42.宿と腕輪と
あと武器の話をちょっと。
二人の案内のもと、ファイの実家でもある鍛冶屋へ行く前に宿の手配をする事にした。町の勝手は二人がよく知っているから勧められるままついていった所はどう見ても宿っぽくはない。というかそこまでの広さのない普通の家だ。
「ここ、人泊まれるの?」
「違うちがう。ここはあくまでも宿を手配してくれる事務所だよ」
「町中にある空き家を宿として利用していて、それを此処で一括管理してるの。四人と魔物が泊まるなら絶対家の方が楽よ」
つまるところ戸建て単位で宿泊施設を借りられるらしい。町は個人単位の宿泊以外にも商会など集団での宿泊も多いみたいなので理にかなっている様だ。
事務所の人に宿泊の依頼をし料金説明をしてもらう。家にも大きさがあってそれにより金額設定も違う。庭さえあればルスタにいてもらえるのでその話をすると、所員さんはそれならとすぐに地図を出してくれた。
「四人で宿泊できる広さで魔物が居られる場所付なら此処にあります。今日はちょうど空きがありますからお勧めしますよ」
「それじゃあここで」
今日と明日泊まる手続きと支払いをして、所員さんの渡してくれた鍵を受け取る。それ以外に地図や家の使用についての書類をくれたのでソウ兄が受け取っていた。
「先に一度宿に荷物置いていってもいいかな?」
「勿論」
二人から了承を得たので、宿泊する家へ向かう。地図を見て二人がこの辺だろうと大まかな所まで案内してくれた。中心部からは少し外れた住宅街で、家の塀に分かりやすく管理施設の名前が掘られていた。外観はごくごく一般的な家で、周りから浮いている感じもない。元が空家なので住みたかったら買い取り手続きも出来るらしい。
「私達は外で待ってるわね」
「うん」
ルスタは勝手に庭の方へ歩いていく。一応確認するのだろう。寝心地とか。
家は平屋で、手前にはリビングやキッチンがあり、奥の方に寝室とトイレや物置等がある。取り急ぎ荷物をリビングのテーブルに置いているとリズルから声をかけられた。
『皆様こんにちは』
「あ、リズル」
「ホントいい時に来るよな」
「どっかで見てんの~?」
『み、見てなどは……いないとは言えませんけど……』
見てるのか。一体どこから見られてるんだろうな。変な場面じゃなければいいけど。
「ちょうどよかった。リズルに聞きたい事あって」
『はい! なんでもお聞きください!』
何故か意気込むリズルに昼市で買った腕輪を外して見せる。
「これに使われてる石が何か知ってる?」
リズルはしばらく腕輪をじっと見て、ひとつ頷く。
『我が眷属の爪の一部ですね』
「つめ」
あの猫の奴か。爪、欠けたりするんだな。
「……それってこんな風にされてて大丈夫なの?」
『はい。持っていて何か支障の出る物でもありませんし……何か私の方で付与しましょうか?!』
「いや、いい」
速攻断った。機会さえあればなにがしかしてくれようとするのはありがたいけど困る。
眷属の爪は欠けていて大丈夫なのか聞くとすぐに修復するそうだ。そういう生き物というか神に近いモノは壊れなさそうと勝手に思っていたけど、耐久力は高めでも怪我したりする事はまああるらしい。
「リズルが問題ないって言うなら着けておくよ」
『はい、よろしければ。魔力を溜めこむ等魔石と近い働きも出来ますしね』
「へぇ……」
曰く、かなりの量を溜める事が出来るそうなので気が向いた時にやっておこうかな。
友人を待たせているのでそろそろ出る事をリズルに伝えたら、また来ますと去って行った。自分達の様子を見てるなら勝手にタイミングが良い時に来るだろう。
「よーし。そんじゃお義父さんに話聞きに行きましょ」
「俺の親父だが……」
「そのうち義父になるからいいのよ」
「……」
イルミアとファイは今日も仲が良いな。先導しながらそんなやりとりをしている二人の後ろを、自分はルスタの手綱を引いてついて行く。先程の昼市の通りとは違い人通りはまばらで道は広々としている。行った街町は馬車同士の往来を考えて広く道が造られているけど、それよりもまだ広い気がする。
