第13話 トマリの町へ(3日目)
訪問ありがとうございます。
今回は少し戦闘シーンがあります。気になる点があれば指摘してください。
誹謗中傷はご遠慮ください。
「盗賊!?どっちから来るのですか?」
サンペの問いにマッセが答える。
「日の出の方向であります。」
「人数は?」
今度はアッテレが確認する。
「たくさんであります。」
「四つの束は何個出来て、足りないのは何個なのね?」
今度はラムアンが確認する。
「四つの束は八個、いや、九個出来ます。あと一つあれば十個になるのであります。」
その時サンペの頭にも日の出の位置から迫る何かを感じていた。間もなくその何かが赤い点に変わる。
「確かに三十九人いますね。」
サンペが言う。
赤い点は離れた場所で、四人ずつ左右に分かれ、さらに二人になって動きを止める。外周に、二人一組で四組が展開している。
サンペは、マッセとアッシクに外周にいる八人の排除を指示する。二人は、日の出を右手に見るように、左側の森から移動を開始する。同時にトオサが後方に移動した。と思った時には、気配が無くなっていた。
集団はさらに、十人がサンペたちの後方に移動し、正面から二十一人が迫ってくる。やがて、十五人を残し、六人が正面の森から出て来て、サンペたちの視界に入る。
「おはようございます。私たちはアウェントカの町で商人をしている者です。」
そう言いながら近づいてきた。
服に目立った汚れも無く、頭髪も揃えられている。客商売の最低限度はわきまえているようだ。年齢は四十前といったところ。後ろにいる五人のうち四人は用心棒。もう一人は見習いと思われる。見た目はどこにでも居そうな商人の集団であった。
「はじめまして。私はアウェントカで商人をしております、ピチリペと申します。昨夜山賊に襲われまして、馬も商売道具も全て奪われてしまいました。これからトマリの町まで被害届を出しに行くところです。もしよければご一緒させていただけないでしょうか。」
と、ピチリペという自称商人の男が話しかけてきた。
こちらは、サンペ、ラムアン、アッテレ、メチウ、ウエンクの五人。トオサは樹上の人となって気配はない。
「それは大変でしたね。ちょうど朝食が出来たところなので、一緒にいかがですか?」
そう言ってサンペが椀を差し出す。
ピチリペがサンペから椀を受け取ろうと手を伸ばす。その瞬間、ピチリペの肘から先が地面に転がる。その手には短剣が握られていた。
アッテレの剣がサンペの命を守る。
ピチリペの腕が転がると同時に、後ろに居た用心棒の二人も倒れる。倒れた二人の目にはトオサの矢羽根が刺さっていた。
他の三人は、既に首から上が体から離れており、ピチリペもサンペの剣によって、すでに首が胴から離れていた。
サンペ達は、前に十五人。後ろには十人の盗賊たちに囲まれている。
馬車の中には、戦力外の三人、タシロとアシッチ、チパトパが避難している。三人は息を殺して状況を観察している。が、その顔には恐怖の欠片も無かった。
ひと際大きな男が、漆黒の防具に身を包み、朱塗りの槍を肩に担ぎながら近づいてくる。柄の長さは、男の身長にさらに半分足した長さ。刀身は腕一本分。なかなかの業物らしい。
男はこちらの身なりを見て、商人の一団だと思っているようだ。護衛の姿も貧相なので、盗賊からすると朝飯前の一仕事。といった雰囲気だった。
「馬と女はどこだ?」
槍を肩に担ぎながら男はサンペに迫る。
「おい!」
といった瞬間、男の体から血しぶきが噴き出していた。
何が起こったのか分からない表情で転がる男の頭。
サンペの手には折れた剣が握られていた。今の一撃に耐えられず、剣は中ほどから折れてしまったようだ。
サンペが男の手から槍を奪ってメチウに渡す。
槍を持ったメチウの動きは華麗の一言だった。蝶が舞うが如く穂先が動き、山賊たちの手から武器が弾かれる。武器を弾かれた山賊の体には、次々と急所に矢が刺さる。メチウに弾かれた武器は、サンペ、ラムアン、アッテレ、ウエンクに向かって飛んでいく。各自フッシコッカの村で回収した錆びた剣から新たな剣に持ち直す。
頭目の首が転がるのを見て一瞬怯んだ盗賊たちだったが、人数はまだ盗賊の方が有利。片目の男が仲間を鼓舞する。
「相手は五人じゃ!三人一組で確実に一人を始末しろ!射手は儂に任せろ!」
ラムアンが三人に囲まれている。
