利な状況だし、ここは山に帰ってもらうのが一番良いね。まだ、匂うね。」


「そっちは、自分から見て風上ですよ。まだ匂うのですか?」


 やがてボス猿立ち上がり再度周囲の匂いを確認する。人間の匂いが確認できず、一人山に向かって歩き出す。


「帰って行くね。我々も帰るね。」


 サンペの感知範囲からボス猿が消えるころ、正面からマッセたちが現れる。


「ボス猿は逃げたのでありますか?」


「あ~。いや、我々を見逃してくれたのが正しいね。」


「見逃してくれたのでありますか。」


「はい。とてもかなう相手ではありませんでした。」


 馬車の所に戻ると、タシロとチパトパがアシッチと娘たちでブラッディエイプを解体していた。

 ラムアン、マッセ、トオサ以外の全員がブラッディエイプの返り血を浴びていたため、河原で湯を沸かし、少し早い朝風呂に入る。

 サンペの匂いが一番きつかったため、最初に男たちが風呂に入ることとなった。


 空には星が輝いている。満天の星空の下で男たちは体を洗い、着物も洗う。

 サンペの着物だけは洗っても匂いが取れないため、竈に入れて処分した。


 アシッチと娘たちは、男たちが風呂に入っている間に朝食の準備を始める。マッセも見様見真似で手伝うが、どう見ても邪魔しているようにしか見えない。

 やがて、娘たちも風呂に入り、全員で少し早い朝食をとる。間もなく夜明けのようで、稜線の向こうが白くなっていた。


 朝食の後サンペが四人の娘たちに訊ねる

「昨日はいろいろなことが急に起こり、あなた方もかなり混乱していたため確認しませんでしたが、朝食の準備やブラッディエイプの解体などの作業ができるようになったので、改めて確認させてください。」


 四人は姿勢を正しサンペを見る。

「私たちは、先日ドラゴンの襲撃を受けたフッシコッカの村の生き残りです。アシッチとチパトパがトマリの町の人なので、一緒にトマリの町まで向かう途中です。あなた方に帰る場所があるのでしたら、トマリの町へ行った後に送ります。」


 サンペがそう言うと、銀髪の娘が答える。

「私たちは親に売られ、奴隷としてアウェントカまで向かう途中でした。二十日ほど前にこの近くを通った時に盗賊に襲われ、その時に奴隷商の男も殺されました。なので、今の私達は奴隷の身分も無くなってしまいました。もし、助けていただけなかったら、亡くなった二人の娘と同じような結果になっていたと思います。」


「わかりました。では、あなた方四人は、今から私たちと同じフッシコッカの村の生き残りです。これからトマリの町で新しい身分証を発行してもらいます。」


 するとラムアンから

「身分証の再発行には、身元保証人の名前が必要になるのね。形式的な名前なので、今回は全員村長の名前を使う事にするね。」


 そこで、改めて自己紹介を行い、娘たちの名前が分かった。

 先ほど説明した銀髪の娘が『カルンパニ』。続いて

『セタプクサ』、『アンラコ』、『ホイエノプ』と名乗った。

 全員同じ村の出身だったが、口減らしのため親に奴隷商に売られたとのことだった。盗賊に襲われたとき、既に自分たちの命はあきらめていた。



 互いの自己紹介が終わる頃、ようやく空が青から赤へと変わり、周囲に色が戻ってくる。



 各自支度をしてトマリの町へ出発する。

 残党たちを乗せた荷車に、馬を繋げたが、二輪の荷車であったため、馬の負担が大きすぎた。このため、盗賊のアジトで回収した四輪の馬車に残党五人組と賞金首の袋を乗せた。御者台では、タシロとチパトパが手綱を握っている。

 残党五人組は、未だ眠りから覚めず、身動き一つしない。目が覚めても痺れ茸の効果が続いているので、体を動かすことはできないと思われる。が、念のため、手足の固定をしているので、トマリの町までは十分な状態であった。


 もう一台の馬車には、アシッチとカルンパニら五人が乗る。業者台には、ラムアンとマッセが座り、準備が整う。



 二頭引きの馬車二台が、六頭の馬に守られながら街道を通っていく。

 道中、馬を休ませ、昼の休憩を取りながら、トマリの町に向かう。



 日が傾きかけた頃、遠くにトマリの町の城壁が見えて来た。


 サンペは、チパトパに、

「城門で待っている商人に、サンシン・セタの息子と娘が帰ってきたと、サンシンに伝えてもらうように。顔見知りの商人が居れば、その方にお願いするように。」

 と中銀貨一枚を渡した。


「わかりました。」

 とチパトパが言うと、業者台から降り走り出す。あっという間にチパトパの姿は見えなくなった。

 入門を待つ列の前の方で、チパトパが覚えている顔を見つける。



「ちょっと失礼します。ムンチロさんですよね。それがしは、以前父と一緒に旅をさせていただいた、サンシン・セタの息子。チパトパです。」


 ムンチロと呼ばれた男は

「はて?こんなに綺麗に剃髪された方は存じ上げませんが。」

 と言いチパトパをのぞき込む。その顔から、旧友のサンシンの顔が浮かぶ。


「おぉ。確かにチパトパ君ではないですか。暫く見ないうちに随分と思い切った事をしましたね。どなたに師事しているのですか?あっ、丁度良い墨を入荷したので、写経の時に使うのはいかがですか?」

 と商売の話を始めた。


「この頭は、実は剃髪ではないのです。それがしは、姉と二人でフッシコッカの村の祖父の家に行っていました。そのとき突然ドラゴンの襲来がありまして、その瘴気に当たってしまい、こんな頭になってしまいました。」


「フッシコッカの村にドラゴンが現れたという情報はありました。そうですか。そこで・・・・、そんな頭に・・・・。あっ、だけどドラゴンの襲来って普通は突然ですよね。で、本題は何ですか?」


「実は今、姉が後から来る馬車に乗っているのですが、そのことを父に伝えていただきたいのです。」

 そう言って中銀貨一枚を手渡す。


 ムンチロは中銀貨を受け取ると、

「確かにいただきました。入門したら、最初にサンシン商会に行きアシッチさんとチパトパ君がトマリに向かっていることを伝えます。」


 そう言って門番に身分証明書を渡す。


「お願いしますね!」

 と言ってチパトパは列から離れ、再び走り出した。




 ムンチロがサンシン商会でアシッチとチパトパの無事を報告してからは、大騒ぎとなった。

 ドラゴンの瘴気で、頭髪は無かったが、間違いなくチパトパであった。しかも、急ぎの要件と確実に知らせてもらうように、中銀貨を渡してきた。

 そう言ってサンシンに中銀貨を見せる。


 この程度の依頼の相場としても問題ない金額である。

「・・・・そうか。無事だったか。フッシコッカなら東門だな。」


 そう言って、サンシンはムンチロに中銀貨一枚を渡す。

「これは私の気持ちだ。受け取ってほしい。」


 ムンチロも商人である。

 サンシンへの伝言はいわば余計な仕事である。同業であるサンシンもそこは理解しており、本業より優先して伝えてくれたことに対するサンシンの感謝の気持ちの表れであった。

 ムンチロも理解しており、何も言わずに受け取り店を出る。




 サンシンはすぐに馬車の準備を指示し、妻のチマキナと東門に向かう。

 よほど慌てていたのか馬車には、リンゴ樽が乗っていた。

次話は近日中に投稿します。


おかわりいくら丼。

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