31.相談事
こっちの世界に来てから日数で言うと二ヶ月程経過した。
その間に拠点にしている街での生活には随分と慣れた。人付き合いもそれなりに多いし多少はこっちの世界に馴染んだと言っていいものだろうか。
「それで、お前達は今後どうする?」
ギルドの応接室。ウィドさんから話があるのでと招き入れられた。
ギルドで長期滞在を許可してもらって、その最長期間は三ヶ月。居住権を得て改めて生活するにはまず税金を納める必要がある。他にも現職業の開示と所属証明やら、国外どころか大陸外の人間という事になっているので保護責任を請け負ってくれる人の確保やら。他にもいくつか手続きがある。今までも曖昧だったのでそんなに気にしてなかったけど、国に所属し住むというのはかなりの手間だったんだと思う。
「ちょっと旅しようかなって~」
「ほお?」
「俺達はまだこの国の事をほとんど何も知りません。少し見聞を広める為にも国内を見て回ろうと思って」
「いいんじゃないか? 街に来てからずっと仕事してたしな」
ウィドさんは意外にも賛成してくれた。自分達が国内を出ないのであれば自由にしても良いだろうという見解らしい。
「何、国外に出るつもりなら全力で阻止する気だったが国内旅行程度ならいいだろ」
俺はお前達の親でもないし、と付け加えられた。
国内を回るにしても、特に旅程を決めている訳ではない。アヴィ達が町に観光に来てくれと言っていたからそちらを先に行くのが優先事項ではある。ウィドさんに相談すると国内の地図を広げて旅程を大まかにいくつか立ててくれた。
「ウチの国は畑や森が半分以上占めてるからどこも街町は規模デカくないんだ」
確かに地図には森の表記が多い。山は存在せず基本平坦、街道も整備が進んでいて、大体半日から一日程度で次の街町や村に着く為、仮に徒歩で旅行しても大変さは少なそうだ。
「一月もあれば国内位はゆっくり見回っても戻ってこれるだろう。移動は馬車を使う方がいいと思うがな」
馬と荷台を借りて自分達で管理するのも有りだとの事。ルスタも引っ張れるかもしれないが一頭でそんなに酷使したら可哀想だ。
「キュリルスタングでも引ける事は引けるが……荷馬向きじゃないからなあ」
「そもそもルスタはアキの足なので」
「そーそー。アキくん運搬してくれればいいの」
自分が荷物か。まあ間違ってないかも。
「やあやあ元気に迷宮探索してるかい?」
ウィドさんとの話もそこそこに受付で依頼を精査してもらっていると、後ろから声を掛けられた。振り向くとクレイースさんがにこやかに手を振っている。
「いえ全然」
「なんでよぉ! 探索して!」
この人はいつ会っても外見と話口調の差異がすごい。口を尖らせているクレイースさんにウィドさんは呆れながら用件を聞いていた。今日は単に商業組合からギルドへの依頼案件の持ち込みらしい。
「アキ達もウチの依頼受けてちょうだいよお」
「お。確かにいい機会だな。試験も兼ねて受けてみないか?」
「試験?」
ギルドの試験と言うと昇級の試験一択だろう。つい最近階級上がったばかりのような気がするが。
「地下迷宮の探索と地上の依頼、二手に分かれて請け負ってもらう」
「それが試験内容ですか?」
「ああ。戦力を分断した際の力量を見る為のモンだ。ついでに言うと一人でやってる奴は一人向けの試験があるぞ」
ウィドさんはクレイースさんが持っていた依頼書を確認して一枚を抜き取ってソウ兄に渡している。
「こっちとしちゃ能力が高いのを分かってるお前達をさっさと昇級させときたいしな」
そう言って笑っているウィドさんは結構本気で言っているようだ。
「独断でやっていていいんですか?」
「そもそも階級って信用の度合いも含むんじゃねえのかよ」
ギルドの階級付けは信頼度に重きを置かれている。戦う能力は二の次とは言わないがある程度の階級まではそんなに重要視されてはいないらしい。
「これでも長の許可は取ってるし、お前達の評判を考えると階級ひとつ上げる位は何も問題ない」
「期待の新人だねえ」
ここまで言い切られると自分達もそれ以上拒否も出来ず、なし崩しに受ける手はずになってしまった。
「クレイースさんって国内は詳しいですか?」
「うん?仕事上どの街町や村がどういう特産物を扱ってるかは熟知してるよ」
聞くとそう返答がきた。流石商業組合の役員さんだ。
「ちょっと国内を旅行する予定なので有益な情報が聞けたらと」
「へー仕事ばかりしてる君たちがねえ。いいよー教えてあげる!」
クレイースさんは颯爽といなくなったかと思うと直ぐ戻って来た。手には冊子や書類がある。
「普通に旅行程度なら観光情報の方がいいかと思ってさー」
商業組合は観光業も担っている様でこれを参考にすると良いとまとめて渡された。
「良い旅を! あとお土産をよろしくねぇ」
「もう見送られた~」
「その前にちゃんと試験受けてけよ」
ウィドさんには釘を刺されるのだった。
あの後貰った試験の為の依頼内容書類に目を通した後、雑貨屋で買ってきた国内の地図を家で広げる。
「えーと。ここが今居る街」
ソウ兄がペンで街の名前に丸を付ける。街町はともかく、村には名前はないらしい。神の眷属が管理している森には表記があるからそのすぐ横にある村が多分セーナ達の村だ。
「で、旅程の最初を考えるなら言ってた通りこっちに向かう事になるかな」
ペンの反対側でコツ、と叩いた方向の町。アヴィ達の町である。
「セーナちゃんとこも行く前に顔出した方がいいのかな〜」
「真反対になるからなあ。いっそ戻り際の最後に寄るか」
「余裕持たないとまたアキが捕まるぞ」
呆れ気味のリツ兄が言う事、自分も正直否定できない。また勉強会が始まりそうだ。
街町や村の間は徒歩でも一日かければ到着できる距離だ。先日の様に乗り合い馬車を使用すれば半日もかからずに到着する。そう広くはない国内を少し見回る位であれば一ヶ月もかからないかもしれない。
「急ぐ旅路でもなし。仕事しながらでも進めそうだね」
「路銀がどの位いるのかわかんねえしな。依頼受ける程度はいいだろ」
「さんせー」
基本ギルドは街町にあるので時々仕事を請け負いつつの旅になる。
「皆に連絡入れないといけないね」
「ギルド経由で入れられるって言うから明日行ってみる」
「じゃあアキとシュウに任せるよ」
明日自分とシュウ兄は地上で依頼をこなす。地下迷宮へはソウ兄とリツ兄で行ってきてくれる。迷宮での探索も前の様に突っ切って目的階へ向かえばそんなに時間を取らないだろうとの事。
「気を付けてね」
「お互いにね」
良い副題が思い浮かばなかった……。




