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神々の遊ぶ庭の裏山で遭難したら熊に襲われてしまいました  作者: おかわりいくら丼
始まりの譚
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第11話 いずこへ

訪問ありがとうございます。


今回は、カス二人の話です。

「「ここで間違いないはずだ・・・・。」」



 フッシコッカの村に到着したウェイサンとポイチェンは混乱していた。

 アッテレたち五人が死闘を繰り広げた場所に間違いは無かったが、そこにあるべきものが無かった。ドラゴンの首もなければ、死体も無かった。かつて仲間だった者たちの死体さえも見当たらない。


 地面には、赤黒いシミが所どころ残っているが、それ以外には何も見当たらない。仲間の死体を獣や魔物が漁った痕跡すら見当たらなかった。ただ一か所だけ、物凄い異臭を放つ肉の塊があった。大きさは一抱え程ではあったが、強烈な腐敗臭を放っていた。


 それまで黙っていたチェシオが

「あなた方は本当にドラゴンを退治したのですか?ドラゴンには自己再生能力があります。ここまでの道中で、うんざりするほど自慢話をされていましたが、本当にドラゴンの首を落としたのでしょか。本当に首を落としているのであれば、ドラゴンの死体がこの場所から動くはずはないのですが。」



 アウェントカの町を出てから、ウェイサンとポイチェンは何度も同じ話を繰り返していた。アッテレたち五人は武器を捨てて逃げ出した。我々二人でドラゴンの瘴気を躱しながら、とどめの一撃で首を落とした。ドラゴンを退治した最初の人間なので、我々は英雄になる。こうして一緒に旅ができるのは、幸せなことだ。もっと我々を敬うべきだ。アウェントカの町に戻ったら領主様より領地が与えられることになっている。そんなことを道中繰り返し話していた。


 二日前の昼過ぎにアウェントカの町を出発してから同じ話ばかり繰り返す二人に他の者は閉口していた。特に初日と二日目の食事当番に至っては、ドラゴンを退治した英雄に出す食事ではないなどと、散々な言われようで、食事当番の者は、二人に殺意すら抱いていた。



 死闘が繰り広げられた跡を確認しながら、

「ここで、あれがこうなって。」

「こっちで、あれがこんな風になって。そういえば井戸はどうなっている?」

 と二人で何もない場所を確認し始めていた。



 チェシオが

「周りの血痕は一体何の血痕なのですか?」

 と尋ねると、二人は

「あの血痕は全てドラゴンの血の跡になる。わしらの攻撃で負傷したドラゴンの血の跡だな。」

 と答えた。


「そうですか。ドラゴンの血も良い素材になるので、今回は全て回収していきます。皆さん、土ごと袋に入れてください。あと、数人で周囲の確認をお願いします。」

 そう言って、回収作業は始まった。



 ポイチェンがチェシオに

「そういえば、近くにフッシコッカの村の生き残りが住んでおり、前日にドラゴンの生態について詳しく教えてくれた。もしかしたら、逃げ出したアッテレたちがそいつらと手を組んで、ドラゴンの死体を横取りしたのかもしれない。この場所の回収作業が終わったら奴らの住処まで案内するので、結論はもう少し待ってほしい。」



 チェシオは、物があまりにも少ない村の様子に違和感を覚えていたが、あえて確認はしなかった。


 フッシコッカの村の回収作業も終わり、周囲にも特に変わった事も無いことが分かったので、一行は、ポイチェンの案内でサンペたちが居た拠点まで移動してきた。



 拠点に着いた二人は再び、

「「ここで間違いないはずだ・・・・。」」

 とつぶやいた。



 チェシオが再び

「ここは何ですか?ただの鉱山跡か洞窟のように見えますが。本当にここに人が居たのですか?」


 チェシオの指摘どおり、そこは数年間人間がいた形跡がない場所だった。二人は目の前の光景に全く理解できず、困惑していた。



 困惑している二人にチェシオは続ける。

「今回あなた方二人の案内で、フッシコッカの村まで来ましたが、全くの無駄足でした。確かにフッシコッカの住民はアウェントカまで避難してきたので、ドラゴンの襲撃があったことは間違いないでしょう。しかし、あなた方二人がドラゴンを退治したことは、私を含めここにいる全員が疑っております。」


 全員がウェイサンとポイチェンを取り囲む。チェシオの合図でいつでも捕縛できる体制をとっていた。


「そもそも、七星将とは本当なのですか?確かに、あなた方以外の五人の武器は確認しましたので、人数は七人いるのでしょう。しかし、今回のフッシコッカの村の状況を見るとあまりにも不自然なことが多いので、領主様に伺いを立てる必要があります。あなた方お二人には、確認しなければならないことがたくさんありますので、身柄を一時拘束させていただきます。」



 その言葉を合図に全員で二人を拘束する。捕縛自体は数秒で終わったものの、その後の光景は悲惨なものであった。身動きが出来ずに地面に伏している二人の上を、男たちが延々と歩き続ける。最初のうちは力を入れて耐えていたが、三十周を超える頃には、二人とも声も出なくなっていた。


 フッシコッカの村からアウェントカの町までは、大人の足で二日を要する。少しでも早く帰りたい男たちは、急ぎ足で移動を開始する。拘束されている、ポイチェンとウェイサンは当然遅れがちになるが、容赦なく鞭が振るわれ、休む間もなく歩き続ける。



 野営地に着いて、一度捕縛が解かれ小便が許可される。小便から戻ると、逃走防止のために両腕を固定される。しっかりと握れる程の太さの丸太を肩幅で握らされて、握りこぶしごとを帯で固定される。さらに、肘が曲げられないように、丸太からわき腹にかけて、少し長めの添え木で固定された。夜間は握られた丸太の中間を木の枝に掛けたロープで繋いで放置するだけだった。


