10.迷宮再びⅡ-種族の話
突っ切って行ける階層まで行く、という言葉の通りあの後もひたすら近付いたり進行方向にいた魔物だけを倒して潜って行った。
今はちょうど十階層で、何かと良く見かける石造りの壁と床の部屋が連なった階層に来ている。前講習で行った迷宮は同じ階層で亜人が出たんだった。
「……」
リツ兄は眉を顰めながら天井を見たり近くの壁を触ったりしていた。
「罠が分かるか?」
「あそこの天井、と床に二箇所。壁は多分左側に何かあると思う」
ウィドさんはリツ兄の回答に感心した様な顔をしていた。反対にロシェさんとアンジェさんは少し怪訝な顔をしている。
「リツさんそんなに察知能力が高いんですか?」
「人間族ですよねぇ」
前にもイルミアが似た様な事を言っていた。獣人なら割と察知能力が高いと言う話だし種族的な疑いっぽい。
「前も言われたなそれ……」
「ま、それは後でゆっくり話すとして。ロシェ、天井の罠を壊してくれ」
「はい」
リツ兄が指した場所に向かってロシェさんが矢を射ると、何かが壊れた音と共に床に落ちた。見ると鋭く太い先端が幾つも付いている。
「こんなん降ってきたら大怪我だ〜」
「ある程度場所が分かるなら近付かないのが一番だが、探索したいなら先に壊すか発動させるのが良いぞ」
「分かりました」
帰還部屋とは真反対にある突き当たりの部屋。やはり扉があり、開けると待ち構えていたのは豚頭の亜人だ。数はそれなりに多いし、槍を持っている奴もいた。
「こないだよりは小せえな」
「よし、やるか。ソウとアキも可能なら頼むぞ」
「はい。アキは無理しないように」
「うん」
皆とりあえず各個撃破を狙って動いている。ソウ兄とロシェさんは距離を取りながら亜人を射抜いたり、他の人の補助をしていた。
自分も少しは戦わないと、と火の玉を発現させる。前よりも簡単に出てきた。
ちょうど自分に向かってきた一体に何度かぶつけてみると、きちんと倒せた。が、効率が悪い。玉を大きく作ってぶつける方が良さそう。その後も複数をいっぺんに発現してみたり色々試してみた。
「アキお前……魔法で実験してないか?」
「うっ」
ウィドさん鋭い。言葉に詰まっていると頭を軽く叩かれた。
「やるならもっと弱い魔物でやれ」
「すいません……」
「アキさん慎重派なのかと思ってましたけど意外とやりますねぇ」
アンジェさんが何故かニコニコしていた。意外なのが面白かったんだろうか。
十階層の魔物を全滅させた所で一旦休憩する事になった。扉の前で少し腰を下ろす。
「ここまでどうだった?」
「あんま手ごたえなかったな〜」
「急ぎ足だったし別に」
リツ兄もシュウ兄も疲れている様な様子は無い。自分を背負って移動していたソウ兄も平気そう。そもそも楽している自分は言わずもがな。
「ところでさっきの話の続きしたいですぅ」
「そうだな。俺も前から気になっていた。他に耳も無いしいい機会だな」
さっきの話、とは種族の話だ。
「皆さんは親御さんの種族とか、覚えてはいないですか?」
「全く」
「物心ついた時には孤児院だったしな〜」
まずこっちの世界の人間ですら無い、とは言えないけど、自分も親の顔は全くと言って良い程に覚えていない。食い扶持減らすのに捨てられた様なものなので思い出せなくても良いのだけど。
「そうですか……」
「俺らは自分を人間だと思ってるけど、何か違うのか?」
「違うな。少なくともリツとシュウは獣人族の血が混じっているだろう」
「そうなの〜?」
察知する能力全般は獣人族の中でも序列はあるが他の種族より遥かに鋭いらしい。なので2人は混血なのではないか、というのがギルド側の見解。
「純粋な獣人以上に鋭い位なのに見た目は人間族だからちょっと不思議でしたぁ」
何かの能力が突出して高い場合はその能力に傾倒した種族側の見た目になるのが世間では普通らしかった。
