余話:ご近所さんと。
前回のお話内のこぼれ話と、生活始まる前の前日譚みたいな。
アヴィ達を家に招いた日。頼まれていた野草を届けにリツ兄と少し家を出た。
お隣のドアを叩くとお世話になってる奥様の一人、スノーさんが出てきてくれた。普段は商業組合の事務をやっているという、いつも快活で若々しい人だ。
「あら、おかえりなさい。今日はお友達もいるの? 珍しく賑やかだったけど」
「煩かったですか?」
「まさかー。もう少し騒いでも良いくらいよ」
「迷惑になんない程度にするな。で、朝アキに言ってた野草が合ってるか見てほしくて持ってきた」
「見つけてくれたの? それなら台所で広げて貰おうかしら」
いらっしゃいと手招きされ、スノーさんのお宅へお邪魔する。旦那さんのレグさんもお休みなのかいらっしゃったので挨拶した。
「これなんだけど」
鞄から野草を出す。先端がくるくると内側へ円を描いて巻いている面白い形の野草だ。トグロ草、とか呼ばれていた。
「大丈夫、これで合ってるわ。久々にこれで煮物作りたいわね〜」
「良かった。そしたら全部置いてくわ。手間掛けて申し訳ないけど皆さんで分けて貰える?」
「フフ、リツくんのお願いだもの。勿論よ! 旦那にも手伝って貰うし」
ついでに鳥が勧めてくれた木の実のことも聞きたい。リツ兄に目配せすると頷いて木の実も少量出してくれた。鳥は肩の上で木の実がどうなるのか気になっているらしくちょっと落ち着きがない。
「これもなってたんだけど」
「もうそんな時期か。レゼッセの実だな」
レグさんがいつのまにか覗き込んで来ていた。
森にはこういう木の実とか果実が時期によってなっていて、商業組合ではそれの採取を討伐者ギルドに頼む事もあるらしい。食料品店とか、食堂から依頼がくるとか。そのうち受ける機会もあるかもしれない。
「たくさんあるなら果実煮が出来るわね〜」
多分ジャムの事だろう。簡単に作り方を教えてもらったので、御礼も兼ねて実をボウル一杯分差し上げたらスノーさんがはしゃいでいた。
「煮物は作ったらあげるわね!」
「楽しみだな」
「うん」
また外に出る際に頼み事があれば言って欲しいとお二人に伝え、自宅へ戻った。
――――――――
借家の近近隣住民と知り合ったのは来て比較的直ぐの頃だった。
ギルド経由で家を借りて二日目の夕方。長期の滞在になる為、隣近所の家にはあらかじめ顔を出しておいた方が怪しまれないかも、とソウ兄が言うので挨拶回りをすることになった。
当日は借りてからあれこれと買い出しに走り、二日目は朝から依頼に出かけてしまったのでこんな時間帯になってしまった訳だが、本来なら借りた当日に伺うものだろうなとは思う。
借家を正面に見て左隣の家をまず訪ねると、ちょうど住人もそろっているのか少し騒がしい声の後に男性がドアを開けて出て来る。
「はい。ウチに何か用事かな」
「隣の空家をしばらく借りるので挨拶に来ました」
男性に軽く会釈して名前を名乗る。
「隣……という事は討伐者か。俺はレグだ」
「よろしくお願いします」
レグさんは此処の家主さんだろう。挨拶も終えたし次の家に行こうとしたらレグさんに引き留められた。奥さんとも顔合わせをしておいて欲しいとの事。
「あらあら。隣借りる人が挨拶まで来るなんて珍しい」
出て来た奥さん、スノーさんはこの辺近隣の区画で行う清掃なんかを取り仕切っている所謂リーダーらしく、自分達の滞在期間を知ると少し規則などを教えてもらった。
「ついでだしちょっと皆に声掛けてくるわ。おうちで待っててちょうだい」
「いえ自分達で回りますよ」
「いいからいいから。いっぺんに顔合わせておいた方が手間がないでしょ?」
結局スノーさんに押し切られて、一旦家へ戻った。
少し待っていたらドアのノック音が聞こえたので外へ出ると、十人程の女性達が集まっていた。
「皆、彼等がしばらくこの家使う子達よ。ソウ君達、彼女達は君達と共用部使う家の人ね」
「よろしくお願いします」
名前を名乗って軽く挨拶をすると女性達、近所の奥さん方も住んでる家と名前を教えてくれた。この辺りは住宅地ではあるものの一軒一軒の敷地はそれなりに広く家々の間隔は割と広めだ。
皆さんは口々に、長期滞在なんて珍しいとかそもそも此処を借りるのが珍しいとか言っていた。近隣住民からすると討伐者がこの家に長く住むのは余程珍しいらしい。そしてこの借家が元は討伐者ギルドの組合長の持ち物だという事も教えてもらった。
「組合長さんに上がった時に、組合に近い場所に居を構えた方がいいかもって中央区に引っ越しちゃったのよね」
「此処も元々住んでた人から安価で譲り受けた家なんだって言ってたわ」
手入れは行き届いていて綺麗だが少し古いのはその為だとか。
出身を聞かれたので国の外から来た事を伝えると、また随分珍しがられてしまう。
「討伐者の人達って大抵街中の人か近隣の街町の人くらいしか行き来しないから、国外から来て長期滞在するのは珍しいわね」
「そうなんですか?」
「国外から来る人もいるけど、滞在したって数日程度みたいね」
「余程事情無いと長期滞在なんてしないんでしょうね……」
「そうねー。でも生きてると色々あるもんだし」
自分達が少し言い淀むので察してくれたのか、こちらの事情を深く聞こうとはしなかった。
「どこか定住して落ち着けたらとは思っています」
「ならこの街でもいいって事ね」
「ま、そう言われれば」
自分も頷いた。反応を見るに自分達に対して嫌な印象は持たれていない様で少し安堵する。
ところで女性達ばかりなのは何故なのか一応スノーさんに聞いたら、若い男の子紹介するなら同性を呼ぶでしょと返されたが、皆既婚者でお子さんも普通にいる方々ばかり。困惑していると単に旦那さん方は仕事からまだ帰ってきていないんだと笑って付け加えられた。
――――――――
「これで結構仲良くはさせてもらってるよ」
酒場での食事中、イルミアに近所の人達との事を再度聞かれたので、来た当初の事を話す。実際煙たがられたり避けられたり、なんてことは皆無なので一応上手く付き合えてはいるんだろうと思っている。
「揉め事起こして険悪になるとギルドごとそういう目で見られちゃうしねー」
「武器もって戦ってる仕事だから、印象大事」
就いている仕事に対する先入観とか印象はやはりあるらしく、ギルドも昔はその払拭に奔走していたんだとかなんとか。
「仕事柄街の外に出るし、今回みたいな頼まれ事もあるよ」
「アキ達は信用されてる」
「お世話になってるし、良くしてもらってるし。持ちつ持たれつだと思うけど」
季節というものは存在しないこっちの世界で、野草なんかの時期や生息地を教えてくれるのも近所の方々だ。ついでに調理法も教わったりしていて世話になってばかりな現状だけど。
「アキ達が良くしてもらってるのはそれだけじゃなさそうだけどな……」
「ニャ。人族顔が命」
「命は言い過ぎ」
ファイの呟きとその後の相槌は酒場の喧騒に遮られて上手く聞き取れなかった。




