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4話 酔いと歪み

「そう!鈴佳とあっくんは幼なじみなんだよー」

 

 遠目に見える鈴佳がけらけらと笑っている。首筋のチョーカーが昔と変わらずそこにあって、現実感が少し薄い。

 中高と何度も夢想し、そして恐れもしていたことが、現実になっていた。


 × × ×


 目の端で追っている彼女は、くいと勢いよく紙コップを傾ける。それに合わせて彼女の周りが湧く。入っているのは、先輩曰く水こと焼酎。

 

 新歓と称した花見。数十人が集まるその下にはブルーシートが何枚も敷かれていて、その上には申し訳程度の桜が咲いていた。


(焼酎か……)

 

 この大学、楽しみはカラオケと飲みしか無いというのは本当なのだろうか?

 それは誇張された表現だろうが、アルコールのコスパを重要視した選択に背筋が寒くなる。

 お酒の美味しさは皆無で、アルコールを主張する風味が強い液体。

 

 僕はジュースで割ってアルコール感を紛らわしているものの、鈴佳は酔うことが正義と言った感じで、飲みの場のゲームがてら原液を一気飲みしていた。

 

「……水無瀬さんは、知り合いとかいました?」

 

 先輩に混ざって飲む鈴佳からは離れたところで、水無瀬さんと僕は隅っこで静かに花見をしながらお菓子を摘んでいた。

 

「いえ……、ほとんどの方はそのまま付属の女子大に行きました」

 

 なるほど、そういうルートもあるのか。

 なんなら鈴佳こそ、そういうルートで進学してそうだと思ったのだけれど。


 ……この学校に進んだ理由は、まだ聞いていなかったな。

 

「水無瀬さんは何でこの大学に来たの? やりたいことがあったとか?」


 たわいもない雑談を振る。相手が予め答えを用意しているであろう質問。

 双方がお決まりのやりとりをして、相手と自分が同じ枠組みで生きていることを確認、安心するだけの、無難な話。

 

「私は——」

 

 ——無難な話の、つもりだった。

 

「私は、逃げて、来ただけです」

 

 ……その一言は予想外に重くて、それ以上聞けず、沈黙してしまった。

 そして、鈴佳の記憶から逃げようともしてきた、自分と少し重なった。

 

 ——そんなことはないと思い直して、続ける。

 

「……あー、サークルとか、入るの?」

 

 おぼつかない、僕の問い。

 

「……入らないつもり、だったんですけど、なんなら新歓も来ようとは思っていなくて」

 

 それに対して、これまで内省を重ねてきたと思える答えが端的に返ってくるを見て取るに、頭が良い子なんだなと思った。

 

「人、苦手なんです」

 

 ——一方で、歪みを感じる部分もある。

 

「こんなところ連れてきちゃって、嫌じゃなかった?」

 

 彼女はお菓子を咀嚼した口を左手で伏せて、小さく右手を振って否定した。

 

「……私と違う世界で生きてるなって思えるので、面白いですよ」

 

 否定なのか、肯定なのか。

 

 褒めてるのか、貶しているのか——。

 

「哲さんは、入るんですか?」

 

「……いや、僕も水無瀬さんと同じだったんだけど、あいつに振り回されてる……」

 

「でも、そういうのって何か憧れます」

 

 微かに彼女は笑う。

 たまに見せる感情の起伏は、綺麗で好ましいものだと、思った。

 

「私たち、少し似てるかもしれませんね」

 

 そうだろうか?

 いや、振り回されているという意味では——

 

「ほらー、あっくんも来てー! これがあっくんでーす!」

 

 突如、向こうから声がかかる。どこまで何を話したのか、僕を紹介する流れになったらしい。

 

 この酔っ払いが、と僕は怒鳴る人間でもなく、そちらへ向かう。

 それとなしに置いて帰ろうかと思ったが、呼ばれたことでそうはいかなくもなってきてしまった。

 

 ふと、妙案が思い浮かぶ。

 

「あー、こいつの家、門限あるんでそろそろ送っていきますね」

 

 自然と出た言い訳は、鈴佳の小さい頃を思い出して作ったものだった。

 鈴佳は——否定して残るかと思いきや、先ほどの荒れようが嘘のように、なぜかぼーっとした顔で、こくりと頷いた。

 

 そしてすぐに調子を取り戻す。

 

「先輩方、ごめんなさい!今度はもっとたくさん飲みましょー!」

 

 彼女は握手を、なんなら軽いハグまでして、別れを告げていった。

 

「——水無瀬さん」

 

 誘っていた手前、さすがに彼女を残すことは出来ないし——なおかつこいつと二人きりで帰りたくはなかった。

 そんな僕のエゴでの帰りの誘いだけれど、彼女はぱっと顔を明るくして、小走りでついてきた。

 

 完全に酩酊してひっついてくる鈴佳をいなしながら、僕たちは帰路に着いた。

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