30.新人とトラブルⅡ
街に戻り乗り合い馬車を捕まえて借家のある北区へ戻ると、もう時間は夜に差し掛かっている。街灯の明かりが灯り始め、空は闇色に包まれていく。
夕食の相談をリツ兄としながら歩いているとお隣のスノーさんが小走りにこっちへ向かってきた。
「ソウ君達今日は遅かったのね」
「何か用事でしたか?」
「私じゃなくて討伐者組合がね。手紙預かってるから渡しとくわね」
スノーさんは手に持っていた封書をソウ兄に渡していた。内容は恐らく先の依頼重複の件だろうと思う。
「ありがとうございます」
「いいのよ。組合の方は急ぎみたいだったから朝一番に訪ねる方がいいわね」
「そうですね」
夕食後ギルドからの封書を開封すると、書かれていたのはやはり依頼の件。何やら自分達に直接確認したい事がある様だ。
「俺たちにまで魔物の件を確認するって事は……会った二人が何か言ってたのかな」
「変な濡れ衣着せられてなきゃいいな」
自分も流石にそこまでされるのは心外だな、と思う。
翌日、朝一からギルドへ向かうとアンジェさんに声を掛けられた。
「あっ。皆さん待ってましたよぉ」
「やっぱり昨日受けた依頼の件ですか?」
「ですぅ。統括呼ぶんで座っててくださいねぇ」
ウィドさんが話を聞いてくれるらしい。上の立場の人まで出てくる様な案件なのか、単にウィドさんが首を突っ込んでいるだけなのか。今までを踏まえるとなんとなく後者かも。
いつもの応接室に通されて早々、ウィドさんから話を切り出される。
「依頼の重複については時々あるんだ。これはすまなかったな」
「いいえ。新人さんの失敗はまあある事でしょうから」
誰にでも失敗はあるものだ。不慣れな新人さんなら尚更。ギルド側も強く咎める事は無く、再発防止の指導だけを行って終わったと言う。
「討伐者の命にかかわる……それこそ渡す依頼書間違いなんかは罰則が発生するが、単なる重複はな。討伐者同士かち合う程度で終わるからまだいい」
「依頼は完遂されましたか?」
ソウ兄の問いにウィドさんは眉をひそめる。
「おいおい……分かって聞いてるだろ。アイツらが単なる死体を持って帰って来たって事」
「勿論。一応注意したんですよ」
ソウ兄は言いながら肩をすくめた。
魔物の死体を持ち帰る事自体に罰則は無い。自分達にも覚えがあるし。自分達の場合は神獣と呼ばれる神の眷属が倒していた後だったし依頼してくれた村の人もそれをよくわかってくれていた。
今回は、別の魔物の可能性が示唆されていてそれを放置して戻る様な真似をしてしまったから良くないのだと言う。
「依頼の重複もあった案件だから、お前達に急ぎ話を聞きたかったんだ」
「結論だけ言わせてもらえると、同じ姿の魔物はいました」
「やっぱりか」
ウィドさんは溜め息を吐いた。ギルド側も持ち帰られた死体を見て同種の魔物がいるであろうと推測していた様だ。彼らはそれを追及されて素直にありのままを報告したらしい。同時に自分達と現地でかち合った事を伝えていたのだと。
「お前達で良かったのか悪かったのか……」
「少なくとも俺達は良くねえよ。こんなんばっかだ」
リツ兄は溜め息を吐いてるが、少々のトラブルや例外みたいなものによく当たるなあとは思う。
ウィドさんによれば二人も午前の間にはギルドに足を運ぶので待っていて欲しいとの事。
昨日の二人を待つ間、少し時間が空きそうなのでウィドさんに断りを入れ薬師の組合へ向かう事にした。行く理由を説明すると快諾してくれたのでルスタに乗ってすぐに向かう。仮に自分がいなくても話し合いに支障も問題もない。
組合の受付には先日試験の時に対応してくれた男性、アンジェさんの旦那さんがいた。
「おやアキさん、おはようございます」
「この間はお世話になりました」
「こちらこそ。先日組合員の護衛を引き受けてくれたのはアキさん達だと聞いてますよ」
アンジェさんから色々話を聞いている様だ。名前を聞きそびれていたので教えてもらう。エンゼさんというらしい。
「何か用事でしたか?」
「薬の材料なのかの鑑定を依頼したくて」
鞄から木の実を袋詰めにしたものを取り出す。そのまま手渡すと断りを入れて中身を確認してくれた。
