33.試験の課題Ⅱ
※ソウさんの視点でお送りします。
ギルドから試験の課題として提示された迷宮の探索。内容としては下層の魔物を倒して素材を回収する事だが、目的の階層は自分達が未踏の場所である。
「ま、別にやる事なんてそんな変わんねえだろ」
「そうだな。普段やってる事と大差ない」
今回は二手に分かれて依頼をこなさないといけない為、地上での依頼をこなす弟二人が少々心配ではある。
「今回なんで俺と組むわけ?」
「そりゃあ……シュウの手綱ずっと握ってるの疲れるから」
「おいおい」
リツは呆れ顔だが、これは本音半分だ。シュウは頭で考えるよりも直感的に体を動かす事を得意としている。実力は確かなので単独で動いてもらうなら全く心配する必要もない程だが、組んだ場合は放っておくと何をしでかすか分かったものではない。こっちが指示を簡易的にでも出して動かす方がまだ先が読めるから普段そうしているにすぎない。
「シュウは正直アキに任せた方が大人しいからね」
自分やリツといると多少好きにやっても良いと思っているのか自由に行動している場合が多いが、アキといる時はやる事がある以外あまり側を離れない様だ。一応兄として弟の面倒を見ているらしい。
「アキに任すっつーかアキを任すっつーか」
アキはアキで少々目を離せない所もある。少し考え事が多かったり周りを見ていなかったりボーっとしているというかのんびりしているというか。今は常に側にルスタとゼーレがいるので自分達が多少気をそらしていたとしても問題がなくなったので良いが。
「それに迷宮なら罠を早く察知してくれるリツの方がいい」
「俺はいいけどよ」
話をしている内に街の正門へ辿り着いた。迷宮の管理室へ顔を出して一旦出現する魔物の確認もしなければならないしなるべく最短で効率良く目的階へ行きたいものだ。
「お。お前らはアキ坊の兄貴達じゃねえか」
「おや。ジョーさんお久しぶりです」
皮革職人のジョーさんとばったり会った。鞄ひとつの身軽な恰好をしているが、恐らく鞄にかかった魔法のせいだろう。尋ねると商品の納品と次回の商談に隣町へ行っていたと。
「そういやこないだの依頼、礼を言ってなかったな」
「先日の……ああ。残念ながら俺達が受けたわけでは……」
「なに? そうか別に新人がいたか」
ジョーさんが依頼したいと言っていた迷宮の素材の依頼、自分達が知らないうちにどうも完遂された様だ。同時に心当たりを思い出す。
「俺達には同期がいるもので」
「あー。アイツらは探索やりたいって言ってたもんな」
「そういう事か。まあ俺は素材の不足がなくなりゃいいんだ。直接頼めるようになったら今度こそ頼むぜ」
「はい。その時はアキに言ってやってください」
アキは思いの外街で会った人達に気に入られていると思う。自分達より圧倒的に交流の幅が広いのもあるだろう。ジョーさんもアキの事を気に入ってくれている一人だ。挨拶をしてジョーさんは乗り合い馬車で店の区画へ戻って行った。
さて。件の迷宮へ潜ると前回と変わらない景色が広がっている。表層には全く用事がないのでリツと走りながら目的階を目指す。
「前に出て来たのだけ適当にやっとくか」
「そうだね。後は戦闘が避けられない階で拾える物だけ拾おうか」
軽い会話を挟みつつ、適当に飛び出して来た魔物を短剣で斬ったり蹴飛ばしていく。今回弓を使う機会は十ごとの階層くらいだろう。
普段はアキの足の事もありのんびりと歩いているか背負って行くが、今日はそれもなく、相方が付き合いの長いリツなのであまり周りを気にしなくて良いから思い切り体を動かせる。
「兄貴一人でも普通にやり遂げられそうなもんだけどな……」
「出来るかもしれないけど……あんまりそういう事して評価変えられるとねえ」
有り体に言って面倒くさいのだ。いや、能力を認められるのは良い事なのだが。
適当に雑談を交わしながら進んでいると、気付けばもう十階層まで下りて来ていた。
この階層の亜人は突出した能力も無く遠距離から攻撃してくる事もない。言ってみれば多少戦闘力のある人間と似た様なもの。死地をくぐり抜けてきた自分達からするとこの対人戦に苦戦する要素が見当たらなかった。
「急所が人とほぼ同じと考えていいから楽だ」
「その程度で楽って言い切る兄貴の神経はどうかしてるよ」
「まあ、そりゃ狙う必要はあるけどさ」
戦闘中もリツとこんな事を話しながら亜人を倒していき、全滅させたのを確認して散らばって落ちている物を拾っては腰に着けているポーチへしまっていった。
十四階層まで来ると、以前は対峙する事のなかった魔動人形が普通に襲ってきたので攻撃を躱してそのまま通過した。流石に土や岩の体に対して短剣や弓だけでは威力が心許ない。それこそアキが魔法でも使ってくれた方が楽だ。いつかの機会に一度相手をするのも勉強か。
