13.地下迷宮の成果と商業組合
「おう、迷宮は苦戦無かったか」
部屋を出ると、訓練をしていたらしいウィドさんが戻り際に声を掛けてくれた。
「少し手間取りはしたけど問題無し〜」
「そりゃ良かったな」
そう言って笑うウィドさんの後ろにはいつの間にか見慣れない女性が立っていた。
「ウィド!」
「クレイース。何の用だ?」
「フフ、宝石の匂いを嗅ぎつけ馳せ参じた次第だ!」
クレイースと呼ばれた耳の尖った金髪の女性は笑みを浮かべたまま、さっき鑑定をお願いしたらしい宝石の入った袋を持って自分達の所に詰め寄って来る。怖い。
「これは君達の成果だとさっき立ち聞きした! 私がきちんと定められた金額を支払うからね! さあ行こう商業ギルドへ! 具体的には私の仕事部屋へ!」
クレイースさんの少し後ろにある受付カウンターでは返してくださーい、と男性職員が言っているが無視されていた。
「ウィドさんこの人は?」
「宝石狂いのエルフ族。これでも商業組合の役員やってて手腕と鑑定眼は確かだから」
「さあ!」
「うるせぇな」
クレイースさんに促され、というか圧力に負けて半ば強制的に商業ギルドへ移動する事になった。行く前に換金手続きの済んだ素材類のお金と書類を受け取った。
「さて、中身を見ても良いかな?」
「どうぞ」
商業ギルド内のクレイースさんの仕事部屋。初めて来た商業ギルドは討伐者のギルドとは装いがまた違い、調度品等があちこちに置かれている。高そうな置物もあって、壊したら大変な目に遭いそう。座っていてくれと促されたソファは腰かけた途端体が沈む位柔らかい。
「様々な等級の宝石がこれだけあるのは久しぶりだな……!」
片目に眼鏡を掛けたクレイースさんは、宝石を器具でつまみながら色や大きさごとに別々の皿に載せている。分けた皿ごとに単価が変わるんだろうと思う。
「色で宝石の等級が分かるんですね」
「うん。それに基本どこのギルドの階級も宝石になぞらえて設定されてて分かりやすいよねー」
話しながらも振り分けは進められてあっという間に終わってしまった。
「しかし最高級の宝石は……あるね? 持ってるね!」
「確かに一個持ってますけど……」
この人一体宝石の何を感知しているんだろう。怖い。
「出して欲しい!」
「嫌です」
即断ったら物凄く絶望した表情をしていた。
「何故! 理由は?!」
「装飾品を作るのに使いたいので」
「そんなあ……ちゃんとお金出すからー! 装飾品も私が用意するからー! おねがーい!」
いい大人に駄々をこねられた。
「でも、この色じゃないと困るんです。他の色では」
机に鞄から取り出した宝石を置くと、クレイースさんはそれを凝視している。しばしの沈黙の後に口を開く。
「その色でなければならない意味があると?」
「はい」
とは言ったものの、神様へのお供えって装飾品よりも食べ物とかお酒とかの方が無難だろうか。
「でもそこまでギルドとして欲してるならお渡ししてもいいですよ」
「本当?!」
「代わりの物用意してくれるって事ですし」
最高級だというなら多分希少価値も高いし需要があるんだろう。提示された交換条件もあるし、宝石自体に固執する必要もないかもと思う。
「ありがとう! ここまでの大きさは久しぶりだ。これより小さな物にはなるけど、同じ等級の宝石が付いた装飾品を用意するよ」
クレイースさんは振り分けていた宝石類を持った後少し席を立って、装飾が施された箱を片手に戻って来る。
開けられた箱には髪留めや首飾り、指輪と腕輪がある。確かに持っていた宝石よりは小さい石が付いているが、それでも十分存在感がある。
「うちで取り扱ってる商品でね。君が装飾品をというなら恐らく女性宛だろう? この辺りでどうかと」
「ありがとうございます。それなら髪留めを」
「了解した! 後、これは私から個人的に」
クレイースさんは執務机に一度戻って、引き出しから何かを取り出している。持ってきて見せてくれたのは透明な石だ。大きさはある程度一定に揃っている。
「魔力の入っていない宝石だ」
「宝石って魔力で色付いてんのか」
「正確には魔力の質で付く。アキは魔法使いの様だし、これに自分の魔力を込めて魔道具を作ったりすると良いと思ってさ」
「なるほど」
