15.獣人の村再びⅡ
「いらっしゃいませー!」
ソウ兄がセーナの家の玄関を叩くと勢いよくセーナが開けてくれ、そのまま家の中へ招き入れられた。セーナの両親と祖母に挨拶をし、お土産に買ってきた冷菓を渡すと随分喜んでくれた。
「久しぶりねえ。元気そうで良かったわ」
「先日は大変お世話になりました」
「依頼を受けて来てくれたんだろう?よろしく頼むね」
「任して〜」
今回自分達が村からの依頼で来ている事は既にセーナから聞いていた様だ。魔物の出現など重要な案件は村全体になんらかの形で周知されているらしい。
「良かったらご飯食べて行ってちょうだいねえ」
「ばあちゃんありがと〜」
「でも俺ら夜中に見回りするから今日はちょっとな」
「あら。それなら持ち運びも出来る料理があるから持って行って!」
そう言って手早く紙の袋に料理を詰めて渡してくれた。まだ作って時間が経ってないらしく温かい。
「ありがとうございます」
「明日昼でも改めてご馳走になりに来ます」
「ぜひ!」
セーナの家を一旦後にして宿屋に戻り夜に外出する事を伝えると、行き来は裏の出入り口を使って欲しいと宿の管理人に場所を案内された。夜でも何かあった時の為に起きて番をしている人はいるらしいのでその人に声をかけてくれとの事。
説明を受けた後は部屋に戻って仮眠を取る。備え付けの目覚まし時計があったので鳴る様にしておいた。仮眠を取って夜も活動するのはかなり久々なので、正直起きられるか不安。
目覚ましの音で飛び起きると、リツ兄とシュウ兄は既に起きて準備していた。
「ソウ兄。起きて」
「うぅ……」
「相変わらず寝起き悪過ぎんだろ」
軽く肩を叩いてみたり揺すってみたりしてなんとか起こした。ソウ兄、普段起こしはしないけど毎朝大体こんな感じだ。起こした後は自分も上着を着たり靴を履いたり準備をする。荷物は特段必要無いので今回は置いていく。
「じゃあ行こうか」
「おー」
宿の夜番の人に軽く挨拶して裏口を出る。空の光は既に無い為に真っ暗だ。ポツポツと街灯が弱い明かりを灯している。目的地の方向は何となく分かるが自信が無い。
「目が慣れるまで時間かかりそう……」
「そう〜?」
リツ兄とシュウ兄は前よりも夜目がきくらしく、今もそれなりにはっきり村の中が見渡せるとか。
「こういう何気ない時にこっちの世界に適応させられてんのを感じる」
「種族が、って話ね」
自分は魔法の事もあるし今更だけど、自分達がどういう風に見られているかを聞いてからは殊更強くそれを感じている。
迷惑にならない程度の声量で雑談していると目的の畑に到着した。魔物の気配はまだしていない様だ。
「アキは寝てても良かったんじゃねえのか」
「えっ……俺だけ寝てるの何か悪いよ」
そう言ったものの大して動けないので邪魔と言えば邪魔かもしれない。
畑から少し離れた場所で声をひそめながら話をしつつ待機する。
その間に頂いていた料理を食べる事にした。楕円形の形のパンの真ん中を切って野菜や焼いた腸詰を挟んである。油断するとソースが飛び出てくるので危ないがセーナの母親が言っていたとおり持ち運びのしやすそうな料理だ。今度自分達でも作ってみたい。
食事を終えてから一時間程待ってみたが出て来る気配はない。出ないなら明日まとめて森を捜索する形になるかもなあ、なんてぼんやり思っていたら目の前に何かが浮いている。
「……」
「なんでいるんだろうね」
それは自分達に手を振ったり眼前をくるくる回って存在を主張している。体の周りに小さな石を浮かべていて、羽らしき硝子の様な、薄い宝石の様な物が背中にある。確か地の精霊だったかな。
「どうしたんだ?」
一応尋ねてみると身振り手振りで説明してくれる。どうもたまたま森に来ていた所に自分達を見つけたので来てくれた様だ。
「偶然俺達の事見つけたんだって」
「よくコイツらの言おうとしてる事分かるな」
「うーん。なんとなくだけど」
普段人語会話の成立しないルスタとやり取りをしている成果なのかもしれない。
「俺達畑を荒らしてる魔物を退治するからここにいるんだけど、魔物の事知ってるか?」
特に期待をしているわけでもなく精霊に話を振ってみると、大きく頷いている。なんと知っているらしい。自分に手を振って素早く森の中へ飛んで行ってしまった。
「知ってるのかー」
「意外」
五分程して精霊がまた手を振りながら戻って来た。もしかして魔物を探していたんだろうか、と思ったら茂みを移動する音がして、猪型の魔物が畑に姿を現した。自らが前に来たであろう荒れた畑を何やら嗅ぎ回っているが、すぐに自分達の存在に気付いた様で唸り声が響く。威嚇されている様だ。
「まさか連れてくるとは……」
「アキ、下がってて」
ソウ兄に言われ直ぐに後ろに退く。万が一自分の方へ突っ込まれたら無事では済まない。
精霊はというと何故だか楽しそうにくるくる回っている。と思ったらハッとした様に魔物の方へ行ってしまった。
魔物は狙いを定めたらしく勢いをつけた後自分達の方へ突進してくる。精霊にも危ない、と声を掛けようとした時魔物が目の前から消えた。少し遅れて何かにぶつかる音と魔物の鳴き声が聞こえてきた。
何が起きたのか分からないまま固まっていたら、ちょうど魔物が消えた辺りをリツ兄が伺っている。
「……落とし穴」
「コイツがあけたんじゃないの〜?」
シュウ兄はまた何故か回っている精霊を指差している。自分も近付いて見てみるが、穴の中は夜なのもあって様子がうかがえない。ソウ兄がランタンに明かりを灯して穴に近づけると、先程の魔物が動かなくなっているのが見えた。
「もしかしてお前がやったのか?」
空いた穴を指差しながら精霊に聞くと何度も頷かれた。その後得意げに胸を張られた。本人、もとい本精霊は自分達を手伝ったつもりらしい。
「えーと。ありがとう……?」
一応御礼を言ったら嬉しそうにしていた。
「ところでこの穴どうすんだ。畑の持ち主が泣くぞ」
「魔物も引き上げなきゃね」
そんな事を兄二人が呟いている。精霊はその言葉に反応したのか穴に向かって何かし始めた。同時にゆっくり土が戻って、というかせり上がってくる。数分で穴が空いた場所は元の通りになっていた。
「すごいな」
魔物は動きこそしないがまだ生きているらしく、畑から引きずって離れた場所で止めを刺した。畑を血で汚す訳にはいかないからだ。息絶えた魔物は一旦袋へ収容した。一応目標は達成した訳だけど。
「結果として良かったと言って良いものか」
「報告に困るだろ」
「アキくんのやった事にしよう〜」
酷い話である。
でも魔法で落とし穴とは単純ではあるけど難しい。穴を空けるとしてその分生じる土はどうするのか、穴を空けるタイミングや穴の深さを測れるのか、など色々考える事は多い。
使えたら罠に掛ける方が安全性は高い気がするので試行錯誤の余地がありそう。
夜通し見張っていないといけないかもしれないという思惑とは裏腹に存外すぐ目的が達成されてしまったので、精霊には明日森に入るので今日は帰る旨を伝えて宿に戻った。
もう一悶着ある様な予感を抱えながら。
魔法って難しい。