十五階層へ降りて昼休憩を取り、未踏の十六階層へ向かう。此処は鬱蒼と木々の生い茂る場所の様だ。道ははっきりとしているので横道に逸れる心配もない。目の前に来たものだけを変わらず倒して進む。魔物は動物型が多く上の階層に出る虫型よりは余程戦いやすい。
一応さっき時計を確認した限りでは予定より少し早い位のペースで進めているので、ここからは倒した魔物の素材類を持ち帰る様に方針転換した。
「二十階層まで行って帰るなら夕方位かな」
「そうだな」
『お二方もうこんな所にいらっしゃったのですね~』
横を向くとリズルが来ていた。
「アキならいないよ?」
『まあ。存じていますよ。アキ殿とシュウ殿から伝言を預かってきたのです』
リズルの言い分だと先に弟二人と会って来たらしい。一応二人の様子がどうだったか聞くと、予想外の事に見舞われた様だ。怪我がなくて何よりだが。
『それで、アキ殿とシュウ殿は街に戻られました。私も森を出るまでは同行を願い出たのですが、お二方への伝言を依頼されましたのでこちらに』
「二人共無事終わったんならいい」
『お二方はまだまだ下層へ?』
「そうだよ。夕方までに二十階層の魔物片して帰ろうと思って」
『然様でしたか。その様にお伝えしておきますか?』
意外にもリズルは伝言だけ持ってまた戻るつもりの様だ。いつもの感じだと同行してきそうなものだと思い込んでいたが。
「ああ。それでいいよ」
『伝え終えましたら戻ってきますね!』
「あ……そう」
やっぱり同行するらしい。
十七階層を歩いているとリズルも戻って来た。一応今回はギルドの試験の為魔物を倒しているので加勢は不要だと伝えると了承してくれた。
『こちらでの生活はどうですか?』
「不便はねえよ」
「寧ろ元の世界より良い生活をしてるかな」
『そうなのですか?彷徨人の方からは元居た世界の話をよく聞いていると他の管理者は言っていましたが、私も伺っても良いですか?』
リズルは少し遠慮がちに聞いてきた。こちらに来た頃簡単に話はしていたがあまり仔細を語ってはいない。隠す事でもなく、他に聞かれる心配もないので進みがてら話をした。話をしながらも魔物は倒していたが。
「――と、そういう事があって逃げ出すに至ったんだよね」
『簡単にはお聞きしていましたが、追手が来ないだけでも楽だとおっしゃってた意味がよく分かりました』
経緯を話し終えるとリズルは深く頷いていた。前から思っていたけど彼女は神という別次元の存在とはいえ人と遜色ない反応をする。他の大陸にも同じ様に神がいるらしいが彼女と似た様な者なのか。
二十階層へ降りると少し空気が変わる。これが終われば帰還するだけなので武器を再確認し、リツと例の部屋へ入るタイミングを伺い扉を開けた。
そこに居たのは十階層でも倒した豚頭の亜人達と、一頭だけ牛頭の亜人が居た。ざっと武器を見てみると弓を持っている奴がいるので先にこちらも矢を射って先制する。
「リツ、デカいの叩いてきてくれる?周りのは倒しとくから」
「了解」
リズルは伝えた通り加勢はせず離れて見守っている。まあ、仮に何かされていたとて自分には分からない。
牛頭の亜人はリツに任せて豚頭の亜人達を一頭ずつ倒していく。亜人は武器を扱ってはいるものの技量は稚拙と言っていい。振りが大きかったりと隙を見つけやすい為、一対一へ持ち込めば倒すのは容易い。もっと下層になれば武器の扱いも長けてくるのかもしれないな。
「……よし、終わり」
「こっちも終わったぜ」
リツはひらひらと手を振って近付いてきた。早々に倒して落とした物を回収していたらしい。
『以前から思っていましたが皆様はお強いんですね』
「うーん指標がはっきりしないからそうだとは言えないけど、元々の経験を生かしてはいるね」
『彷徨人の方で戦える能力が元からある方はそう多くない様なので……』
「ふーん」
事故的に世界が繋がる事を考えると、ただ普通に生活してる人間の方が圧倒的に多いのだろうか。
落ちている物を全て回収し終え、帰還出来る装置がある部屋へ向かうとポツンと箱が鎮座している。
「リツ、これは罠?」
「罠は無さそうだな。開けとくか?」
頷くとリツは躊躇なく箱の蓋を開ける。覗き込むと中には見覚えのある様々な色の石と、装身具の類であろう腕輪やネックレスが数個入っていた。
「リズル何かしてる?」
『私は迷宮の事には関与出来ませんよ……?』
ついリズルを疑ってしまったが、違うらしい。一応この迷宮じゃ宝石類が手に入るとは言われているので怪しくはないが。
「困ったな。こんなもの拾う予定じゃなかったのに」
『お嫌なのですか?』
「金銭的な方面からは助かるんだけどねえ」
何より宝石類となると、例の人が出てくるので。
「よし。これの納品はアキに任せよう」
「ひでえ兄貴だよアンタはさ」
こういう時物怖じしないアキの事が少し羨ましいとは思うが、適材適所である。




