43.首輪と彼らの事と
雑談。
武器の試験使用が終わるまでは時間がかかりそうなので、ゼーレの首輪を頼むため別行動をとらせてもらう。
「気を付けてね」
「分かった」
「私がついてってあげるわよ」
イルミアが同行してくれるというので道案内を頼むと、店の場所をファイのお父さんに聞きに行き直ぐに戻って来る。
「アキはルスタに乗ってくわよね?」
「うん」
「じゃ、先導ついでに手綱握らせてもらうわ~」
ルスタも了承の様で軽く鳴いて返事をしていた。
先程歩いてきた職人通りから更に奥へ。昼市が開催されているためか相変わらず通行人は多くない。
「イルミアの家もこの辺りなの?」
「ウチは一般居住区だから離れてるわよ。因みにファイとは学校時代からの付き合いニャ」
「へぇ」
町中は職人さんの家や店と、それ以外の一般の人の家で居住区が綺麗に分かれている様だ。
イルミアの家は一番下の妹さん以外皆討伐者の資格を持っているんだとか。今はご両親と妹さんと住んでいて上の兄弟は家を出ているらしい。
「集まるのは大変だけど手紙類はすぐやりとり出来るから、離れてても皆連絡はマメだわね」
「イルミアは町に残るの?」
「そうねー。でも将来自警団引退したら引っ越し考えてもいいのかもしれないわ」
「なるほど」
それからもアヴィとディルの所であった事など雑談をしながら目的地へ向かい、到着したのでルスタから降ろしてもらう。店の看板には指輪の意匠が使われていた。
「こんにちは」
「はーい。いらっしゃい。もしかして紹介状の子かな?」
「そうです。よろしくお願いします」
出て来てくれたのは少し線の細い中年の男性で、依頼を引き受けてくれる職人さん本人だった。中は工房兼店舗らしく、いくつか商品棚も設置されていた。腕輪や首飾り等人用の装身具以外に首輪なんかも並んでいたので、魔物関係も一緒に取り扱っている様だ。
「実際に魔物を見てもいいかい?」
「お願いします」
ゼーレを促し手に乗ってもらう。二度目なのもあってか少し慣れた様子、でもなく相変わらず固まっている。ひとしきり眺めた後男性は自分に使う素材だとかの質問をしてくれたので希望を伝える。
「あ、宝石なんですけど……これは使えますか?」
鞄から自分の魔力を込めた宝石を一個取り出す。小指の爪程度の大きさの物だし然程大きくはないのだけど、二人は宝石を見て目を見開いている。
「ニャ? 赤の宝石なんて高価なもの使うの?」
「いや……これは俺の魔力を込めただけの物だから」
「魔力を? それはそれですごい事だよ」
男性は渡した宝石を興味深く見ている。
「言われてみると赤の宝石よりも深い赤色をしてるなあ」
「空の魔石なんてよく持ってたわね」
「うん、報酬で……」
どこまで話をしていいか分からず変に濁してしまったが、二人共入手先については何も突っ込んでこなかった。
宝石を渡した後はすぐ見積もりの話になり、見積書が出来るまでの間は商品などを見て待機していた。使う材料と作業費等詳細の説明をしてもらったが、提供材料の事もあって思ったよりは高くなかったので安心。
「小さいし簡易な細工だから、首輪は明日でも渡せると思うよ」
「ありがとうございます。それじゃあお願いします」
速やかに話はまとまって、後は出来上がりを待つだけになった。イルミアにも御礼を言って、ファイの家に戻る事にする。
「もしかしたらまだやってるかもニャ~」
「そうかな」
「試用なんていっても実際武器持って手合わせすんのよ。言わないけどファイだってアンタ達とやりたがってたわよ~。勿論私もね」
「そっか。それなら案外白熱してるかも」
広場に戻ると、イルミアの言った通りまだ打ち合っていた。いや、試験使用は終わっている様なのでついでの訓練かな。