ラムアンは右手を懐に入れたまま周囲を警戒する。最初に右後ろの男が動いた。柄を腹にあてて腰だめに突っ込んでくる。剣は長くないが、非常に見にくい。
男の体がラムアンにぶつかる直前、ラムアンの体が左側に回転する。回転しながら男の頭部を掴む。
『ゴリッ』
男は、自分の首を左後ろに向けたまま動きを止める。
次に、正面と左の男が同時に動いた。
正面の男は剣を振りかぶり、ラムアンの頭を砕きに来る。左の男は下半身を狙っている。
ラムアンは正面の男の右側に向かって飛び込む。ラムアンが前転して立ち上がった時には、正面の男の右わき腹から鮮血が噴き出していた。
もう一人の男は既に絶命していた。男の後頭部から矢羽根が生えており、喉から鏃が出ていた。
サンペも三人に囲まれていた。
三人の武器は槍。一方、サンペの武器は剣である。圧倒的に不利な状況であった。サンペは下段に構える。三方同時に槍が撃ち込まれる。
正面からは喉。左右後方からはわき腹に向かって、槍が迫る。サンペの勘が正面の槍の方がわずかに早いと告げる。
サンペは正面から迫る槍を、摺り上げた剣で軌道をわずかに逸らす。軌道を逸らされた槍はサンペの喉を捕らえられずに、首の左側を抜け後方に流れる。サンペは振り上げた剣で、相手を袈裟懸けに斬りつける。鎖骨が砕け鳩尾まで達したところで構えを戻す。
サンペの流れるような動きが止まったところで、左側の男が動く。
頭上で槍を大きく回し、サンペの左肩目掛けて槍が振り下ろされる。
サンペは左に一歩踏み込み、頭上に上げた剣で槍を弾く。そのまま一気に距離を詰め、返し胴を放つ。左わき腹を抜かれた相手は、姿勢を保てずその場に崩れ落ちる。
最後の一人はやみくもに突進してきたので、かわして首を落とした。
回りを見ると、盗賊たちも五人になっていた。片目の男を守るように、四人が周囲を囲む。
ラムアンが
「あ~。一人だけは残しておくね。」
その瞬間
正面の男の目に矢が刺さる。右の男はあっさりとアッテレに切り捨てられる。片目の男はメチウの槍に血しぶきをあげながら崩れていた。男はメチウに、距離を詰めることなく、七か所刺突されていた。後方にいた男は、ウエンクに向けて剣を振り上げるが、振り下ろすことも出来ず、体が二つに分かれる。
残った男は武器を両手で持ち震えていた。
そこへマッセが戻ってきた。
「八人全員始末したのであります。」
森に入ったマッセたちは、最初の二人組を見つける。
周囲を警戒するでもなく、二人で談笑していた。マッセは二人の始末をアッシクに任せて次の二人を探す。あっさりと片付けてアッシクが戻ってくる。手にはアッシクの得意の獲物。朴刀の「圧壊刀」を持っていた。
マッセの案内で盗賊たちを次々と始末していく。二組目からはマッセの目抜きの練習になり、仕留め損ねた盗賊はアッシクの朴刀の餌食となる。
全員始末した後、皆の場所に戻る途中、盗賊が一人になったことをマッセがアッシクに告げる。
馬車の周りは見事な惨状が広がっていた。
ラムアンは、頭目の男の頭と片目の男の頭を持ち上げると、生き残った男にアジトまで案内するよう命令する。
アジトには、留守番の盗賊五人がいた。
盗賊の隣には、半裸の娘たちが酌をさせられていた。
「おう。戻ったのか。で、首尾はどうだった?」
「ア、アニキぃ。それが・・・・・。」
「あなた方のお頭はこうなりましたよ。」
サンペが二つの首を投げる。
アニキと呼ばれた男は、一瞬怯むがすぐに戦闘態勢に入る。
サンペが近づく。アニキが剣を上段に構える。なかなかの威圧感である。
なおも近づくサンペ。サンペの構えは、中段。間合いに入る瞬間、サンペは覇気を開放する。
その瞬間、アニキの剣が動き、左腕がサンペに伸びる。剣が乾いた音を立てて落下する。
何が起こったのか分からないアニキが、落ちた剣を見る。
『!?』落ちた剣に手首が付いている。左手を見ると、手首から先は無かった。アニキの思考が現実に追い付かないまま、アニキの首は体から離れていた。
四人の盗賊は腰を抜かしている。
ラムアンが、
「あ~。こうなりたく無かったら、今まで集めた物全て出すね。マッセは娘たちをお願いね。」
マッセが娘たちを馬車に乗せる。
「一、二、三、四。これで全員でありますか?」
「いえ、あと二人が奥の部屋で寝ています。昨日から動かなくなってしまっているので・・・・。」