「どうしたの?」
「ん? 道が広いなって」
「あー。この辺は昔から広めにとられてるわね。露店も広げやすくて良いみたいニャ」
「外での作業もしていた頃の名残だな。この区画は職人通りだから」
「そうなんだ」
そういう時代背景があったらしい。他にも色々と町の事を聞きながら歩いていると到着した様で、見上げた先には金属で出来た鍛冶屋の看板が下がっていた。
「親父いるか?」
「おお? もう帰ってきたのか」
「友達からの相談で、親父の伝手を頼りたくて」
ファイのお父さんに挨拶をする。鍛冶場は暑いからか肩にタオルを掛けて、コップ片手に出て来てくれた。
「俺の伝手?」
「ああ。魔物の首輪を作りたいんだと」
目で促されたのでもう一度会釈をしてゼーレに手に乗ってもらう。珍し気にじぃっと眺められたゼーレは自分の手の上で完全に固まっていた。
「随分と小さい魔物じゃないか。それに鳥なら飛ぶ邪魔になってもいかんだろうし」
「俺は詳しくないんですが、軽い金属とかと小さい宝石を合わせられないかなって思って……」
「ふむ……」
ファイのお父さんは少し考えこんでいる。難しい注文だったのかもしれないなあと思っていたら、心当たりがあるらしく机に向かって行った。
「おーい親父」
「一件やってくれそうな奴がいる。先に要件書いて弟子に持って行ってもらうよ。その方が話が早くていいだろう」
「ありがとうございます」
「なに、ファイの友人だろ。折角だしウチで少しゆっくりしてから行くといいぞ」
「……親父、もしかしてソウ達に試用させる気じゃないよな?」
「いいじゃないか! 身内以外が使った感想を聞かせてもらいたいだろ!」
どうやら紹介料の代わりに作った武器を使った感想を聞かせて欲しいらしい。自分はそもそも使えないので困ってしまう。
「兄さん達は?」
「何でもは無理だけど使える武器なら」
「どうせ後アキの用事だけだしな」
「お~やるやる」
聞いてみると兄達は意外と乗り気だった。
武器をふるうのに室内では無理なので、と苦い顔をしたファイに案内されたのは店の裏にある広場だった。
「この辺の武器関係作る店は共同で使ってるのよ~」
「て事は皆どこも試験使用はするんだね」
「商品である以上納品前の確認作業は必要だもの。いくら自信作であってもね」
イルミアが試用の武器を持ちつつ説明してくれる。用意されているのは長さの異なる剣が数本と鉄甲、というかナックルが二つ、後は槍と斧だ。
「これ、いいな」
リツ兄が取ったのは普段使っている短剣よりも長く、見た事のある剣よりも短い刀身のもの。
「小剣か? これは剣の予備で持つ物だな」
「ふーん」
それを聞いてリツ兄はソウ兄に何か耳打ちしている。ソウ兄が頷いていたので、相談か提案だったのかな。
「俺このくらいの長さの刃があるナイフが欲しいんだ」
そう言いながら出したのは元の世界から持ってきていたサバイバルナイフ。大振りの物なので普段使う短剣よりもその刀身は確かに小剣に近い。
「借りて見せてもらっても?」
「どうぞ」
ファイのお父さんはナイフを色んな角度から見たり切れない様に刃に触ったりしている。
「この形状と同じ物を欲しているのかい?」
「そうだな……出来るだけ近い方が」
「ふーむ。試算だけど金貨二十枚程度見てくれたら近い品質で一本作れると思うよ」
「ホントか? 明後日発つからそれまでに一本でも用意出来んなら頼みたい」
「分かった! それなら詳細の見積もりを作ってくるよ。後はファイ任せたぞ!」
流石鍛冶屋さんだ。あれだけでどの程度の物か把握してくれたらしい。近い品質、というのは余程良い出来の物で全く同じには出来ないからと。神の力が働いているのだし仕方のない事かも。
工房へ走り去っていったお父さんに任されたファイはちょっと呆れていた。




