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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第1章:迷い込んだ『異世界』にて
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4.異世界の夜

『ですから皆様が此方の世界に馴染める様に私最大限努めていきますので!!』

「意気込みがすごい」

「何をどう努めんだよ」

「まあ怪しまれたりお尋ね者になるよりはいいけどね」


「つか持ち物逐一こっちのモンにすんのって面倒じゃねえの?」

『やはりこちらの世界に無い物をそのままにして住人の混乱を招く訳にいかないですし』

「未知のモンって怖いしな〜」

それは致し方ない事だろう。銃みたいにこっちに無い未知の存在が世界に何か影響を与えないとは言い切れないのだし。開発はされている様だからそのうち普通に存在するのかもしれないけど。その時生きてたら持ってた物戻して貰えるのかな。


持ち物を確認したりリズルにあれこれと説明を求めたりしていたらいつの間にか空が薄暗くなっていた。

太陽が傾き夕方から夜になる訳ではなく、空の光が徐々に小さくなっている。それに伴って暗さが増していく。

「もしかして夜?」

『はい。天の光が完全に消えると夜になります。闇に閉ざされますのでその前に灯りを用意した方がよろしいかと』

「月とか星は出ない、のか」

『ツキ、トカ、ホシ、ですか?』

「いや……こっちの話……」

世界が違うのだから空も違うのは当たり前だ。野暮な質問だった。でも一応朝昼夜という認識や時間といった概念は存在し、二十四時間を一日としている所は同じだった。そういえば懐中時計を持っていたので鞄から出して盤を見てみると見た目に大きな変化は無く針もきちんと動いていた。ただ、電池式だったはずなので動力は変わっているかもしれない。針はもう夜の時間を差している。


懐中時計をしまい、リズルの言う通り暗くなる前に灯りをどうにかしなければと立ち上がろうとしたが、既に兄達が動こうとしていたので留まった。

「火起こそうか〜?」

「火起こすんなら薪になる枝探さねえと」

「いや、灯りならランタンをつけて……おこうかなと思ったけど付け方が分かんないな」

『魔力を込めるとつきますよ』

「そう言われてもねえ」

『そうでした……!お教えしますね』


魔力は先に説明された通り空気同様に存在している他、生物の体内にも存在しているそうだ。

魔力を血液の様に巡らせ、魔力を込めたい体の箇所に込めると言うことだが全くピンと来ない。

『まずは体に巡らせる感覚を想像してみてください』

そう言われたので出来る限りで想像してみる。血液が巡っているイメージを想像していると、少しだが体の中や自分の周りに暖かいものを感じる。

『アキ殿は掴むのがお早いですね』

「そうなのかな……」

つまり今感じたものが魔力な訳だ。これを手に集中させるとランタンに明かりを灯せる、はず。

手へ魔力を込めるというよりは流れている魔力を手の方へ流すイメージでランタンのスイッチを押すとぼんやりとした明かりが灯った。徐々に見慣れた明るさへ変わる。

「アキくんすごいすごい」

「これ、慣れるまで時間かかりそうだな」

兄達は兄達で感覚をなんとなく掴めたらしく、リズルが感心していた。この感覚を掴むのに苦労する迷い人も多いそうで。

「俺達もそうだけど……魔法が身近な世界って案外少ないのかな」

『そうかもしれませんね』

自分もまだお伽話や空想の話の世界という印象だ。実際魔道具とやらを使ってみてもイマイチ分からない。


後、少し怖い事かもしれないが持ち物の変質の時に薄々感じていた。

自分達もこっちの世界に来るまでにこっちの世界へ適応する為に何がしか変質が為されているのでは?と。

魔力の件でそうなんだろうな、と確信をした。

だからどうという事もない。説明された通り戻れる確率は天文学的数字で、戻ったとしても見つかれば殺されて終わりなんだし、殺されなくても殺された方がマシな扱いを受けるだろう。

ならいっそ、こっちの世界で気儘に生を謳歌したって誰も文句は言わないのではないだろうか。まだ分からないことだらけだが少なくとも元の世界で死ぬか生きるかの瀬戸際よりは余程ましだ。


「でも出来る仕事あるのかな……」

「アキが仕事の心配してっぞ」

「気が早いな〜」

「まず俺達此処から脱出しないとねえ」

独り言が漏れてしまった。

「いや、つい……こっちで生活するんだったら……って思ったら」

「でも生計を立てる事は絶対必要になるだろうね」

こっちに住むんだし、とソウ兄は笑う。

大した学はないし、どういう仕事が存在しているのかは分からないが、多少なりとも仕事の選択肢があれば良いなと思う。


『もう皆様は、元の世界への未練はないのですか?』

「未練……かあ」

「俺達、さっきも言ったけど事情があって逃げてたからね。追っ手がもう来ないってだけでも随分気楽だよ」

「少なくとも元いた所に殺されるっつー可能性はなくなったよな」

「ね〜」

『余程切羽詰まったご事情だったんですね……』

「まあね」

「こっちでもどっかで戦争ってやってんの?」

『北央大陸の北方では長く続いている様ですね。確か領土争いだったかと』

「どこの世界もやっぱ戦争起きてんだな」

使う武器、戦略、規模と色々違う所もあるだろうけど戦争は戦争だ。なるべくそういう地域は避けていきたい。

『私の管轄である今皆様がいるこの大陸では戦争は起きた事がありませんから、安心して生活されてください』

「うん」

『まあ多少国同士の小競り合いみたいな事はしてる様ですけど』

「それはやだな……」

「流石に一般市民は巻き込んでないでしょきっと」

とりあえずそういう面倒そうないざこざには巻き込まれたくないなと思った。


ランタンの灯りの下、干した果物と水筒の水を胃に入れて交代で仮眠を取ることにする。

「二人ずつで交代かな〜」

「そうだな」

『ご就寝ですか?』

「そのつもり」

『でしたら夜番は私が。皆様はゆっくりおやすみください』

「でもそういう訳にも」

『いいえ。皆様随分と移動された様ですし。この程度で良かったら』

「じゃあ折角なんで」

「ありがとう」

『いいえ、おやすみなさいませ』

着ていた上着を掛け布団代わりに、鞄にタオルを巻いて枕代わりにして寝る事にする。地面は思ったより柔らかいので少しは休めそうだ。転がると直ぐに瞼は重くなり、寝入ってしまった。

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