「わかったであります。あなた方は馬車の中に入っているのであります。アシッチ!後は頼むであります!」
馬車からタシロとチパトパが出てくる。
「ここが盗賊のアジトだじゃか。」
そう言いながら、周りを見ているタシロに、マッセが
「奥にまだ二人いるのであります。昨日から動かないようなのでラムアンと一緒に見に来てほしいのであります。」
三人が奥に行くと、ムシロにくるまれた二人の遺体があった。
メチウとウエンクも加わり日当たりの良い場所で埋葬の準備を行う。
マッセは二人の体を拭き、顔も整え服を着せる。名前も素性も分からないが、運悪く盗賊にさらわれ、命を落としてしまった娘たちへの、せめてもの手向けであった。
アジトの物をサンペのリュックに入れていく。食材や調味料、武器や道具類も手当たり次第に次から次へと入れていく。
サンペは何もない壁や、地面の石をどけて盗賊たちの銭入れを回収していく。五人の残党は、サンペのあまりの手際の良さに目を丸くしていた。自分の銭入れが見つかった時には、大いに落胆していた。
粗方アジトの道具を回収してから、サンペがマッセを呼ぶ。
「一応私でわかる物は回収しましたが、他に何か残っている物はありますか?」
「え~っと。まだもう少し残っているのであります。」
そう言ってマッセは残りの物を持ってくる。
銭入れの中は、主に銅貨と銀貨であった。中銀貨や大銀貨が数枚入っている物もあった。幹部が使用していたと思われる隠し部屋からは、大金貨十三枚と金貨二十五枚が出てきた。
昨日の野営地より少し離れた場所で、アシッチは食事の支度を始める。全員朝食抜きだったが、食事前にやらなければならない仕事が残っていた。
マッセは娘たちを河原に連れていき、風呂に入れる。
風呂に入り体を洗い、清潔な服を着て、ようやく娘たちは生気を取り戻す。
男たちは、残党五人を含めた十四人で穴掘りを行っていた。
周囲には盗賊たちの骸が転がっている。このまま放置すると、魔物への変異や餌を求めて野獣たちが集まる。
このため、転がっている盗賊たちは全員仲良く穴の中で休んでもらうことにした。その準備作業の穴掘りを食事前に取り掛かる。
食事は、男と女で分かれて食べる。娘たちは暖かい食事に涙を流しながら食べていた。
「無理しないで、今は食べられるだけ食べれば良いのであります。私たちは、先日ドラゴンの襲撃があったフッシコッカの村から逃げて来たのであります。先ほど食事を作ったアシッチと頭がトゥルッとした男の子とは姉弟なのであります。今は、二人の家があるトマリの町まで、二人を送って行く途中なのであります。だから、もう安心しても良いのであります。」
マッセは四人の娘に、サンペたちの事を説明し、今後の予定を説明した。
食事後は、マッセの替わりにアシッチが馬車の中で娘たちの側にいた。アシッチは何を話すでもなく、話しかけられたら答える。ただ、自分と同じくらいの歳である娘たちの側にいるだけだった。やがて馬車の中は四人の娘たちの寝息だけが聞こえるようになった。馬車の外ではマッセが目を閉じながら周囲を警戒していた。
サンペたちが食事している間も、残党たち五人には、穴掘り作業を続けさせる。穴の準備が終わると、残党五人に荷車を引かせ、盗賊たちの死体を回収していく。賞金首はその場で落として袋に入れる。
全ての盗賊たちを穴に埋め、娘たちが身に付けていたぼろ布も一緒に埋める。
全ての作業が終わった時は、既に日が傾き、朱色の空が一面に広がっていた。
残党五人にようやく食事が与えられる。
食事も与えられないと諦めていた残党五人組に、ラムアンから食事が差し出された。五人は、自分たちが犯した罪を仲間と一緒に穴に入れ、土を被せた顔をして、出された食事を美味そうに食べていた。
「何を食べさせたのだじゃ?」
タシロの問いにラムアンは、
「痺れ茸と眠り茸の和え物なのね。それと効果が持続するように、ブラックサーペントの毒を少々入れたのね。サーペントの毒と痺れ茸は非常に相性が良いのね。だから、三日間は目が覚めても体はしびれて動けない状態が続くのね。」
五人の残党と賞金首の袋が荷車に乗せられ、上から布が被せられる。
夕食の後、チパトパがメチウから槍の手ほどきを受けていた。
チパトパの足の運びや体のしなやかさが、槍手としての才有り。と判断された。
次回ようやくトマリの町に到着です。
おかわりいくら丼。