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4. ヒーローにはなれない

 次郎は恵麻について考えていた。次郎の恵麻に対する印象は、可愛くて、ミステリアスな女性だ。彼女はカーストの上位にいてもおかしくない容姿なのに、いつも一人で行動していた。だから、そんなところに親近感を覚えたりもしたが、よくよく考えてみると、自分みたいな底辺が、彼女に対して親近感を覚えるとか、かなり失礼なことだし、気持ち悪いことだ。彼女は、皆から愛されるポテンシャルを持っている。つまり、次郎が知らないところでは、友達がたくさんいる光の住人なのだ。そんな人間を、同列に見るとか、自分の薄汚さに嫌気がさす。


 そんなことを考えているうちに、次郎の心はしぼみ切ってしまった。


「はぁ……。萎えるわぁ……」


 こんな日はおいしいものを食べるに限る。だから次郎は、下校して近くの繁華街へ向かった。


(何を食べよう)


 いろいろと飲食店の前を歩いてみたが、学校の近くにある繁華街なだけあって、同じ高校の生徒や、他校の生徒で店内はにぎわっていた。そこに一人で入る勇気がなく、適当にプラプラしていたら、牛丼屋の前で足が止まる。


(チーズ牛丼でも食べるか)


 今の自分には、お似合いの一品である。自虐的な気持から、次郎はチーズ牛丼でお腹と心を満たした。

 牛丼屋を出てからは、早足で繁華街から去ろうとする。繁華街とは、本来、自分のような日陰者がいていい場所ではない。そして、端のほうまで来たところで、「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」という男の声がした。


(陽キャのナンパか?)


 次郎は目を向けて、ハッとする。

 同じ高校のマントを羽織った少女が、他校の男子に囲まれていた。その髪は銀色で、顔に見覚えがあった。氷室恵麻である。


(まずい状況……なのか?)


 相手は、マントの代わりに学ランを羽織っていた。不良によく見られる格好である。恵麻は、面倒くさそうにしていた。


(助けたほうがいいのかなぁ)


 マンガやドラマの主人公なら、ここで助けに入るのが王道だろう。しかし次郎は、主人公になれるような光の人生を歩んではいない。だから、モブキャラのように、何も見なかったことにして、その場から去ることも考えた。が、恵麻と目が合ってしまう。


 助けを求められるような気がして、次郎は、一瞬、ドキッとする。しかし恵麻は、期待していないような顔で目をそらした。


 その態度に、次郎は眉をひそめる。誰からも期待されていない人生だから、恵麻の態度は正しいと思う。ただ、状況が状況なのに、まったく頼りにされないのは、それはそれでムカつく。そんな複雑な男心に突き動かされ、次郎は恵麻を囲んでいる男たちに歩み寄った。


「あの」

「あぁん?」


 次郎が声をかけると、男たちが振り返り、次郎をにらんだ。


(おぉ、怖っ)


 全員、いかにも不良って感じがする。しかし次郎は、臆することなく、努めて明るい顔で言った。


「すみません。その子の友達で、待ち合わせしていたんです。ね?」


 次郎が目配せすると、恵麻は瞬きを二回した。次郎の行動が意外だったと言いたげに。そして、しばしの沈黙があってから、恵麻は口を開いた。


「いや、そんな予定はないけど」

「なっ」

「おい、てめぇ」と不良Aの目つきが鋭くなる。「カッコつけてしゃしゃり出るんじゃねぇよ」


 しかし次郎は、不良Aには目もくれず、非難するような目で恵麻を見た。恵麻は涼しい顔で次郎を見返す。


「無視してんじゃねぇぞ!」

「あぁ、すみません。俺の勘違いでした」


 次郎は頭を下げて、その場から去ろうとする。が、その肩を不良Aにつかまれる。


「ちょっと待てや」

「はい?」

「一発殴らせろ」

「何で?」

「ムカつくからだよ!」


 そう言って、男は右の拳で次郎の顔に殴りかかった。


 次の瞬間、べきっ! と骨の折れる音がして、――不良Aの右手がつぶれた!

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