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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第2章:街での新しい生活
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40.次の町へ

羊たちに囲まれて大わらわだった翌日。


今日は朝からまた訓練をしている皆を見学していた。アヴィとリツ兄は武器を持っての打ち合いだ。剣と短剣がぶつかり合う度に金属音が響く。

「俺達剣の事は分からないけど、アヴィの腕はかなり立つんだろ?」

「自警団の同じ年の奴らじゃもう相手になんないなー」

ディルは昨日と同じくソウ兄に格闘の基礎を教わっている。弓が壊れた時に少しでも戦えるようにらしい。戦える手段は正直いくつ持ってても損はないから良いと思う。実際少し近接戦闘は身に着けているとかなんとか。


「アキくんもたまにはやる?」

「ん? うーん」

返事に困っていたら手を引かれて立ち上がる羽目になってしまった。肩に乗っていたゼーレはいつの間にかルスタの頭の上に移動している。察しが良い。


「ほらほら~。いいよ」

シュウ兄は距離を取って手をひらひらと振ってくる。この人基本的に構えなんて無いからな。一度深呼吸して、正常な方の足で地面を蹴り距離を縮める。軸を負傷した方の足に任せるけど、今日は割と調子が良い。横腹に蹴りを入れようとしたけど上手く流されたので体勢を整え今度は左拳を頭へ振りかぶるが躱された。自分がまずシュウ兄に攻撃を当てようなんて事が無謀なので問題はないが。


数回殴ったり蹴ったりを受け流されたり躱されたりして、もう一度、と左足を踏み込んだ時にいきなり力が抜けて前のめりに倒れそうになる。シュウ兄が受け止めてくれなかったら多分顔面を強打していた。

「おおぅ、危ないあぶない」

「ごめん、ありがとう」

支えられながら立ち直す。こういう事があるからなかなか杖が手放せない。またこけたら困るしこの辺で止めといた。シュウ兄も隣で伸びをしている。



「ぬぬ……」

「アヴィどうかした?」

見た事ない苦い顔をしたアヴィに声を掛ける。打ち合いはいつの間にか終わったらしい。

「リツが手加減してたのがとても悔しい……私の方が距離は取れるから有利なのに……むむむ」

「ああ……そういう」

確かに短剣と長剣じゃあ攻撃の距離は明らかに違う。それでも攻撃が入らないのが相当悔しかった様だ。リツ兄も短剣で戦う以上基本自分よりも攻撃距離の長い得物相手になるので、対策が完全に身についているし、実経験の差もあるのではと思う。

「アヴィは俺から見たら十分強いと思うけど」

「アキは優しい。でもリツと打ち合ったのはとても良い経験。またやりたい」

「俺はいいけどよ」

「次は絶対一度は当ててみせる」

ビシッと指を突き付けているアヴィに思わず笑ってしまった。向上心があるのは素晴らしい事なのだ。


全員ひと段落して、再び豪勢と言って差し支えない朝食をご馳走になる。

今日は一枚一枚焼いて積まれたパンケーキが中央に鎮座している。周りに置かれているのは腸詰や茹で卵、トマトソースで煮込まれたらしい野菜、果実煮に木の実をペーストにした物。サラダは大きいボウルにたっぷり入れられている。

「サラダにかけるソース、私が考えた。お勧めする」

「へぇ」

そう言われたのでサラダを皿に取りソースをかけ口に運ぶ。香草だろうか、感じた事のない不思議な風味と塩気がよく合っている。

「うん、美味しいよ」

「よかった」

アヴィは自分の反応に満足げにしている。自信があったのだろう。兄達も美味しいと言いながらサラダを食べている。

「アヴィ本当にピリーエの葉をソースにしたんだな……美味いけど……」

ディルだけは少し違う反応をしていた。



食後すぐに出発の準備を整えてアヴィの商会の職員さん達へ挨拶をしに行くと、上役の方だろう人に銀貨の入った袋を渡された。昨日採取していたあの花の代金らしい。

「あと情報料も」

「情報料?」

アヴィが付け加えてくれたが、採取可能な木の実類の情報も立派な報酬対象らしい。たまたま、というかゼーレが見つけてたものだから自分の成果ではないんだけどなあ。とは言え断るとそれはそれでややこしそうなので素直に受け取った。相場とか分からないけど、アヴィの家だしきちんと見てくれているだろう。

「移動は乗り合い馬車の予定?」

「そうだね。昼過ぎまでに着くつもりで乗ろうかなって」

「だと思って、隣町行きの馬車捕まえておいた」

「は?」

「うちの商会ではないのですが、ちょうど本日隣町に買い付けに行く商会がありましてね。道中の護衛依頼を元々出す予定にしていた様なので打診しておきました」

チェンダさんが説明を引き継いでくれたが正直疑問符がいっぱいだった。



「いやあ、紹介してもらえて助かったよ。なかなか受けてくれる人が見つからない事もあってね」

「自分達もちょうど隣町へ移動する予定だったので助かります」

アヴィの家とは別の、細工物や装身具等を取り扱う商会の馬車の後ろに兄達は乗せてもらい、自分はいつも通りルスタに乗って隣の、イルミアとファイの住んでいる町へ向かう。

道中は相も変わらず平穏で、ふと上を見上げると精霊が一人横切っていた。その直後にほんの少し風が吹く。

「おっと。珍しいね、風の精霊が通り抜けるなんて」

「そうですね……」

あの精霊は一体どこへ向かっているのか。

精霊を見かけた以外は特に何もなく、またのんびりとした道程だった。




町の門をくぐる前に一度ルスタから降りて資格証を出し、門番の人へ見せる。軽く目を通されすぐに返された。

「中央通りは昼市の最中なので通行には十分気をつけてください」

「はい」

広場から繋がる一番大きな通りは地面に敷物を敷いたりテーブルを設置して商品を並べている様子が見えた。あれが昼市の様だ。遠目にしか見えないが、食べ物以外の商品も多そうだった。

「この町は昼市が一番賑わってますよ。私共もよく掘り出し物がないか見回ってます」

「へぇ。楽しそうですね」

ギルドで手続きを終えて二人と合流出来たら少し見回っても良いかもしれない。


中央通りとは真反対の方向にあるギルドには既に二人が待っていた。

「やっほー。久しぶりニャ」

「依頼受けながら来るとはなあ」

「アヴィの気遣いというかね」

ソウ兄が代表して手続きに行っている間二人と少し雑談をする。

「橙に昇級したんですってね。おめでとう」

「うん。なんか急かされた」

「ある程度階級が上の方が融通してもらえる物事もあるからな。良い判断なんじゃないか?」

「イルミアたちは?」

「私達は今度アヴィとディルと合流して試験受けるわよぉ。ま、心配しなくってもちゃーんと同じ階級になってるから安心してニャ」

そう自信満々にイルミアは胸を張る。自分も四人が落ちる心配は全くしていないので頷いておいた。


「お昼まだでしょ?」

「腹へった~」

「昼市見るついでに腹ごしらえするかってさっき話していたところだ」

「見に行こうかなって思ってたところ」

「なら決まり! 折角だもの、色々見ると良いわ」

二人も同じようなことを考えていた。ソウ兄も戻ってきてそれで良いんじゃないかと言うので総意で昼市へと向かう事にした。

尚ルスタは後ろからついて来させる分には一応問題ないとの事なので手綱を握って移動になった。それなりに置いていかれがちなルスタはちょっと喜んでる様にも見えた。



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