 翌日の移動も二人には悲惨だった。二人の両手は、昨夜のまま頭上で固定されており、添え木もそのままだった。このため、腕を下すと固定された添え木がわき腹に刺さる。さらに、両手で握った丸太の中央からロープが背後に回され、そのまま腰紐として巻き付いていた。二人の腕の可動域はほんの僅かで、常に両手を上げて移動するしかなかった。

 最初は、両足も肩幅程のロープで固定していたが、二人があまりにも倒れるので足だけは自由にした。それでも両手を上げ続けているため、二人の体力の消耗は激しく、夕刻前にアウェントカの町に着いた時には気絶寸前であった。


 二人は、道中で便の許可を求めたが、聞き入れられず休憩中に両手を上げたまま用を足すしかなかった。そのため二人の下半身は汚物にまみれており、領主の前に出すためには、一度洗浄する必要があった。



 洗浄を終えた二人が領主の前に引き出される。

「報告はチェシオから聞いた。ドラゴンの死体は無かったようだな。先日貴様たちが持って来た魔物の腕は、ドラゴンの腕ではないと鑑定報告を受けている。それから今回の回収作業で唯一の収穫であったドラゴンの血液についても、ドラゴンの血液ではないとの鑑定結果であった。今回の回収に要した経費については、貴様たちに負担してもらうので、きっちり払ってもらう。」


 それを聞いた二人の顔が恐怖でこわばるが極度の疲労で、目の焦点が定まっていない。


「貴様たちには、もう一つ確認したいことがある。フッシコッカの住民達の道具類はどこに運んだのか。我々は、貴様たち七人の犯行と考えている。」


 その言葉に反応したのは、ポイチェンだった。

「さすがアウェントカの町。鑑定持ちも居やしたか。いかにも領主殿の言う通りでさぁ。今回、アッテレが計画した内容は、フッシコッカからドラゴンを追い出してから、魔物の腕を切り取り、ドラゴンを退治した証拠として持って帰る。ドラゴンを討伐した英雄として我ら二人が貴族の仲間入りをするか、どこかの領地を貰う。その間、アッテレたちはフッシコッカの村から略奪した道具類を金に換える。我ら二人はしばらくアウェントカの町に滞在し、領主殿と懇意にさせてもらう。アッテレたちがどこかの町に落ち着いたら連絡が来るので、その後合流するってぇ手筈だったのでさぁ。奴ら五人はいつも安全な場所にいるくせに、我々二人はいつも危ない役回りばかり押し付けやがる。領主様。この計画を立てたのはアッテレなんでさぁ。アッテレが一番の悪党なので、奴から連絡が来たら教えますので、どうか我らを見逃してくだせぇ。」


「なるほど。そのような計画であったか。私も舐められたものだな。我が領地であるフッシコッカから、住民達の道具を略奪し、売り払うとは。チェシオよ、領内に七星将の、他の五人の手配書を配布するように。それから、国王陛下に本件を報告し、七星将の身柄の確保を要請するように。こいつらの沙汰は追って決める故、今日は『青の特別室』でしっかり休んでもらうことにしよう。貴様たちの荷物も部屋に運んでおくので、今宵はゆっくりと疲れを癒すとよいだろう。」



 それを聞いて、ポイチェンとウェイサンは安堵の息を吐く。


「『蒼の特別室』で休めるなんて。ポイチェンよくやった。これでしばらくは安泰じゃ。」



 二人は使用人に連れられて、『青の特別室』に案内される。移動中使用人から、

「『青の特別室』には、上・中・下の三種類のサービスがあるので、どのサービスが良いか決めてください。」

 と言われたので、二人は、どのような違いがあるのかと尋ねる。使用人の説明で上は、頭の先からつま先まで全身をケアするサービス。中は、首から下のサービス。下は、下半身だけのサービスとの説明だった。

 二人は、昨夜からずっと両手を上げていたため、首から下の中を選択した。


 使用人は、特別室の前に居る屈強な男たちに、


「お二人とも、中を希望とのことです。」


 とだけ伝え、荷物を渡して離れていった。

 屈強な男たちは、


「お前さん方は中のサービスで良いんだな。」


 と確認して部屋の扉を開けて前室に案内する。

 前室は明るく、清潔で良い香りが充満していた。これから至福の時間を過ごすため、心身共にリラックスするには十分な雰囲気を漂わせていた。

 しかし、前室に入った二人は硬直する。なんと、そこには昨夜から握り続けた丸太があった。男たちは、呆然としているポイチェンとウェイサンの手に丸太を固定していく。添え木こそ無かったが、二人の両手は再び固定された。二人の両手は、肩幅で固定され、いよいよ『蒼の特別室』の中に連れていかれる。鎖でつながれた囚人のように。


『蒼の特別室』は、まるで洞窟風呂のような雰囲気であった。壁は岩をくり抜いたようなごつごつとした岩肌があり、ところどころにランプが取り付けられ、周囲を照らしていた。これが湯であれば、今日一日の疲れが湯に溶け出し、明日への活力が吸収されると視覚が語っていた。しかし、部屋の中は湯気の温もりもなく、冷えた空気で満たされていた。


 天井から下げられたフックに二人は繋がれ、そのまま、水に入れられる。ただし、上中下のサービスで中を選んだ二人の顔は、水面から出された状態だった。


 首から下が水の中に浸かり、浮力で体が浮いている状態のまま二人は今後の事を考える。この屋敷から生きて出られるのか。二人の意識は自分たちがあとどの位生き延びられるかに集中していた。

お読みいただきありがとうございました。


次話でようやくアシッチとチパトパが家に帰ります。


おかわりいくら丼。

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