17.獣人の村再びⅣ
さて。村に戻った自分達はと言うと、まず第一に成果の報告が必要な為に村長宅を訪ねる事にした。
口頭での報告後、狩猟組合の広場を借りて魔物を出し確認してもらうと、やはり森で引き取ってきた魔物について村長さんにも組合の人達にも怪訝な顔をされたので、事実を濁しつつ報告をする。
「……つまり既に死んでいた訳だね」
「はい。他に気配も見つからず、確認の為に戻った形になります」
ソウ兄が伝えると皆何か話をし始めたので離れて待機する。何も間違った事は言っていないのだ、神と神獣と精霊と会ったと伝えていない以外は。気配も確かに無かったらしいし、他の魔物もいなかったというか既に多分駆逐されていた。
「滞在期間延ばさないといけないかもね」
「ま、村の側が解決に至らないって言うなら気が済むまで捜索するしかねえしな」
「腹減った~」
シュウ兄が空腹を訴え始めたので時計を確認すると、もう昼前に差し掛かっていた。昼食はセーナの家に呼ばれているし、顔を出しに行くべきかなと考えていたらセーナの方から来てくれた。元々組合に用事があったらしい。
「皆さん早いですね。もう少しかかると思ってたんです」
「俺達も思ってたより早く戻れたよ」
セーナも広場に出されている魔物を見ておぉ、と感心した様な声を出していた。しばらくセーナとここ最近の出来事など他愛ない話をする。
雑談していたら話し合いも終わった様で、村長さんからギルドで預かってきた書類を出すように言われた。
「俺達は何もしていませんよ?」
「そんな事はないでしょう。魔物が出て立ち入れない森を捜索し、危険性が無くなった事を確認して来てくれた訳だから」
「そっちが良いなら俺らは文句ねえけど」
ギルドへ報告の際にはまた今と同じく事情を説明する事にはなるだろうし、魔物の死体を確認されれば自分達の武器で負わせられる様な傷でもないからすぐ分かると思う。
「我々としては、森へ行く際の脅威が無いという事実が大事なのです」
「俺達が嘘を吐いている、なんて疑いはしないんですね」
「今回は神獣様が仕留められた魔物である事が分かりますからね。それに、依頼人に虚偽の報告をすれば今後不利益を被るのは討伐者の方々ですし」
村長さんはそんな風に言って笑う。ギルドの規則にもあったが、虚偽の報告で、例えば目的の魔物が倒せていなかったとして依頼人が被害を訴えれば、その依頼を遂行した討伐者に罰が下りる。その辺遂行日から何日以内に、みたいな縛りはあるけれど。どちらにしろ嘘はよくないという事だ。
村長さんの承認書きが終わった書類を受け取って、セーナの用事が終わるのを待ち昼食に呼ばれる事にした。
前回の事もあってか、テーブルには所狭しと料理が置かれていた。前ごちそうになった時にも食べた料理がまたいくつか並んでいる。
「前にこれ食べて気に入ってたみたいだからまた作ったのよ」
セーナの母親、ニーナさんは料理をひとつ指差す。赤い野菜で鮮やかな色がついている具沢山のスープ。具材の味が出ていてとても美味しくて気に入ったので、家でも試しに作ってみている。
「ありがとうございます」
自分の料理への視線で気付いてくれたのかそう言われて思わず御礼を言った。
塩漬けの肉と野菜のサラダや野菜を混ぜて厚く焼かれた卵、串に刺して焼かれた肉など随分豪勢だった。前回も肉が多かったので自分達の事を考えてくれたのか肉食系の獣人だからなのか。
料理には全部口を付けたが、早々に満腹になってしまった。シュウ兄が大体完食してしまうから折角用意して貰った料理が残る心配が無いのが救いというべきか。
「アキ君は薬師の組合には行ってみたかい?」
食後にお茶を頂きながら街での事を話していると、セーナの父親、テルセさんに不意に聞かれて首を横に振る。討伐者組合と比較的近い場所にある事は知っているけど薬草はギルドの依頼を受けて引き取ってくれるもんだから全然足が向かない。
「えー! アキさんなら資格だって取れるのに!」
セーナが立ち上がって言うものだから思わず少したじろいでしまった。
「そうだよ! 折角だから私達が紹介状を書いてあげよう」
「あら、それならまた少し勉強していかない?」
そうセーナの両親にも言われてしまって、自分はなす術なく頷くだけだった。
「帰るのは明日の朝だね」
「結局滞在期間延びてんだよなあ」
兄達も特に止めてはくれなかった。一応目的は既に終わったから帰りを急ぐ必要はないだろうけど、もう少し力になってくれても良いのではないか。
お茶を頂いた後、兄達は村長さんと狩猟組合の人に少し話を通して明るい内にもう一度森へ見回りに行ってみると出て行ってしまった。それならさっき行きそびれた、ルスタの縄張りがあった場所に行けそうなら連れて行って欲しいとルスタを預ける。というかルスタは既に行く気満々だった。
「アキさんの魔物なのにお兄さん達の言う事も聞くんですか?」
「え? うん」
手綱をソウ兄に渡している途中セーナに聞かれて頷いたが、随分不思議そうな顔をされた。
「言ってる事は理解してるみたいだからルスタも自分で考えてるんだと思うけど」
「えーと。魔物使いの人以外の言う事って聞かないものだと思ってて」
「そうなのか……」
契約主からの命令系統以外は基本聞かないという認識らしい。その辺り戻ったらウィドさんに聞いてみようと思う。
兄達とルスタを見送って、また薬の勉強会をして貰った。
前回以降器具関係を全く触っていなかったのでその復習と、もう少し段階を踏んだ薬作りについて実習形式で教わる。
「資格を取れたら組合で器具類を販売してくれるし、調合室も借りれるからね」
資格保有者には器具を所持して薬を作る許可を貰える。とは言え薬師の組合も階級が存在しているので階級に見合ったレベルの薬の調合許可だけ。当然階級が上がれば作る薬の難度も上がるし、毒なんかの危険物の取り扱いも含まれてくる。
テルセさんによると薬師の資格は2種類存在していて、どちらも取得が必須である。知識面の資格と実技面の資格。知識面の資格は三段階、実技面は五段階らしい。
「試験は週に1度受け付けているから、組合で聞いてみるといいかもね」
「はい。戻った時に確認してみます」
試験について少し説明を受けた後は、前回取り扱っていない新しい薬草の説明をして貰った。それを使った薬の作り方も教わっていく。
随分と久しぶりに器具類を扱う気がしたが、あれから一月も経っていない事を考えると密度のある日々を過ごしていたんだなと感じる。元の世界は世界で、下手すると毎日生死の狭間だったからある意味濃かったとは思う。
勉強会はそれから夕方まで続き、そのまま夕食もごちそうになってしまった。昼とは違う料理がまたテーブルいっぱいに並んでいる。勉強会中にセーナの祖母が色々用意を進めてくれていたらしい。
「森はどうだった?」
「動物はいたけど静かなもんだ。しばらくは魔物も出ねえだろって言ってた」
「今のうちにまた薬草摘みにいかなくちゃ」
セーナは今持っている資格のひとつ上の資格を目指しているらしく、張り切っている。また何かの縄張りに入らない様にね、と言ったらそんな事何度もやりませんよーと返された。
彼らこの翌朝普通に帰ります(蛇足)




