みうょき 話91
——けれど、無口な私よりも、その男の子は喋らないし、特段関わって来なかった。
(よかった……)
簡単な先生の説明の後、彼はとにかく延々と本を読んでいた。
読みながら、カウンターまで本を借りに来る生徒へ、本を貸し出している。
彼は本を読んだままそのついでと言わんばかりに、手続きをしていた。
彼に本の貸し出しを頼む生徒も面食らっているのを見て、まるで私は自分のことのように恥ずかしくなり、顔を伏せたくなった。
けれど、特に怪訝な顔をされるだけで問題は特に起こらない。
——意外と、ここでの常識から外れてもやっていけるのだと、彼を見て思った。
× × ×
彼の肌の色は少し焼けていて、髪はミディアムショート。少し凛とした顔つきだけど、溌剌さも感じられる。
その容姿と行動のギャップに、私は『変な人だ』と思った。
ただそれよりも、そもそもの害されるという懸念が杞憂に終わったことにほっとしながら、私は図書委員としての業務に臨んだ。
彼が貸し出すので、私は必然、返却された本を黙々と返していく。
私たち二人は無言で仕事をこなし、仕事がない時は二人でカウンターに並んで座り、昼休みを終えた。
それを見て、先生が褒めてくれたのを覚えている。
もちろん——黙々と騒がず文句も言わず遊ばない私たちが扱い易いという意味だろうけれど。
そして帰ろうとした時、彼は振り向き際に言った。
「お疲れ様」
咄嗟のことで私は声が出なくて、その間に彼は廊下をかけて行ってしまった。
想像していたよりも、だいぶ線の細い、凛とした成分が多かった声だったのを覚えている。
私はいつものようにコミュニケーションが取れなかったことに落ち込んだのだけれど、彼にはその行動から他意は無いことが伺えた。
——私が答えようが答えまいが彼には関係ないと感じたので、いつもとは違って——なんだか晴々とした気持ちで帰途に着いた。
× × ×
非番の日に図書室に来ると、その男の子がいた。
ああ、あの子だったのだ。以前にも見たことがあることに、気づいた。
図書室にいつもいるから、もしかしたら私と同じなのかもと思ったことさえあった男の子だった。
——ただそれも、図書委員の仕事振りを見るに、彼は単に本が好きで、私とは違うと分かってしまったのだけど。
ふと横目で通り過ぎ際に見ると、彼は同じようにずっと本を読んでいる。
そんな面白い本なのかと思い、横を通り過ぎ振りをして、タイトルを覗き見た。
——人生のなんとかについて。
ページは、これまで私が見たどの本よりも、小さい文字で埋め尽くされていた。
本に興味を持って図書目録を漁ったが、どうやらその本は一冊しか無いようだった。
——私は、それが人生の重大事だとでも言うように、彼に話しかけることを決めた。
ただ——それが本当に、私の人生を左右するなんて——思っても——いなかったのだけど——




