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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第2章:街での新しい生活
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7.精霊Ⅰ

ルスタに餌と薬草をあげながらふと空を見た。今日もいい天気だ。まあ、こっちの世界ではいい天気以外の天気は今のところ存在していないが。

朝食の準備の前に、食事をするルスタの近くで当初から庭に設置されている長椅子に腰掛け、改めて空を眺める。


この世界の空も青い。



早朝、天の光がゆっくり大きさを増すごとに、闇色の空は元の世界でも見覚えのある様な爽やかな青色へと変化する。雲は存在しないので光は常に遮られる事なく、夕方小さくなり夜に消滅するまで地上を照らし続けている。

太陽の様に紫外線というものは発生しないのか、光を見上げて目が痛んだり、長時間外にいても皮膚がひりつく様な感覚は無い。自分の知っている太陽とは似て非なる神が管理しているという明るい光。


「さて、朝食作ろうかな」

立ち上がり家の中へ入ろうとした時、不思議な気配を感じた。見上げると鳥ではない何かの影が上空をいくつも飛んで通り過ぎていく。

同時に、突然発生した強い風に煽られてしまい転けた。そんな自分に驚いたルスタが近寄って鼻でつついてくる。

「だ、大丈夫」

庭に敷かれている草のおかげで怪我はないが、杖を家の中に置いたままなのでルスタにつかまらせてもらい何とか立ち上がった。ところをリツ兄に見られていた。

「……どうした?」

「突風に煽られて倒れただけで、怪我はしてないよ」

「あー。珍しいよな、風なんて」

こっちに来てからは迷宮内で風が吹いていた程度で、地上では本当に天候変化はおろか、そよ風すらもない。十分不思議ではあるが、過ごす分に強い違和感は抱いてなかった。

それにしても先程上空を飛んでいたのは何だったのだろうか。気にはなるけどまた見かける機会もあるだろうと考えるのをやめ、準備の為に家に戻った。



ギルドで昨日既に依頼は受けていたので、今日はそのまま南区の正門へ。

隣町へ行く乗り合い馬車や、荷馬車が時々通って行くので街道の脇へ避けたりしながらも目的地に着いた。

「じゃあ二手に分かれて仕事しようか」

基本的に討伐と採取の依頼2つをまとめて受けるので、最初から分かれて仕事をこなす方が良いだろうと兄達と決めている。自分は大抵ルスタと薬草探しだ。

「何採るのー?」

写し書きに目を通しているとシュウ兄が覗き込んできた。今日はシュウ兄が一緒なので写し書きを見せて一応採る草の説明を口頭でもしておいた。

「ルスタも読んどけ〜」

何故かシュウ兄はいつも写し書きをルスタに見せている。ルスタもその度にジッと見ているけど、実は文字が読めたりするんだろうか。

「なんでルスタにも見せてるの?」

「だってルスタ俺より頭良さそうだしー!」

なんとも返答しづらい。魔物は知性もそれなりに高いとは聞いているけど、実際どの程度なのかは相変わらず分かりかねる。

「とりあえず目当ての物探そう」

「おー」

とは言えいつも薬草探しはルスタ任せになる事がほとんど。生い茂る森の中で書いてある特徴に似た物を自分の目で探すのは案外大変だ。ルスタの存在は個人的にはとてもありがたい。

早々にルスタは薬草を見つけたらしく食べ始めたので、同じ物を採って確認する。

「薬草探しはルスタには負けるよな〜」

「そうだね」

ルスタはちょっと得意げに鼻を鳴らして、薬草を毟って渡してくれた。


ある程度必要数を採り終えたら、後は森から出て討伐の方の依頼をこなしに行った兄2人を待つだけだ。その間に薬草を糸で束ねる。シュウ兄は何か出てきても大丈夫な様に近くを見回っていて、ルスタは自分の横で鞄から出していた薬草から違う薬草を取り除いてくれている。

