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13. 妹

(誰?)


 いきなり現れた少女に次郎は戸惑う。


「おかえり、真奈。あと、彼はそんなんじゃないから」と恵麻。


 次郎が視線で説明を求めると、恵麻は言った。


「妹の真奈よ」

「はじめまして! 真奈です!」と真奈は元気に挨拶する。

「はぁ、どうも」と次郎は困り顔で答える。「紅 次郎です」


 そのとき次郎は、真奈の胸元にある校章に気づいた。


(襟都女子か?)


 襟都女子は、魔法都市で最難関の女子校だ。


「どこ見ているのよ」


 恵麻の言葉で、次郎は動揺する。


「校章を見ていただけだから」

「ふぅん、どうだか」

「仲良いんですね!」

「べつに、そうは思わないけど……」


 次郎が困っていると、真奈は次郎の隣に座った。爽やかな柑橘系の匂いに、次郎はドキッとする。隣に可愛い子が座るとか、緊張してしまう。しかも、真奈がじっと観察してくるからなおさら緊張する。

 居心地の悪さを感じたので、次郎は渋い顔で真奈を見返した。


「何?」

「あ、いえ、何でもないです!」


 真奈は笑ってごまかし、恵麻に目を向けた。


(何でもないわけないだろ)


 と思う次郎だったが、当然のように言葉にすることはできない。


「お姉ちゃんは、どうしてサングラスをかけているの?」

「お父さんのマネ」

「ふぅん」


 あれ? と次郎は思ったが、恵麻が涼しい顔で作業を続けているので、余計なことは言わない方が良いと思い、コーヒーを飲んだ。


「真奈もつけるかい?」と譲司。

「いや、いい。私には似合わないもん」

「そんなことないと思うけど」


 真奈は再び次郎へ視線を戻す。


「それで、次郎さんはどこで姉と知り合ったんですか?」

「真奈」と恵麻は真奈の前にコーヒーを置く。「静かにしてね。他のお客さんもいるから」


 確かに店内には、新聞を読んでいる老人の姿があった。


「はぁい。気を付けまーす」


 恵麻が二人の前を離れると、真奈はささやいた。


「で、どうなんですか?」

「学校で会ったけど」

「いや、そうじゃなくてですね。きっかけと言いますか」

「面倒見のいい先生がいて、その人が二人で部活をやれと言ったのが、きっかけかな」

「ふぅん。次郎さんから声をかけたんじゃないですか?」

「俺がそんなことをするやつに見える?」

「確かに、ザ・草食系って感じですもんね」


 真奈は笑顔で語る。確かにその通りなのだが、直接言われると、胸がざわつく。


「でも、やっぱり、お姉ちゃんは高校に行って、いろいろ変わっちゃったんですね」

「どういうこと?」

「気になりますか?」

「多少は」

「素直じゃないですねぇ。教えてあげませんよ?」

「まぁ、なら、べつに知らなくてもいいかな」

「そういうところですよ!」

「どういうところだよ。ってか、初対面なのに、俺の何がわかるんだよ」


 こほん、と咳払いする音。恵麻がカウンター越しに二人の前に立って、冷ややかな視線を向けていた。


「次郎君は、今すぐ謹慎を始める?」

「……すみません」


 恵麻が離れると、真奈は再びささやいた。


「謹慎ってどういうことですか? 教室で暴れたんですか?」

「俺に対して、どんなイメージを持っているんだよ。他校の生徒と少しいざこざがあって、それで謹慎をくらったわけ」

「へぇ。意外ですね」

「……まぁ、そうかもな」


 次郎自身、自分が謹慎をくらうとは思っていなかったのだから。


 それから次郎は読書を始め、真奈も隣で勉強し始めた。しばらく本を読んでいた次郎だったが、すぐ隣に人がいる状況に慣れていないため、集中力が続かない。だから、帰ることにした。


 次郎が片付け始めると、恵麻が気づいた。


「もう帰るの?」

「ああ、まぁ」

「ふぅん。謹慎、頑張ってね」

「……ああ」


 次郎は適当に挨拶して、店から出た。


 ――が、帰る途中に、『筆記用具を忘れたみたいだけど?』というメッセージがあって、次郎は来た道を戻る。


 その道中、「ねぇ、一緒に遊ぼうよ」という男の声がして、嫌な予感がしつつ、目を向ける。真奈が不良たちに絡まれていた。


(またかよ)


 数日前の記憶がよみがえる。ここで声を掛けたら、面倒なことになることは実感している。


(どうしようかな)


 正直、真奈は光の住人の気配がある。つまり、コミュニケーション能力で何とか乗り切れそうな気がする。だから、彼女に任せてもいいと思ったが、真奈の手に自分の筆記用具があることに気づき、次郎は渋い顔になる。


(……やれやれ。やるしかないか)


 筆記用具を届けてくれようとした心優しい少女を見捨てるわけにはいかない。次郎は、不良たちのもとへ歩き出した。

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