一見すると綺麗な透明な石だ。魔力を込めるのは魔道具に魔力を通すのと同じ要領との事。
「一度全員でやってみて欲しい。そしてそれは私が貰う!」
「なんで〜」
「個人の魔力のこもった宝石欲しいから! 蒐集家の性だと思ってくれ」
ウィドさんとかロシェさんにもやって貰った事があるらしい。魔力込める位ならまあ良いかとやってみる。
透明な石は魔力を通すとじわじわと色が変わっていく。最終的には赤色の石に変化した。
クレイースさんは興味深く色の変わった石を見ていた。
色が付いたその宝石を手にとって見てみる。濁りなんかは全く無く透き通った、鈍い赤色。
ソウ兄は紫色、リツ兄は明るい青色、シュウ兄はオレンジ色の宝石になっていた。
「アキは魔法使いのようだから質は高そうだと思っていたけど……予想していたよりも高いね」
「そうなんですか?」
「宝石の等級から考えると上から2番目の色だから、良い。かなり良い」
クレイースさんは何故か満足気だ。そのまま魔力を通した宝石は回収された。
「人間族や獣人族の人は私の見てきた限りだと大体黄色から緑色の魔力が多くてさ。混血と踏まえても……少し異質だね」
「……」
「だからと言って君らを疑いも他言もしない。これそもそも私の趣味だしね!」
「趣味ねえ……」
自分達としてはそれを悪く捉えられなければ良いのかなと思う。後この言い方だと本当にクレイースさんの趣味の様だし。
「それで、対価はこの髪留めと空の魔石で良いかな?髪留めの金額は差し引いておくから。それ以外にも持ち込みの際には色々勉強させて貰うよ」
「構いません。持ち込みの機会は少ないからそこは気にしなくて良いです」
ソウ兄が断りを入れるとクレイースさんは何故か不満気だ。
「えぇー! 持ち込んでよお! 宝石とか宝石とかあ! 後宝石とかさぁ!」
「うーんここまで利己的だといっそ清々しいな」
「商人は利己的であれ」
「開き直ったぞ」
クレイースさん綺麗な人なのに喋り始めると色々と粗があるが、多分こちらの方が本性だろう。食い下がられたけどもし機会があればという話で強制終了させた。
宝石類はいつの間にか換金手続きされた様で、引き取る宝石の等級と大きさごとで単価を詳細に書いて貰っている書類と、今回受け取る金額の了承の為の書類を渡された。クレイースさんからも口頭で補足説明を受けた。
「にしても大金ですね」
「宝石自体単価が高いしね。これは妥当な金額さ」
一日で大金を手にしてしまった。しかしこういう事もあるからこそ皆迷宮探索をやっているんだろうか。
「君達が行った迷宮はねー、時々こういう宝石が見つかるんだ」
人形が教えてくれたあの隠し部屋は、場合によってあったりなかったりするらしい。あったとしても何が置いてあるのかは分からないし、手に入る物の1つに宝石類がある事もあるという程度だ、とクレイースさん談。彼女も昔は迷宮探索していたらしい。
「あ。アキにちょっと話あるんだけどいい?」
挨拶を済ませ帰ろうとするとクレイースさんから肩を叩かれる。
「手短に」
「早く返せ」
「ねー!君のお兄ちゃん達酷くない? 冷たくない?」
「う、うーん」
多分用事が終わったから早く帰りたいんだろうと思う。きっと。
「なんでしょう」
「君、自分の出自を聞かれたことはある?」
つい昨日そんな話をウィドさん達とした事を話す。自分の種族の事はよく分からないんだと伝えると眉をひそめて答えてくれた。
「ハイエルフ。青い目を持っているのは世界でもこの種族だけだ」
クレイースさんによると、目以外はエルフ族と特徴がさほど違わない外見をしている。大昔から森に隠遁してひっそり住んでいるらしく現在でもほとんど姿を見ないとか。
選民思想の強い排他的な考えの人が多いらしくて、時々そういう考えについていけない者が出奔し普通の生活をしている事もある様子。ただ現在は北方の大陸にしかいないので今いる場所では会う事はないだろうとの事。
「でも混血だからってアキ程外見に強く出ているのは珍しいよ」
「そうですか……」
「だから、気をつけなよ。特に北方へ赴くならね」
何があるか分からないんだから、とクレイースさんに軽く頭を叩かれたので頷いた。
ギルド関係の人達って自由人しかいないのでは。




