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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第2章:街での新しい生活
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29.新人とトラブル


朝。いつもと変わらず賑わっているこの時間帯のギルドへ赴くと、見た事の無い職員さんがいた。

横に耳が垂れている獣人の、自分と年齢の近そうな女性職員さんは依頼の受付窓口で時折噛みながらも一生懸命説明している。


「つ、次の方ー!」

兄達と話をしながら待っていると順番になったようだ。

「すいません。日帰り出来る程度の場所での依頼はありますか?」

「は、はい! お待ちくださいね!」

資格証を提示し渡すと、職員さんはあれでもないこれでもないと依頼内容の書かれた書類と地図を何枚も確認している。積み重なった書類からも何枚かを引っ張り出して、カウンターへ並べてくれた。


「えーと、これとこれとこれがそうです。どれにしますか?」

「そうだなあ、じゃあ全部受けておきます」

「はひ?!」

下がっていた耳が勢いよく立った。隣のカウンターの男性職員さんに次はこれだよと指示されて慌てながら用意をしている。

「新人なんです、大目に見てください」

苦笑気味にそう伝えてくれた。ギルドでは定期的に試験等が行われて新しい職員さんが配属されるらしい。受付なんかのやる事の多い業務はしばらく研修期間を経て現場に出るため、月半ばなど半端な時期になる事も多いとか。

「ギルドって人の入れ替わりが結構あるんですね」

「僕らみたいな受付はないけど事務方はそれなりにねー」

受付対応は専門的な部署扱いらしい。


「ところでアキさん、今日は採取は受けないので?」

「いや……新人さんの対応限界を越えてしまいそうなので」

本当なら受けるつもりだったけど、新人さんは緊張した面持ちだったしかなり慌てているしこれ以上何かを課すのは過酷な気がした。

「そっちは僕が補助しながら用意しますから大丈夫ですよ」

「それではお願いします」

バタバタと自分達へ渡す物の準備に駆けずり回る新人職員さんを見ながら頑張れ、と心の中で応援した。




複数受けた依頼は一日でこなすには互いの距離が少し離れている為、二日に分け消化する事になった。他の手続きもあって、その後軽く食事を済ませて街を出たのでもうすぐ午後に差し掛かる時間だ。


今日こなす依頼の予定地へ着くと既に何かの気配がするのが自分でも分かる。

「あっちに誰かいる~」

シュウ兄の視線の先を見ていると木々の間に小さく人の頭が動くのが見えた。かなり奥の様だ。


何かに襲われているのだとしたらまずいので人のいる方向に向かうと、男性二人組が魔物の死体を前に何か話していた。自分達の存在に気付いたのか驚いた顔をしている。一人は腰に剣を、もう一人は肩に斧を担いでいる。

