7.獣人の村
セーナが案内してくれた村は規模は小さくのどかな雰囲気だが、きちんと村中の施設や道の整備が行き届いていて住みやすそうな印象だった。そして見かける老若男女は皆犬の様な耳があり尻尾がある。セーナも犬系っぽいし種としては皆同族なのかなと思われる。
「うちはここです!おばあちゃーん、ただいまー」
元気よく玄関扉を開けてセーナは中に入って行く。程なくして年配の女性と一緒に出てきた。
「私のおばあちゃんです」
「孫を助けて下さったんですってね。ありがとう」
「いえ、たまたまですから」
「セーナちゃんの運が良かっただけ~」
「おまけに予定の薬草採りまで手伝ってくれたとか」
「それは俺たちというか……」
後ろの馬を見やる。自分と目が合うと少し得意げに鳴いた。
「皆さんは恩人ですよ!だからちゃんとお礼させてください」
「と、言われても」
「俺らも森抜けれたのはセーナのお陰だしお互い様だろ」
「そこをなんとか……」
なんとかとは。
しかし彼女がいたから馬という移動手段と出会えたし、薬草や狩りについても教えて貰えたし、森も出れた。リツ兄の言う通りお互い様という事で良いと思う。
「それなら」
「はい!」
「二、三日此処に居てもいいかな」
「ほあっ?!」
「あれ?滞在するの?」
「この村は森での狩りが生業の一つだって言ってたから、ついて行かせて貰えるなら少し勉強したいかなって。急ぐ用事はないし」
「俺は兄貴に賛成だな。折角の機会だし」
「狩りやりたーい」
自分も薬草の栽培とか薬の作り方とか興味がある。一子相伝とか秘匿でないものなら教わりたい。
「それは大歓迎ですよ!というか私の許可なんていりませんから」
「良かったらご飯くらいはウチで食べて行って頂戴ねえ」
「おばあちゃんいいのー? 男四人だぜ」
「任せなさい」
こっちの世界の普通の食事はどういうものか分からないから不安だが同時に楽しみだ。
「それならさっきセーナと狩った動物とか野草とか預けとかねぇとな」
リツ兄が鞄から戦利品を出そうとしたら、中のテーブルにと案内されたのでそこでお披露目した。
と言っても兎や鳥なんかの小型の獣だけど。
「随分沢山ねえ」
「ソウさんとシュウさんも手伝ってくれたんだ〜」
「腕が鳴るわねえ」
「そしたら私宿屋に案内して手伝いに戻ってくるね」
「案内までしてくれるのか?」
「当たり前じゃないですか〜」
こちらとしても住人と一緒なら怪しまれないだろうし安心できる。馬は少しセーナの家の庭に置いて貰った。留守番を頼むと庭の芝生に座ってのんびりし始めた。
そう広くはない村の中。案内された宿屋はふたつの建物が並んでいた。どちらも同じ宿の別の棟らしい。
「うちの村、立ち寄る人は多いから宿も大きいんですよね」
宿屋に入ると老年の男性が受付の女性と話をしていた。
「村長、こんにちは」
「おやセーナ。森はどうだった?」
「大変でした〜。キュリルスタングは出てくるし……」
それを聞いた村長と呼ばれた老年の男性の顔が少し険しくなる。
「ついこないだ討伐して貰ったのにな……また依頼しなくてはなあ」
「あっそれならこの人達が倒してくれて……というか捕まえて」
「なぬ」
後ろにいた自分達に気付いて貰えたらしい。目が合ったので挨拶をする。
「俺達も森の中で迷っていたので助かりました」
「おやおや。それは災難でしたな」
「あっそうだ。それでね村長」
セーナが自分達の滞在希望を村長へと伝えてくれる。村長はそれを笑って快諾してくれた。
「狩りの人手が増えるのは有り難いですわい。皆さんは魔物も倒せる実力がお有りですからな」
「そう言って貰えるとこちらも助かります。俺達は何せ外の人間ですから……」
「旅の方や討伐者の方は滞在することが珍しいので、此方としては大歓迎ですよ。二、三日と言わず気の済むまで」
「飯代稼がなきゃね〜」
「現物だけどな」
宿の部屋は特に難無く貸してもらえた。数日の滞在だからか村長も口利きしてくれたからなのか角の広めの部屋を融通してくれた。貴重品である貨幣類と武器だけ身につけて、待ってくれていたセーナの所へ向かう。
「あと共同浴場と、狩猟組合にご案内します!」
「そういうのがあるんだ」
「先の通りうちの村は畑と狩りが生業ですからね〜。一応薬作りもですけど。組合で弓の訓練とか講習もやってますよ」
「それは興味あるかな」
浴場も、基本的に個人の家に風呂まで構えている人自体少なくどこの村や町でも規模関係なく備えてあるらしい。あと温泉が湧いているわけではない。温泉地もあるのはあるみたいだけど、この辺には無い様だ。
「ここが共同浴場ですよー。男女は分かれてます」
「そらそうだわな」
「分かれてなかったら問題ある〜」
外観は簡素な作りの建物に見えるが、まあ風呂場なので着替える場所が確保出来てれば良いのかもしれない。高い柵でぐるりと囲まれているところに風呂があるのだろうか。湯気が見える。
「広いと沸かすの大変そうだな」
「一度沸かしたら魔道具で保温してるんですよー。汚れた水も浄化して循環させてますし」
「そっか」
魔法、魔道具。自分達の世界にはどちらもないが保温の技術はあるし下水処理や循環技術もあった。使用するものの違いだけだけど魔法というだけで不思議な感じがする。
「で、ここが組合です」
組合の建物は個人の家を大きくした様な外観だ。訓練所であろう広場では弓を射っている人や何か講習らしきものを受けている人達がいる。
「セーナ、今日も訓練か?後ろの人らは?」
たまたま建物から出て来た壮年の男性が話しかけてくれた。セーナと顔見知りなのだろうか。
「今日は案内です!狩りの勉強したいんならまず組合に相談かなーって」
「ほお。しかしアンタら旅人じゃないのか?」
「旅と言っても急ぐものではないですから。でもこんな素人に教えて貰えるんですかね」
「……全くのど素人でもなさそうだから問題ないだろ。丁度明日森歩きするんだ。良かったら来な」
「行きまーす! よろしくおねがいしまーす」
「よろしくお願いします」
「アキさんは?」
「俺は……留守番かな。薬作りは興味あるけど……」
答えるとセーナの目が何故か輝いていた。
「ホントですか〜!! 明日一緒に勉強しましょ!!」
「お手柔らかに……」
この喜び様を見てるといきなり専門知識とか叩き込まれそうな気がしてきた。
薬草畑もどういう風にやってるのか見たいなと思ったけどそれはまた明日伝えよう、と爛々とした目で何かつぶやいているセーナを見ながら溜息を吐いた。