「キュリルスタングがいて鑑定を依頼するのは珍しいと思ったけど……なるほど」
エンゼさんは木の実を一粒取り出し、拡大鏡で観察している。
「テナの実だね。色々使い道の多い木の実なんです。これは全部受け取っても?」
「構いません。俺は実を使った調薬は分からないし……」
木の実や花、魔物の血液等の素材を用いた薬の作り方はもっと上の階級からになる。自分が持っていても持て余してしまうので組合に納品した方が余程良い。
「では受け取らせてもらいますね」
エンゼさんは袋を持って奥に引っ込んでいった。少し待っていると袋と封書を持って戻って来る。
「思ったより数が多いのでお時間もらえますか?報酬受け取りはこの封書を持ってきてください」
「分かりました」
「アキさんは新人なのに貢献度が高くて感心してしまうね。上層部でも話題になってるよ」
どうもエンゼさんの話によると、採取の方面でこんなに活動している新入りというのは珍しいのでつい話に上がる様だ。
「そういえば俺も新人の立ち位置なのか……」
言われてやっと自覚する。討伐者としてもまだ駆け出しだ。ギルドの新人さんを応援している場合でもないな。
ギルドに戻ると皆の姿は無かった。受付の人が訓練所に出てますよ、と教えてくれたので外からルスタを引いて様子見に行く。
「お、アキ戻ったか」
「……何があったんですか?」
ウィドさんに一応尋ねたが、二人と手合わせしたんだろうなという事だけは一目でわかる。
「二人が実力を見せろって言うから……シュウに任せたらいいかなって」
ソウ兄はしれっとした顔をして答えてくれた。当のシュウ兄はというと、倒れた二人をつついて起こそうとしている。二対一でやって特に何事も無く勝利した様だ。
「対人で俺らがそうそう負けるわけねえだろ」
「そこは心配してない……どっちかというと先輩二人が心配」
ルスタを引いて二人の方へ向かう。ルスタを促すと、何も言わずに、というか鳴かずに治癒してくれた。二人からは御礼を言われた。
「うぅ……まさか黄に負けるなんて……」
「階級だけで実力を判断するのは浅慮だって学んだか?」
ウィドさんは笑いながらそう言って、二人と少し話をしていた。この人はこの人で結果を分かってて好きにさせたのかもしれない。話が終わるまでの間兄達と少し雑談を交わす。
「薬師の組合はどうだった?」
「採って来た数が多いから後で報酬受け取りになった」
「あれも使い道あんだな」
「うん。結構色々あるみたい」
調薬材料としての木の実は薬草とはかかる手間が違うから依頼も一応設けている程度だが、もし見つけて採取出来そうなら今後もお願いしたい、とエンゼさんは言っていた。
「罰則については一週間の迷宮探索禁止。その間きちんと依頼をこなす様に」
「分かりました……」
「一週間後に迷宮バンバン潜るしかねえな」
ウィドさん達の話も終わった様で、二人も言い渡された罰則に異議も無さそうだった。
「そんなに迷宮に行きたい理由が?」
「あー……実は親父が探索で怪我してさあ。怪我自体は治ってきたんだけど痛みが取れねえんだって。だから金稼いで治癒院で治して来てもらおうと思ってたんだ」
斧を持っていた男性は頭を掻きながら教えてくれた。
「俺はその手伝い」
剣を提げている男性は幼馴染なのでお金稼ぎを手伝っていたらしい。
治癒魔法は怪我や病気を治す、というよりは残った痛み等を取り除く為に受けるものらしい。基本教会と隣接しているけどそちらは慈善事業ではなく費用が必要で、そのお金は教会や孤児院の運営に充てられる様だ。
「親孝行ですね」
「違反やらかしといて褒められねえだろ?」
「それはそれですよ。手伝いは出来ませんけど……」
彼らは気落ちする様子も無く、何の依頼を受けようかと予定を立て始めた。こういう所を見ると根が悪い人、という事はなさそうだ。
自分達もまだ消化していない依頼があるし、また明日から普段通りの生活に戻る。
「親、かあ……」
もし捨てられなかったら今の自分も無かったけど、親孝行するのはちょっとうらやましいなと思った。