「な、何だお前ら」

「依頼の魔物がこの辺りにいるらしいので来たんですけど」

ソウ兄は返答しつつ魔物の特徴を伝えると、二人は何故か安堵した様な表情を浮かべた後、笑いながら言う。

「それなら地面に倒れてるコイツなんじゃないか?」

「依頼が重複してたのかもなあ」

地面に横たわって絶命しているのは、確かに先程確認した依頼書に書かれている特徴の鹿の魔物だ。よく見るとあちこちに傷があった。

「今日は受付に新人入ってたからな。間違えたんだろ」

「そうそう。だからこの依頼の報酬は俺らのモンだ」

「はあ」

彼らは何故か少し必死に魔物の所有権を主張してくる。別に自分達も横取りしようという気はないが。


「でも見つけた死体を持って行くだけでは問題あるんじゃないですか?」

二人はソウ兄のそんな言葉に少し険しい表情を浮かべる。

「……何言ってんだ? これは俺らが倒したんだよ」

「虚偽の報告は規則に違反するんじゃないかと思いますけど……」

魔物には彼らの持つ武器で付けるには難しい傷が複数あるように見える。それを指摘しているのだと思うが、彼らからは少しずれた返答がきた。


「お前、階級は?」

「階級ですか?(セトル)ですよ」

「俺らはお前達より上の(マケア)だ! 新人が先輩に口答えすんじゃねえよ。生意気な」

「規則違反の懸念を伝えただけで口答えと言われましてもねえ」

どうも彼らは自分達よりも上の階級に属していたらしい。とは言えその言い分もいかがなものか。と少し思った。

結局彼らはソウ兄の言った事に聞く耳は持たない様子で、強引に魔物の死体を袋に収納して去って行った。


「チッ。無駄な時間取られたぜ。迷宮に潜りてえのに」

「依頼なんて面倒なもん、決まりがなきゃ受けてねえっての」

自分には聞こえていなかったけど、シュウ兄はそんな事を去り際に二人が言っていた、と教えてくれた。まあ要するに討伐依頼より迷宮探索を優先するタイプの人達だ。


「さて、どうしようか」

彼らが去ってしまって、森には自分達の声しか響かない。

「どうするもこうするも。もう一体の方も見つけなきゃいけねえだろ」

「だな。シュウ、分かる?」

「んー……あっちの方かな~」

シュウ兄は森の奥を指差す。自分には全く分からない気配もシュウ兄はなんとなくだが察知出来てているらしい。

「じゃあ二手に分かれようか」

ここからは普段通りだ。自分は受けている採取依頼をこなす為にソウ兄とルスタと薬草を探す。リツ兄とシュウ兄は奥へ魔物を探しに向かって行った。


「あの人達、あれでいいのかなあ」

ルスタに手渡される薬草を都度鞄へ突っ込みながらソウ兄に話を振る。ソウ兄は少し考えて首を横に振った。

「受付で達成受領したところで解体場で問い質されるんじゃないかな」

「傷が不自然だから?」

「うん」

ソウ兄の見立てでは動物にもよくある同種の縄張り争いなんかがあったのではないかとの事。噛み傷っぽいものは無かったし角で戦っていたのかもしれない。だから、同種の魔物がもう一体以上いる可能性を鑑みて捜索している訳だ。

「俺も規則自体そこまで頭に叩き込んでないけど、注意程度で済むとは思えないなあ」

「でも聞いてくれなかったし。どうしようもないよ」

「そうだなあ。俺達にはどうしようもないな」

他者の今後の事を自分達がいくら考えても仕方ない。自分達には自分達の依頼があるし。重複している件についてはギルドに行った時に尋ねれば良いだろう。


ルスタと薬草を採っている間、ゼーレは珍しく自分の所から離れて木の上を飛び回っていた。見回りでもしているのかと思ったらまた木の実を咥えて戻って来る。

「また食べれるやつ?」

黒っぽい木の実をおもむろに口に入れると苦味が口いっぱいに広がって思わず咳込んだ。

「大丈夫?」

「に……にが……」

ゼーレは自分がまさか口に入れるとは思っていなかったのか慌てている様子。ソウ兄も残っている木の実を口に入れて、ホントだ苦いなーと水を飲んでいる。

「こないだの果物みたいな木の実じゃないんだね」

「俺達がいつも薬草採ってるから薬になりそうな木の実持ってきたのかな……」

ゼーレを見ると肯定なのか短く鳴いて返答された。どちらかの組合に持って行けば何か分かるだろう。


しばらく薬草を採ったりゼーレの採ってくる木の実を受け取ったりしていると二人が戻って来た。どうも目的の魔物探しは終わったらしい。

「どうだった?」

「やっぱいた。一体じゃなくて二体、だったけどな」

「立派な角だった~。後で見せるね」

他にも魔物は出たようで、依頼外のものが混じる形になる。戻ってギルドに行くには少し時間が遅く、他に受けている依頼の消化もあるのでギルドに行って説明をするのは明後日辺りになりそうだ。



ちょっと続きます。

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