余話:とある薬師組合員の呟き
私は親が薬師だった事もあり、薬師の資格を取った後にそのまま組合で職員を務めている。
薬師組合は他の組合よりも小規模で、組合員も少ない。
どうしても専門職である事、試験の難易度が理由なのか間口が狭いのか所属する薬師も増えづらい事、材料の調達面が難しく他組合との連携が必要な職であるなど複数の理由が絡んで近年も然程組合員は増えていない。主に資格を取りに来る隣村の人達は皆優秀なので、薬師としての質は落ちないのが幸いであるが。
本日は珍しく、隣村の人でなく組合で講習も受けていない青年が試験を受けに来ている。先日受け付けた申込書を確認すると隣村の薬師の紹介状が付属していた。既に村で講習を受けてきたという。外部の人が村で直接教わって来るのはとても珍しい事だ。
試験は初級も中級も併せて受けておくらしい彼を試験会場にしている部屋へ案内した。今日試験を受ける人は彼しかいないので、それを伝えると少し驚いていた。
筆記の試験官は別の担当者が務める為、自分は部屋を出る。彼の試験が上手くいくと良いなと思いながら。
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薬師組合は一日の訪問者もそう多くない。とは言え来客の為に入り口付近を綺麗にするのは大事なので朝と昼の二回程は軽い掃除をしながら見回るのも業務の一環だ。
入り口から外を覗くと、短く刈られた芝生の上に魔物が鎮座していたので思わず悲鳴を上げかけた。深い森の色をした馬の魔物、キュリルスタングだ。比較的大人しい種で薬草を好んで食む為、我ら薬師の間では魔物使いの才能さえあれば一番契約したい魔物である。
普段は魔物など居ない事と、現在外からの来客は試験を受けている彼しかいない様なので、消去法で彼が連れている魔物なのだと思われる。上等な鞍が着けられている。少し近付いてもこちらを威嚇せず、大人しくただ主人を待っていた。彼の試験が終わるのは昼前の予定だから、一応そのようにキュリルスタングに声を掛けてみると、自分への返事のつもりなのか鼻を鳴らしてくれた。頭には何故か青い小鳥がちょこんと乗っかっていた。
時計を確認し、試験が行われている部屋へ向かう。筆記試験が終われば次は実技試験だ。試験官と彼が出て来るのを待ち、彼らと共に別の部屋へ行く。
調合室の一部屋を借り、彼に試験の説明をする。今度は自分も試験官だ。机に並べられた調薬器具をジッと見ている彼に試験内容の書類を渡す。目を通して貰っている間に試験で作成する薬の材料を用意する。
時間が近付き、彼へ制限時間の説明等々を行い試験を開始した。
実技では正確な調合を行い一定品質の薬を作成して貰う事を基本とし、作成中の器具の使い方や薬草の取り扱い方等を採点していく。先程の書類はその薬の作り方を記載した物だが、書かれているのはあくまで分量と作成過程。器具の使い方だとか細かな説明は採点対象の為に省かれている。
試験前、実技の経験が少ないので自信が無いとこぼしていた彼だが、基本の使い方は特段問題なく、作業の手が止まる事も無い。初級から中級程度の能力としては申し分ない程度だと自分は思う。筆記試験も担当していたもう一人の試験官も少し感心している様な表情だった。
「完成しました」
彼は手を止め、自分達へそう告げる。
「はい、では終了です。こちらで薬の品質等の確認を行って結果を数日中にお知らせしますね」
「よろしくお願いします」
部屋から組合の入り口まで彼を案内する。その短い間に少し質問などをした。
彼はお兄さん達とこの街に事情があって身を寄せている事、厚意により薬師の勉強をさせてもらった事、そして資格を取得した後は討伐者との兼業を考えている事。見目は若いがしっかりとしている青年だ。
「兼業者は時々いるけど、討伐者との兼業は珍しいよ」
「そうなんですか」
彼はよく連れている魔物と薬草採取をしているそうで、最近薬草が潤沢に回されているのは彼という功労者がいたからの様だ。
外に出ると待ち構えていたキュリルスタングがゆっくり立ち上がり彼の近くへ来る。頭には変わらず小鳥が鎮座している。
「ルスタ、ゼーレ、お待たせ」
「よく懐いていますね」
魔物使いとはあまり交流が無いが、彼の魔物は随分と聞き分けも良く、自意思でも動き他者への威嚇もしない。彼自身が優秀なのだと思う。
「それでは、結果が分かりましたら討伐者組合に通知を出しましょう」
「いいんですか?」
「ええ、勿論。うちの奥さんも討伐者組合で働いているのでね。奥さんにも伝えておきますよ」
「よろしくお願いします」
彼は自分に会釈して、キュリルスタングに乗り帰って行った。
実は妻から彼の事は少しだけ聞いていた。
ただ、今日受けに来る彼と同一人物かは半信半疑だった。魔物の存在や彼自身からの話で合致したというか。彼女の言う通り少し不思議で中々面白い人物の様だ。
「彼、受かってるといいなあ」
彼の背中を見送って、また業務の続きに戻るのだった。
試験の事取りざたされていなかったのでこぼれ話で。




