余話:出発前日の小話
ちょっと小話です。
昇級試験も無事終わり、後は出発前の準備を終わらせるだけとなった翌日。休暇を取って自分は朝から教会へ向かっていた。
教会前ではリレイさんが掃除をしていた。
休暇の際に行ける時は足を運ぶ様にしているが、リレイさんはいつも教会前を掃除している。日課なんだろうがいつも一人でやってるな、他の人いないのかな、と考えてしまう。余計なお世話だなこれ。
「おはようございます」
「おはようございますアキさん。朝の礼拝ですか?」
「それもあるんですけど、しばらく国内を回るのに街を離れるので挨拶をと」
「それはありがとうございます。子供達にも良かったら会って行ってください。呼んでおきますので」
「はい」
ルスタの事を慕っている子供達にはちゃんと挨拶しておかねばと思っていたところだ。
教会の中へ入るとリズルがすかさず、と言っていい具合に現れる。
『アキ殿、この街を離れられるのですね』
「しばらくね。俺達なかなか旅行なんてしないから」
『皆様がこの国を見回って気に入って頂けると嬉しいです』
「気に入ってるつもりだけど……ていうかリズルはどうせ道中も会うんじゃ」
『私は皆様に伺える時を見計らってお伺いしますよ!』
「だよね……」
自分は別にいいんだけど。
外へ出るとリレイさんと子供達以外に壮年の男性が一人いた。挨拶するとリレイさんからこの教会の長だと教わった。子供達は相変わらずルスタに話しかけたり触ったりしている。
「一度お顔を拝見したいと思っていました」
「俺そんな大層な者では」
「ええ、貴方が穏やかな生活を望まれているのは聞き及んでいます。私共も侵害は出来ませんし……」
聞き及んでるって事はリズルが何か神託という形で伝えたのだろう。長であるこの男性は所謂加護持ちで神託をもらえる立場なのか。穏やかそうな雰囲気で実際話した感じも穏やかな人だ。
「街を離れられるそうですね」
「はい。国内を少し回ってみようと思ってます」
「もし立ち寄った街町で時間があればで構いませんので、教会へも顔を出して頂けると我々も嬉しく思います」
「可能なら行ってみますね」
この教会は街の規模もあってか大きく立派だけど、他の町はどうなんだろうか。少し気にはなる。
「魔物もお出かけ?」
「うん。俺の足代わりだから歩いてもらわないと」
「がんばれよー」
子供達の激励にルスタは軽く鳴いて返事をしていた。
二人と子供達に挨拶をして、今度はジョーさんのお店を訪ねる。ちょうど店先にジョーさんが居たので挨拶した。
「お、どうだ鞍の調子は」
「人側は特に……ルスタの方は分かんないですね」
「よしよし、それなら少し見てやろう」
再び店の外に出るとルスタも状況を把握した様で、ジョーさんが鞍を確認していくのに動かずにじっとして、気になる所がある時は鳴いていた。
「大分良いみたいだな、少し直しをしたらもう完璧だろう」
「毎回すいません」
「なに、より良い状態の物使ってもらうのが俺らにとっても一番だからな」
すぐに修正してくれるというので、断りを入れて少し作業を見せてもらうことになった。別の作業をしていたお弟子さんらしい男性に挨拶すると、珍しそうに見られてしまった。
「作業場にお客さん来るなんて珍しいですね」
「普通は入りませんよね……」
「入りたがる客もそういねえからな」
ジョーさんは雑談に加わりながらも作業の手は止めない。今回はルスタの体に当たる部分を違和感無い様に微調整してくれている様だ。
「職人さんの作業見るの初めてです」
「面白いか?」
「はい。後はやっぱりすごいなって思いますよ」
自分はあまり器用な方じゃないから、職人には向いてないし。適材適所、とは言うけど何にも向いてる気がしない。
「俺からすりゃあんだけ魔物聞き分け良くさせてる坊がすげえと思うがな」
「あっこの鞍こないだ皆で作ったやつなんですね。特注久しぶりで盛り上がりましたよ」
「み、皆でですか?」
お弟子さん曰く、普段は既製品やある程度決まった形の物を分担で作っていて、特注の場合は設計など新規に進めるので店の皆で話し合って作っていくという。ルスタの馬具には色んな人が関わってくれたらしい。
「良い勉強にもなりましたし」
「それは良かったです」
その後もお弟子さんと少し話をして、ジョーさんの作業が完了したのでルスタに確認してもらう為に再度外へ出た。装着してルスタの様子を伺うが満足げだった。自分が見た限りでは。
「よーしこれで完璧だな」
「ありがとうございます。しばらく街離れるけどこれで安心です」
「お? どっか行くのか」
ジョーさんにも国内を少し回ってくる事を伝えると楽しんで来いと返された。折角だしお店宛に何かお土産とか買って来たい。
中央区で軽く昼食をと思ってルスタの手綱を引き歩いていると、アンジェさんとエンゼさん夫妻に声を掛けられた。
「アキさん一人と一頭と一羽ですかぁ?」
「そうです。お昼でも食べようと思って……」
「なら一緒にどうですぅ?」
エンゼさんからも是非、と誘われお言葉に甘える事にした。二人について大き目の食堂に入る。ルスタは店の横のスペースで待たせてもらう事にしたので、薬草を少しあげた。
「アキさんしばらく街を離れるんだってね」
「はい。ただ仕事は適宜受けようかと思うので、多分薬草も納品すると思います」
「助かるよ。別の街町でも採取依頼は常に提示されてるから」
テーブルには注文できる料理のリストがあって一応目を通したが、頼む料理は二人にお任せした。
「アキさん達って料理作る割には詳しくないんですねぇ」
「そうですね。居た所じゃこんなに種類あった訳じゃないし」
そういえば以前一緒に食事した時も任せちゃったっけ。店員さんが運んできてくれたサラダをすかさずアンジェさんが取り分けてくれた。ゼーレがおこぼれ欲しさにテーブルに降りて来たので少し葉をちぎってやる。
「小鳥の魔物なんて珍しいなあ。前に試験の時キュリルスタングの頭に乗ってるのを見たよ」
エンゼさんはテーブルで懸命に葉をついばんでいるゼーレを眺めている。小型の魔物を従えてる人はいれども流石にゼーレくらいになれば珍しい様だ。手乗りサイズだし。
料理はどれも取り分ける物で、既に一口大に切られた肉、円形の薄いパンの上にソースや具材が載った料理、大きなオムレツがテーブルに運ばれてきた。薄いパンも切り込みを入れられてて、取ると溶けたチーズが伸びる。
「美味しいです」
「たまに食べに来るんですぅ。良ければお兄さん達ともどうぞぉ」
「はい。来てみます」
二人にはこの街の近隣の情報を色々教えてもらった。時々長期休みの際は国外へ旅行に行ったりもしているらしい。そういう生活も良いな、と思う。
薬師の組合に挨拶へ行こうと思ったけど、エンゼさんが伝えてくれるという事だったのでお願いした。
二人と別れ、中央区の広場にあるベンチへ腰掛けた。広場には噴水があって時々水が噴いている。噴水を覗くと貨幣が散らばっていた。多分願掛けとかしているんだろう。
「良い旅になると良いな」
自分も一枚銅貨を取り出し、噴水へ投げた。