「ほーら言ってた通り」
「だね」
ソウ兄は珍しく剣を握って、同じく剣を持ったファイと訓練している。ファイは本当に色んな武器を扱えるんだなと感心していた。
「アキ、首輪の件どうだったんだ?」
「明日には出来るって」
「良かったな」
リツ兄とそんな話をしてる間にも激しい金属音が聞こえるが気にしてはいけないのである。
「ソウって剣も扱えるの? そんな事全然言ってなかったわよね」
少し目をそらしていた自分とは違い二人の打ち合いをまじまじと見ていたらしいイルミアは横にいたシュウ兄に尋ねている。
「兄ちゃんの事だから見て覚えたんじゃない?」
「……見て?」
「だってほらー。アヴィもウィドさんも剣使ってっし。近くであんだけ見てたら覚えるよ、兄ちゃんなら」
イルミアはすごく怪訝な顔をしていたが、ふと何か思い当たったのか少し考えている。
「ソウって魔人族よね?」
「なんかウィドさんがそう言ってたな~」
「特殊な眼持ちの種族だから、見て覚える能力なら納得だわ」
うんうんと頷くイルミアを見て、自分はついリツ兄と目を合わせてしまった。ちょっと微妙な顔をしていた。
鳴っていた金属音も途切れたので終わったのか二人の方を見ると、こちらに歩いて来ていた。
「もう用事は終わったの?」
「うん。思ったより早く終わった。ソウ兄はどうして剣を?」
「ちょっと扱い方に興味あってね」
ファイの方をチラッと見ると盛大に溜め息を吐いている。
「扱い方を知りたい、なんて程度の技量じゃなかったぞ。本当に経験無いのか?」
「ソウは魔人族なんだもの、仕方ないわよ」
「あー……それなら納得出来る」
「なんか納得されちゃった」
ソウ兄は苦笑いしているが、勝手に納得してくれているんだから良いだろうと目線で訴えると苦笑いのまま頷いてくれた。説明が億劫らしい。
「リツ兄の剣はどうなったの?」
「ああ。そっちも見積もり見せてもらって頼んじまったから出発までには用意してもらえんだろ」
こちらはこちらでちゃんと話が進んでいた様だ。自分とは金額の桁が違うのだが、迷宮で手に入った宝石のおかげで少しは余裕があるからこういう急な買い物もたまには良いだろう。
「ファイばっかズルいわよ~私もちょっと誰かとやりたいわ」
「お~やるかあ?」
「やりましょやりましょー」
イルミアとシュウ兄はそんな軽いやり取りをして直ぐに拳をぶつけ合っていた。意外と気が合うというか馬が合うのかな。
「イルミアは剣とか弓とかは選ばなかったんだね」
「というかアイツ一家総出で格闘家だな」
「そうなんだ」
両親も自警団に所属していたから、手習い程度から本格的に身に着けるまで至ったとの事。獣人族自体身体能力が人間族よりも高い人が多く、また近接戦闘が得意な人も多いらしい。
シュウ兄の本気度がイマイチ読めないけど、パッと見た雰囲気では互角にも見える。
「あれ、本気?」
「いや? 手は抜いてねえけどな」
「獣人族同士ならそんなもんだろ。シュウだって混血じゃないのか」
「なんか、多分、そう」
「曖昧だな」
以前ギルドの人達にも種族については色々聞いたけど、あくまで自分達としてはただの人間のつもりなのだ。どうにも返答に困る。
「って四人共孤児だって言ってたか。種族についてだって確定した話じゃないよな」
「うん。でも皆からそう見えるならそれでいいのかも」
「……いや、アキの事はわからないが」
「えっ……」
クレイースさんもこっちの大陸には自分の目色を持つ種族はいないと言っていたしな。仕方ない。仕方ないけどなんか寂しい。などと思いながら二人の訓練を見ていたのだった。
次回は迷宮にいきます。