「お待たせ」

「終わった終わった」

「おかえり〜」

そんな地味な作業を黙々としていたらソウ兄とリツ兄が討伐の依頼を終えて森から出てきた。今日も無事に仕事終了だ。

持ってきていた昼食を食べて少し休憩した後、また街までゆっくり歩いて戻る。この調子ならそんなに遅くならず門を潜れるだろう。


後十五分程度で街に到着するな、というくらいの距離になった頃。朝に感じた不思議な気配を再び感じる。見上げると、朝とはまた形の違う影が飛んでいる。

「何だ?鳥……じゃねえよな」

兄達もその気配に気付いて空を見上げていた。もう一度見上げてみると、姿がもう少しはっきりと分かる。

薄い羽が何枚か生えた、小さな子供の様な姿。尻尾の様な物も生えている。例えるならお伽話の妖精の様な雰囲気。あれももしかして魔物の一種だろうか。そんな事を考えていたら、突然空から水が落ちてきた。

「え?」

瞬く間に落ちる水量は増えて、防ぐ間も無く全員ずぶ濡れになってしまった。ルスタはすぐ体を震わせて飛沫を飛ばしている。

「うう〜」

「酷いな。バケツの水ひっくり返されたみたいだ……」

元いた世界では、いきなり凄い量の雨が降る様な現象が起きる事も地域によってはあったと言うが、さっきのはそんな雨に似ている。

『まあ皆様!大丈夫ですか?!』

上着の水気を絞っていたら唐突にリズルが来た。此処街道ど真ん中なんだけど良いんだろうか。

「どう見ても大丈夫じゃねえよ」

『そうですよね……精霊の仕業です、すいません』

「精霊?」

何故か代わりに謝ってくるリズルに聞くと、この世界には精霊というものがいて一応は神の眷属として存在しているらしい。らしいが、基本的に何か定められた役割を持って働いている訳ではなく、管轄の大陸中をあちこち見回りと言い飛び回っているそう。精霊にも種類というか属性があって、朝見たのは風を司る精霊、先程通り過ぎて豪雨を降らしていったのは水を司る精霊との事。

「さっき上にいたやつがね〜」

『水の精霊はああやって時々気まぐれに水を天から落とすのです……どうにも困った子達ですね』

精霊という存在は本当に子供みたいに、無邪気に自分が楽しいと思ってそういう事をしてしまうらしい。風を起こしてみたり、雨を降らせてみたり、地面を揺らしてみたり、だとか。流石に火の精霊はその辺しっかりしている様だ。はしゃがれて火事になったら大惨事だしな。地震もどうかとは思うけど。

「恵みの雨って言うにはねえ」

「うん、ちょっと豪快かな……」

このままずぶ濡れだと体調を崩しそうなので、リズルには悪いが早々と帰る事を伝えた。また家に居る時にでも来てくれたら、と伝える。

『ありがとうございます、精霊には言い聞かせておきますね』

その言い聞かせ一体何回目なんだろうな、とちょっと思った。




「なんだお前達、もしかして精霊の悪戯に巻き込まれたか?」

正門を潜ると、何故か門番の人と話をしているウィドさんと会った。

「最近じゃ全然起きなかったもんなあ。朝もあったし珍しい事だよ」

門番の人も同じように先程ずぶ濡れになってしまったらしく、今の自分達の姿に苦笑いしている。

「精霊が見えたら避難しなきゃいけない事を学んだ……」

「ホントにな」

そんなやり取りをリツ兄と交わしていたらウィドさんが固まってしまった。門番の人も目を見開いている。

「もしかしてお前達視えるのか?」

「えっ」

頷くと、ウィドさんは今度は難しい顔をしてしまった。門番の人と何か小声で話をしてまたこっちに向き直る。

「ちょっと話がしたい。着替えてからでいいからギルドに寄ってくれるか?」

「はい。元々行くつもりですし」

「なら良いな。待ってるぞ」

ウィドさんはそう言って、足早に中央区へ向かう乗り合い馬車に飛び乗って行ってしまった。早い。



精霊、いるんだよなあというのでちょっと触れる話を入れました。主人公達ずぶ濡れにされて可哀想だよ。

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