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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第2章:街での新しい生活
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余話:迷宮の成果、こぼれ話

前回のこぼれ話。話のその後の話、みたいな感じです。短い。


討伐者組合一階の奥、応接室の一室で商業組合の役員であるクレイースはソファに腰掛け、出されたお茶を飲んでいた。その所作だけを見ると見惚れる程優雅で絵になるのだが。


「もーウィドってば宝石は無いから帰れなんて酷いひどい! 私だって他に用事くらいあるもんねー!」

口を開くとその外見にそぐわない砕けた口調が飛び出てくる。彼女を初めて見た人はその落差に驚く事も少なくないらしい。

「毎回宝石目当てに来る奴に言う事はそれしかない」

「クゥ姉さんはもうちょっと取り繕ったら良いと思いますけど?」

ウィドゥーロスとイローシェはそんなクレイースに少し呆れた顔で返す。クレイースは少し膨れっ面になった後、カップを置き真剣な顔つきになる。切り出すのは先程商談をした青年達の事だ。


「ウィド達、彼らと彼らの出自の話をしたらしいね」

「ああ。つい昨日迷宮の中でな」

「アキに混じってるだろう種族、知らなかったのかい?」

そう言うクレイースの問いに対してウィドゥーロスはひとつ頷いた。イローシェは少し考える様に俯く。

「……もしかしてハイエルフ、ですか?」

「そう。ロシェは流石に聞いたことあったかー」

「祖母が祖母の祖母から聞いた話、程度でしたけどね」

改めて種族について知り得る情報を話すクレイースに、二人は少し厳しい顔つきで聞き入る。


「うーん。て事はその辺の事情も入ってんだろうか」

「んー? 彼らがこっちの大陸に来た事情がってこと?」

「ああ……」

ウィドゥーロスは目をかけている青年達が此処へ来たのには神かその眷属が関わっているだろう可能性と、彼等自身の特異性の事を思い出し溜息を吐いた。

「わざわざ北方から来たんだろう?余程訳ありなのかい?」

「……お前は口も堅いし信用出来るから少し話しとくか」

ウィドゥーロスは青年達が街へ来た経緯と、組合としての予想を混じえて話をする。


戦争の起きている地域で足の不自由な者が十分に戦える訳も逃げれる訳もない。身近に迫る死に、安息の地を探そうと出奔する事は考えられるだろう。そんな話にクレイースは肯定の相槌を打つ。

北央大陸のさらに北部で大昔から生じていると言われる戦争は南部の大陸の住民にはほとんど絵空事である。入る情報は信憑性も分からない物ばかりなので基本的に憶測で話をする事が多く、先日の組合内での会議も今の彼らもそんな状態だった。


「まあ真実は本人達しか分からない訳だよね。彼ら此処に住むつもりなのかい?」

「定住地は欲しい様だったな。申請も条件はあるし一旦長期滞在の形をとってもらってる」

「身分証明も碌に出来ないんじゃそれが最適解かあ」

「ところでお前、アイツらにもアレやったのか」

「やったやった! 聞いてよ〜! 他言しないって彼らに言っちゃったけど!」

クレイースは待ってましたとばかりにテーブルをバン、と叩き立ち上がる。

「いきなり約束を反故にするなよ!」

そんな的確なツッコミを無視してクレイースは先程彼らに魔力を通してもらった魔石をテーブルへ置いた。


「ウィドとロシェに言うのは他言してないと同義! そしてこれがそうだ!」

「同義じゃないですよ。でも皆さん魔力の質が普通より高いんですね」

「そうなんだよ〜。我ながらこれは中々良い収穫だと思う」

嬉しそうに話すクレイースを横目にウィドゥーロスは並べられた魔石を見つめている。

(スピレ)、か。アキの魔物使いとしての優秀さはここからきてるんだろうな」

「魔物使いの魔物との意思疎通や使役の度合いは魔力の質だって良く言われてるもんね。まあ魔物との相性もあるかもしれないけどさ」

「アキさんは魔法使いとしての今後が楽しみですねー。皆さん実力もあるし早く階級上がって欲しいです」

総括も久しぶりに楽しそうですしね、とイローシェは楽しそうに微笑んだ。


「いいなー。私も目を掛けられる様な新人欲しいよお」

クレイースは心底羨ましそうに口を尖らせた。




______________________________





「さて、今日の成果の確認しようか」

北区にある住宅街の借家。ダイニングテーブルの上で彼等は今回得た報酬の袋と書類を置いて話をしていた。

「うーん。重いな〜お金」

シュウは袋を持ち上げ軽く振っている。その度に硬貨の擦れる音が軽快に響く。

「宝石の金もあるしな……素材類はよく分かんねえけど」

「ロシェさん説明してくれたのに。くれた書類にも色々書いてるよ」

アキはギルドから受け取っている報酬の詳細が書かれた書類に目を通す。別紙には素材の説明や写し書き等が書かれている。彼等が倒し拾って来た魔物の素材はいくつかの種別に分かれていた。


亜人の武器や毛皮、虫系の魔物の翅や皮、その中で蜂系の魔物から採れる蜜糖、スライム系の魔物の核。それぞれ武器防具類や服飾の素材、食材、魔道具の素材に分けられている。

「食い物なんて拾ってたか?」

「説明してくれたってば。この丸いやつ」

アキは別紙に書かれた素材を指差す。迷宮で採れる蜜糖などの液体類は全て薄く固い殻の様な素材で覆われて零れない様になっている。取り出す際には卵と同様に割って取り出している。


「なんつーか拾う奴に気を遣った仕様だよなあ」

「地面に零れた物は拾えないもんね~」

拾った素材自体の単価は銅貨や銀貨数枚程度の安価ではあるが、それなりに数が拾え需要も多い物の為妥当な金額設定となっている。中には複数個での単価もある。

宝石は素材と違い富裕層への需要が多くなるせいか、金貨単位での単価が増える。ちなみに魔力を含む為か武器や魔道具方面での需要も高い。



「アキは迷宮に降りる人がいなくなる可能性を危惧してたけど」

「うん」

「こういう事が起こるから、探索する人間が尽きないんじゃない?」

ソウは宝石類の単価が記載された書類を眺めながら笑う。宝石自体は小さい物ばかりだったが、数がそれなりに手に入った為に報酬は差し引きを入れても金貨だけで百枚近くあった。

「宝探しってロマンだよな~」

「全然探してねえけどな」


思い返すと魔物と戦う場面は存在しているが、懸念されていた魔動人形とは戦う事もなく通過した上、人形から今回の宝石の存在を教えられた。その件についてはギルドに不審がられそうなので報告を入れてはいない。魔動人形と戦った際に拾えるらしい大型の核が無い事には一応触れられたが、戦って拾えない場合もよくあるので事なきを得ていた。

「アイツなんで戦わなかったんだろ~」

「……単純に俺らだけなら向かって来てたと思うぜ」

「それはありそうだなあ」

そんな動きをしたのは魔動人形だけで、他の魔物は普通に向かって来ていた為人形自体が何か特異な存在を感じ取れる様な能力があるのかもしれない。彼等はとりあえずそう結論付けた。


「なんか宝石の事も(リズル)の厚意の気がしてきた……」

「あり得る」

四人は顔を見合わせ軽くため息を吐いた。

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