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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第1章:迷い込んだ『異世界』にて
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5.来たる朝

翌朝。目が覚めて空を見上げるとゆっくりと光が大きくなり明るさを増していた。まだ流石に来たばかりなので空の違いには慣れないが、朝になった事はなんとなく分かった。時計を見るとまだ早朝の時間帯だ。


まずは今日の、今からの行動方針を決めないといけないので、起きた兄達と打ち合わせる。

「何にせよまず森を出ないとな」

「その前に水場見つけたいな〜。顔洗いたい」

『川でしたら此処から南東方面にありますよ』

リズルは当然の様に居てくれるんだけどいつまで付き合ってくれるんだろう。

自分達がいる大陸の管理者?だそうだが特定の個人にこんなに構っていて良いものなのか。


方角で思い出したが、方位磁針を持っていた。特に見た目に変化がなさそうだったので時計と共に一旦放っておいたのだった。改めて見ると東西南北の表記は変わらない様だ。

「……でもこっちって確か磁石ないよな」

『それは方位を調べる道具ですか』

「そうなんだけど、元々の使い方と違うと思う」

試しにいつもの使い方をしてみるが針の動きに変化はなかった。

『皆様の世界では魔力では動かさないのですよね』

「磁針の動きで方位を確認するんだけど…まず磁力っていうくっつく力が石にあって……S極とN極があって……お互いに引き合うんだ。同じ極同士だと反発する」

『まあ。同じ石に違う属性が存在しているのですね。反発したり引き合う事で力を発揮するのでしょうか』

「うーん多分。そもそも俺達が住んでた所自体がでかい磁石みたいなものだから、方位磁針が働いてるんだと思うし……」

『皆様の世界ではその様な石が埋まっているのですね』

「埋まってるっていうか……埋まってんのかな……」

磁石が無い世界で方位磁針は無意味な道具だった。だから十中八九変質しているだろう。

「まあ俺達の世界の事はいいや……これも魔力で動くか?」

『はい。問題なく動くかと』

それなら方角確認の為に使ってみよう。方位磁針を持つ手に魔力を流すイメージで。と、程なく針と盤が動いて北と南を指す。水場は南東だと言っていたしこれで先に進めそうだ。

「南東はあっちだ」

「よーし、行こいこ」


リズルの言っていた通り南東へ進んで十五分程だろうか。川があった。水は澄んでいて濾過して飲む必要もなさそうだ。顔を洗うと冷たくて気持ちが良い。

折角だからお湯でも沸かしてみようと薪になりそうな枯れ枝等を集めて、試しにマッチを使ってみる。付け方も燃え方も元のマッチとそう変わらない。

リツ兄が折りたたみ式の五徳と、小さい鍋を出して水を汲んでいた。昨日も確認はしたんだけど、魔法がかかってる今はともかく元の鞄によく入っていたなと思わなくもない。

「お湯飲むの?」

「いや、ティーパックはそんままだったからさ」

お茶の種類は変わってるかも、とリツ兄は笑っていた。それはあるかも。


淹れて貰ったお茶を飲みながら、また朝食代わりにとビスケットを齧りながら先の話をする。お茶の味は大きく違う感じはしなかった。

「森を抜けるにしても抜けた先がまた何もなかったら困るよね」

「確かにな。町……とかあっても入れるやら」

『今皆様がいる森を抜けたら人の住む集落がありますよ』

深い森なのかと思っていたが案外人里に近い場所の様だ。ここで疑問が浮かぶ。

「仮に俺達がその集落に辿り着いて……怪しまれないのか?」

まだ此方の住人とは全く相見えていない。別の文明を築いてきた世界において、そもそも自分達と同じ姿の種族がいるとは限らないのではなかろうかと思うが。


『そうですねぇ、あの集落は獣人だけですから……』

「獣人てなんだ〜?」

『皆様と同じく人の姿ですが、獣の特徴の一部が身体に在ります。基本は耳と尻尾でしょうか』

「上半身が獣とか二足歩行の獣とかじゃないんだな」

『且つての彼らの祖先はそういう姿でしたけど、人間やエルフとの交配で今の姿に成ったと言いますか』

先祖返りでその様な姿に戻った子が産まれる事も稀にありますよ、と補足してくれた。


近い姿でも別の種族ならばあまりその集落には立ち入らない方が賢明かもしれないなという結論になった。

集落は基本町と町の間にあるみたいだ。集落と言ったり村と言ったりするそうだが、要するに規模の小さい居住地域。それなら恐らく物流の為に町へ行く道は多少整備されたものがあるはず。

森を抜けて上手くその街道に出られたら良いと思う。あくまで希望的観測で。


「俺重大な事に気付いた」

「何だ」

「こっちの言葉分かんない」

「元の国でも大して読み書き出来てねえけどな…」

『その問題については……きちんと皆様に言語は刷り込まれていますから大丈夫ですよ!』

刷り込まれてるってなんだ。怖い。

「ごく当然の様に……」

「そら言葉話せなかったら不審がられるだろうけどな……」

『私とも話せてるではないですか…』

「でも……リズルは神様だから別に俺達と話せてても不思議じゃないし」

『そうですが……とにかく大丈夫ですから』

魔力とか魔法の件もあったしこっちの世界の言語くらいなら知らないうちに適応させられているんだろう。そういう事にしたい。あまり突き詰めたくない。

多分時計や方位磁針の文字や数字も置き換わってるんだろう。自分がこっちの文字を既に認識出来ているから違和感無かっただけという事だ。

因みにこっちの世界の識字率は高いらしく、基本共通言語だそう。種族とか、国によっては専用の言語も存在しているらしい。


リズルは他にも色々とこっちの世界の住人について話をしてくれたが、これから住人達と顔を合わせる可能性を考慮して自分達とは離れる事を告げて消えた。

彼女を見送り森の出口を目指して歩き始める。方角はリズルが教えてくれたので方位磁針頼りに道無き道をただ進んでいる。

「また野宿はやだなー」

「いや、道に出ても町に着かなきゃまた野宿だろ」

「だよねー」

いっそ集落に寄れば確実に野宿は避けられるのだけど。未知の種族だしな。と考えていると。



「助けてー!」

女の子の声がした。

「なんだ」

「あっちの方からだね」

ソウ兄とリツ兄が警戒してナイフに手を掛ける。

姿を現した女の子をよく見ると人間ではない犬の様なピンとした耳が生えている。話に聞いていた獣人だった。


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