始まり
ガヤガヤと耳には人の賑やかな声、目には魔法ではない人工の明かりが届く。
ここは王都に数多く存在する酒場の一つ。
とはいってもかなり治安が良くない地域に存在しているが。
そこで私は一応歌姫として働いている。
一応がつくのは、私は凡人に毛が生えた程度の力量しもってないから。
だが働かなければご飯にありつけない、無情なまでの懐の軽さ。
そんなこんなで私は今日も場末の酒場で歌っていた。
「♪~」そういえばつい昨日16の歳を迎えたところ。
ほぼ二年前に親に売られたような身で、更に最近では家族へ仕送りまでしている私はささやかなお祝いとして、
フィッシュアンドチップスとパイとエールを頂くのが精一杯。
「♪~」それでも腹も十分に満たされ美味しい夜ご飯だった。
清貧な生活を送り、働く私に野次が飛ぶ。汚い言葉を発するお客ばかり。
やかましい、私は歌うのが仕事だ。服の面積はこれ以上減りませ~ん。
「♪~」フワフワとしたバレリーナがまとうような形状の淡いピンクのワンピース。
丈は太ももがチラチラと見え隠れしていて、上半身はピタッと密着し身体の線を強調している。
「♪~」丈も短いし、上半身に厚みがないことがばれてしまうから私にはこれでいっぱいいっぱいなんだけどな。
視界の端に映るくりっとした目と同じ彩を持つ亜麻色の髪が怒ったように揺れる。
顔はそこそこいいんだからこれで許せ。
月がますます光を帯びる頃、
―カランコロン―
新しい客が入ってきた。店の明かりを受けて光る髪は珍しい白髪。
だが老人と言うわけではなく、まだ二十を過ぎた辺りの男性だった。
この世界では、髪色が稀な色を持つほど、混ざっているとされている。
その為、彼は強い魔力持ちだとわかった。
視線を感じたのか、彼がこちらをみる。
あっ、格好いい…!まなじりが上がった紫色の目とニヤリと猫のように端を上げた口を持つ、いかにも軽そうな雰囲気の持ち主だ。
残念ながら恋に落ちたりしなかったけれど、今晩はあの人にしよう…。
歌いながら私は、自らの拳を強く握りしめた。