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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第1章:迷い込んだ『異世界』にて
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6.新たな出会いと行先と

女の子は女の子で自分達の存在を認識したらしくこちらに逃げる方向を変えながら助けを求めてきた。

で、その女の子を追いかけているのはというと。


「馬だね」

「馬だな」

馬、ではあるが見た事のない毛色をしている。森の緑に近い深緑の毛と、記憶しているよりも大きい体。このくらいだったろうか。

近付く程その大きさがやはり記憶にある馬よりも大きい事が分かる。このまま突っ込まれるとただでは済まなそうだ。

「おりゃー!」

突っ込んで来る馬の様子を見計らってシュウ兄が足払いを掛けていた。人間の攻撃程度ではビクともしなさそうな体躯だと思ったが、上手く攻撃が入ったのか前脚がぐらついた。

「野生の馬っているんだな」

感心しながらリツ兄が倒れかけ踏み止まろうとした馬の横っ腹に蹴りを入れると、馬はそのまま倒れ込んでしまい体勢を整える事が出来ず、そのまま二人に追い打ちをかけられていた。情けない鳴き声を出している。


「は、はわぁ……」

追いかけられていた女の子はというと何故か自分の背後で倒れ込んでいる馬を恐る恐る見ていた。

起き上がれない様に踏みつけられたままの馬はもう抵抗する気配がなさそうだ。

「あ」

「どうした?」

「この馬アキくんの乗り物にすれば?」

「お、それいいじゃん」

兄二人がまた何か言い出してしまった。

自分達そもそもろくに生き物なんて世話をした記憶がないんだけど。あと馬にも大して乗った経験がないし。


「止めてソウ兄」

「いいんじゃない? 乗れば歩くの楽になるでしょ」

ソウ兄はそんな二人を見ながら笑っている。もう味方がいない。

「み、皆さん強いんですね! 魔物をこんなに簡単に……」

困り果てていると背後の女の子が唐突に会話に入ってきた。

「そういえば、なんで追いかけられてたんだ?」

「私が……あっ私セーナと言います! 私がキュリルスタングの縄張りに入ってしまったみたいで……」

「この馬の?」

女の子、セーナは頷く。

この馬、魔物?らしいのだが基本は温厚で好物は薬草。今回はその薬草の群生地をこの馬が縄張りとしていたが、それをセーナが知らずに入ってしまった事で怒りを買った為追いかけられていたと。

「攻撃性は低くても魔物ですから……もし蹴られたらひとたまりもないですよ」

「怪我しなくて良かったな」

「はい! ありがとうございました!」

笑顔で御礼を言われた。自分は何もしていないので兄達に御礼を言ってもらおうと思ったら。

「アキくんほら乗りなよ」

シュウ兄が馬を押さえつけながらこっちも笑顔で手招きしてくる。

「今?!」

馬は心なしか諦めている雰囲気だった。近くで見るとやっぱりデカい。

「こっちは怪我とか、してないのか?」

攻撃を受けていた前脚や腹部を撫でてみるが特に目立った傷は無い。丈夫なのだろうか。それともぱっと見分からないだけで内部にダメージがいっているのか。撫でても嫌がったり威嚇する様な素振りはなかったので少し安心した。

尚兄達の方は別段攻撃の反動による痛みとかもなさそうなので敢えて何も聞かなかった。

「魔物を手懐けるなんてすごいですねえ」

「手懐け……?」

暴力で屈服させたの間違いではなかろうか。


「……乗ってもいいか?」

一応馬の方に聞いてみる。人語を理解しているかは分からないが座ったままで鼻を鳴らしていので、とりあえずたてがみを掴み横坐りの形で背に乗ってみた。鞍がないと少し安定感に欠けるが乗り心地は悪くない。座って体勢が落ち着いたのが分かったのか馬も立ち上がった。

「おお……」

思った通り見える景色は普段より高い。馬は勝手に動き出す様子もないので多分指示待ちなんだろうと思う。


「大丈夫そう」

「そしたら移動するか」

「皆さん何処行くんですか?」

「とりあえず森を抜けようかと思って歩いてたとこだよ」

それなら! とセーナの耳がピンと立つ。

「良かったらうちの村に寄りませんか?」

「えっ。でも〜……怪しまれない?」

「旅人さんとか討伐に来る人とか、人の行き来は結構ありますから」

住民本人がそう言ってくれるのならお言葉に甘えようかという結論に至る。が、その前に。

「お前が縄張りにしてた所に行ってもいいか?」

馬に話しかけてみると一鳴きして歩き始めた。


「えっえっ」

「セーナは薬草取りに来たっていうし……どうせ連れてくなら縄張りの物少し取ってもいいかなと……」

ついでにどういう物が薬草なのか見ておきたいという気持ちもある。

「あと薬草の事教わりたいかな……」

「俺も少し気になるな」

「わ、私で良ければ! 恩返しに!」

そんなに大仰にとらえて貰わなくても良かったけど。

あと少し気になるのは彼女の腰に着けてある武器。弓みたいだけど持ち運びの為か折り畳まれている。

「セーナちゃんは弓使えるんだ」

「森の中で狩りをするのは村の生業ですから。と言っても私は薬師の方が本業なのでこっちは半人前以下ですけど」

折畳み故に強度は下がるが、近場の小さな獣相手なら十分との事。流石にこの馬は無理だろう。ソウ兄は興味あるみたいで実際使っているところを見てみたいと言っていた。


十分程歩かせると開けた場所に着いた。自分達には分からないがセーナに聞くとどうも薬草の群生地らしい。馬に降りたい旨を伝えると乗る時と同じ体勢になってくれた。

「根っこごと掘り返して、家の畑でも育つか試すんです」

「へぇ」

薬草畑も作っているそうだ。あるか分からない自生の物を探すよりは自家栽培出来る方が合理的だし緊急対応もしやすいからなあ。

もののついでとセーナは折畳みの弓を組み立てて使い方を説明してくれた。途中運良く兎が出たので実践も兼ねた。ソウ兄も弓を借りて試しに射っていたが飲み込みが早いとセーナは随分感心している様だった。


「お前の食べる物、取っていくか?」

馬に話しかけると取るべき草をちゃんと教えてくれた。摘んだり、根ごと抜いてみたりしているとセーナが薬草の事を教えてくれる。野草の事も聞いて合わせて採った。

結局その後に狩りも行なって、随分荷物を増やした後村までの案内をして貰った。

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