表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/29

13話 ライフライン

 ——研究学園都市の夜は静かだ。

 

 歓楽街といったものは無く、僕が住んでいる場所も、隣駅との狭間にあるアパートだった。

 

 聞こえるのは()()()小さな寝息と、時折聞こえる車やバイクの遠い騒音だけ。

 秒針の音が聞こえない事に気づき、この部屋には時計が無かったなと、ふと思い出す。

 

 自分の鼓動さえ聞こえそうな——静寂。

 実際には、隣で寝ている鈴佳のすうすうという寝息だけが聞こえていた。

 

 それは一人暮らししている時には気付かなかった、生活音。鈴佳の身じろぎや、呼吸、それによる胸の上下運動と衣ずれの音。

 ——そして、左手に感じる彼女の()()

 

 僕らは手を繋いだまま——体温を交換したまま、寝ていた。

 

(鈴佳の体温はあの頃から、変わらず、熱い……)

 


 ふと、()()()()を思い出しそうになる。


 

 僕は手を繋いだまま——そっと右手で枕の下に隠していたスマホを、彼女を起こさないように取り出した。

 眩しいバックライトの輝度を下げながら、スマホのロックを解除、した。

 

 通知が四件。

 

 それは——さっき携帯を鳴らしていた相手、水無瀬さんからだった。

 

 少し緊張しながら、それをタップして開くと、三つのメッセージと、一つの不在着信が入っていたのが分かった。

 ちょうど、鈴佳の邪魔で通話が途切れた、あのすぐあと。

 

 メッセージを見る——文章量に一瞬たじろぐが、目を通す。

 

『率直に言うと、私は哲さんの意図が分かっていません。哲さんは故意的にこういったことをして、私を遠ざける、あるいは楽しんでいるのか、それとも哲さんも翻弄されているのか。』

 

『前者であれば、軽蔑しますし、もう関わって欲しくはありません。後者であれば、、、友人として相談に乗るぐらいはしてあげます。』

 

(なるほど、あれはそう見えていたのか——)

 

 率直な物言いで肝が冷えた。

 ただ、友人という部分は純粋に嬉しかった。

 こういったこと、というのは鈴佳とのやりとり、だろう。

 

(どこまで聞こえていたかは分からないけれど……)

 

 そんなことが頭を掠めながら、スクロールしていく。

 一時間後に、メッセージが一つ。ちょうど、鈴鹿と入っていた時のものだ。

 

『無視ですか。最後に一言ぐらい聞かせてください。』

 

(最後とは……)

 

 その後、一分近い不在着信記録。

 

 僕は頭を抱えていた。

 なんと——説明したものやらだが、このままでいる訳にはいかなかった。

 メッセージを打ち込む。書いては消し、書いては消し、結局は短い文に仕上がった。

 

『本当にごめん。取り込んでた。もちろん後者で、前者のような趣味は僕にはないよ。今度説明する』

 

 このままだと悩んでずっと送らずにいてしまいそうだったので、えいやと釈明を短く送る。

 もう寝ているだろうと思い、またスマホを枕の下にしまい床に着こうとした瞬間——水無瀬さんから返信があった。

 

『では、、はい。信用します。ちなみに、どう取り込んでいたか聞いていいですか?』

 

 ——その後の鈴鹿とのやりとりはもちろん、一緒にお風呂に入っていたなんて、言えっこ無かった。

 

 どう返信しようかと迷っている内にまたメッセージが来た。

 

『説明できないことですか?』

 

 嘘はつきたくない。ただ言う勇気もなかった。

 ——嘘をつかない範囲で、後ろめたさを感じながら返信した。

 

『お風呂に入っていて、着信は聞こえてたんだけど、ごめん、取れなかった』

 

『一人で、、ですか?鈴佳さんが来ていることと、何か関係があるんでしょうか?』

 

 ……何かもっと酷い想像をされている気がした。

 

『特にその、何かがあった訳ではないんだ』

 

 これは嘘をついていることになるのだろうか?自問自答する。

 

 『そんなこと誰が信じますか?哲さんはもう少し社会を学んだ方がいいですよ』

 

 きつい。こんなキツいコミュニケーションとる子だったっけ?と思う。

 いやしかし、自分の今を鑑みれば仕方ないとも思える。

 

 頭の中がぐちゃぐちゃだった。

 

 『僕もどうしてこうなったか分かって無いんだよ。たしかに褒められたことでは無いと思うけど』

 

 『でも、哲さんは望んで鈴佳さんとそうしてるんですよね?』

 

 もう思考はせずに、思っていることをそのまま打ち込む。

 

 『それはそう。でも、悩んでるのも事実。実際、こんなこと相談出来るの水無瀬さんしかいないから、見捨てないでくれると僕としては助かる』

 

 数分の——メッセージを待つ短い時間さえやきもきした。

 

 『哲さんが、私を悩ませてるっていうのも、自覚してくださいね?とりあえず今は見捨てないでいてあげます』

 

 『だから、、少し話をさせてください』

 

 着信——鈴佳の方を見ると、ちゃんと寝ている、ように見えた。

 僕はバイブ音が響かない様にすぐに着信を受け、音量をギリギリまで下げた。

 

 鈴佳以外の声が耳に届くのは、久しぶりな気がしてしまうほどに、水無瀬さんの声は懐かしい感じがした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