「ソウさんはそもそも人間族じゃなくて魔人族みたいですしねぇ」
「魔人族?」
「魔人族は大体黒髪が特徴なんですぅ。後眼鏡の下も多分紅い眼なんじゃないんですかぁ?」
「はい……その通りですね」
魔物の変質と同じく人間も変質を起こす。その時に魔物の様な大きな変異は無いが、大抵は紅い眼を持っていて、そんな人達を魔人族と呼んでいた様だ。変質の所為なのか、魔力を多く持っていたり、眼に特殊な能力を持つ人が多いそう。
「アキくんは?」
「アキは判別つかないんだよな」
「燻んだ銀の髪はともかく、青い目は私も見た事が無いですね……」
青い目というのはこっちの世界じゃかなり珍しいみたいだ。自分もそう言えばこっちに来てから全く見た事がない。元の国ではそれなりに居たんだけど。
「んー。あんまり珍しい見た目も考え物ですぅ」
「アンジェさんも種族が違うんですか?」
「私は小人族と有翼人族の混血ですぅ」
小人族は主に北の大陸の鉱山街で活動しているらしい。鉱物や石の扱いに長けている為なのか居住地が限定的だとか。有翼人族は翼が生えている訳ではなく、魔力の具現化した翼を使ってかなり卓越した風魔法を駆使出来るとか。船を動かす仕事に就いてる事が多く割と港町に居住しているそうだ。
「ロシェさんは?」
「私はエルフ族の混血です」
エルフ族は耳が人間よりも長く尖っていて、魔法に長けている。本当に大昔は森に隠遁していたのだと言う。ロシェさんは魔法も結構得意で浄化魔法も使えるので、ギルド内で配布している浄化用の水を作るのも業務の一環になってるとか。
「ウィドさんは?」
「俺はただの人間族だ」
「なんだ〜」
シュウ兄は何だか残念そうだった。
「皆さんこれでもギルド内では結構噂になっていますよ。お気づきでした?」
「俺達何か変な事しましたか?」
「いえそうではなくて」
自分達は他の討伐者の人とはギルド内でくらいしか顔を合わせないし、目が合ったときの挨拶程度の交流しかしていない。というかそれは最早交流ではない。
「目立ちますしねぇ。外見的に」
「そうか?」
「無自覚ならもっとその外見を自覚して欲しいですぅ」
ロシェさんとアンジェさんの反応でソウ兄と自分はそれとなく察した。
「案外お問い合わせ多いですよ、討伐者からも依頼人からも……」
「なんかすいません」
「ギルド側としては依頼に真面目に取り組んで下さってますし迷惑な事は無いんですけどね」
時間を見てみるともう昼に差し掛かっている。雑談も切り上げ休憩も終わりにして、そろそろ次の階層に潜った方が良さそうだ。
「よし、じゃあ此処で俺達は戻るな」
「そういえば途中までお付き合いして貰えるんでしたね」
「久々に探索出来て良かったです。また良かったら」
「私もまた混ぜて欲しいですねぇ」
二人とも現役でまだまだやれそうなくらい強かった。寧ろギルドの職員を誘って良いのなら付き合って貰いたいところだ。あまり潜る機会を持たないけど。
「三人だけ帰ったりできるんですか?」
途中まで、というのは分かっていたのにその辺りの疑問を解消していなかった。
「出来るぞ」
「勝手に全員帰るのが前提なんだと思ってました」
「ああ。管理室には俺達とソウ達、二組で潜った事にしてるから一組が先に帰還というのは可能だな」
前提条件の問題の様。それでも勝手に一人を置いて帰ったりするのは規約違反なので、怪我で他に救援が必要、など余程の事態でない場合は罰則だ。
「それでは気をつけてぇ」
「十五階層までと言ったが無理はするな。まずいと思ったらすぐ帰還しろよ」
「怪我だけはしないで下さいね」
三人に手を振られたので振り返し、背中を見送った。
そういえばあまり話題に出てなかった種族の話です。
主人公達もどういう風に見られてるかっていうのを書いておきたかった。




