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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第1章:迷い込んだ『異世界』にて
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2.異世界と変化


「うわ幽霊だ。俺初めて見た」

「ここで死んだのかアンタ」

『私は幽霊ではないのですが……!』

兄二人が早速浮いている女性を幽霊扱いしているし自分も幽霊なのかと思っていたが本人から颯爽と否定が入ったので違うらしい。


長い白髪と明るい青緑色の眼。左側頭部には眼と同じ色の二重の光の輪が浮いている。

よくよく見ると幽霊というよりは御伽噺の妖精や精霊の様な外見だ。羽根が生えていたらもっとそれらしいなと思った。

『私はこの世界を司る神、ユシュトア様の部下でリズルと申します。貴方がたが(ひず)みから迷い込んだ事を察知して姿を顕しました』

(ひず)み?」

『はい。先程通られて来たのでは?』

出口の消えた洞窟の事だ。自然発生したものではなく、人為的に掘られたにしてもあまりに丁寧な掘削だった様に思ったが、そもそも人が掘ったものですらなかったという事か。

「じゃあ、俺達は今どこにいるんだ?」

『端的にお伝えすると、皆様のお住まいだった世界とは別の世界ですね』

「別の?」

その回答からいまいち要領を得ない自分達に、リズルと名乗った女性はこの世界について説明をしてくれた。


自分達が居た世界とは別の世界である『ユシュトア』では、空気や水と同様に魔力というものが存在し、此方の住人達は基本的に魔法というものを使用しているらしい。それは主に生活の一部として、時に動力として、また戦闘であったり、だそうだ。

この世界には巨大な湖を挟みいくつか大陸があって、その中に色んな政治体制の国が存在している。

リズルは世界神から今自分達のいる大陸の管理を任されているそうだ。世界神の部下とは言うが彼女自身も神だと言う。後リズルの他にも管理者は大陸の数だけ存在して各々持ち場の大陸の管理をしていると。


「別の世界なのが分かったところで……聞きたい事色々あるんだけど」

『はい。ソウ殿なんでしょうか』

そんなこの世界の神、リズルには先程簡単に自己紹介をした。と言っても名前くらいだけど。


「まずなんでアキの杖はこういう風になってんの?」

『その様な杖には通常武器が仕込まれているものでは?』

「それはこっちの常識なの?」

護身用に剣もしくは武器を仕込んで使用しているとなるとこういった形状の杖を持っている人はある程度高い地位にいる事になる。

「杖も俺が持っている様な物以外に何種類かあるのか?」

『魔法を戦闘で使う人が持つ杖や、神職者が儀式で持つ杖等いくつかありますね』

それならそちらに合わせたら良かったのでは、と思ったが多分形状が違うんだろう。この件は見なかった事にする。


『アキ殿の杖以外にも、(ひず)みを通った時に恐らく持たれている物の変質がなされているのではと』

「いつの間にそんな事に……」

「不思議だなー」

元々荷物の再確認はしようと思っていたけれどこれは荷物全部をちゃんと見た方が良さそうだ。


肩に掛けていた鞄を下ろし開けようとすると磁石式の留め具がボタンに変わっていた。こっちには磁石やそれに準ずる物は無いのか。

鞄の中は着替えとタオルと水筒、携帯用の食料と痛み止めなんかの薬を入れていた。はずだ。

「……薬が無い……」

鎮痛剤を何日分かまとめていたケースごとなくなっている。代わりに透明度の低い瓶に詰められコルクらしき蓋で封をされた液体が数本入っていた。

これがもしかしてこちらにおける薬なのだろうか。

「痛み止めないんじゃアキくんが困るじゃん。勝手に消さないでよ~」

「どうすんだよ」

『ど、どうすると言われましても……』

「相変わらず二人は息合ってるねえ」

「今そこ感心するところじゃないと思う……」

自分の代わりにリツ兄とシュウ兄が突っかかってしまっているので軽く止めつつ瓶を手に取った。中の液体には薄ら色がついている。これを飲めば鎮痛剤と同じ効果が得られるのだろうか。

「これ……痛み止めなのか?」

『それは回復薬になります。此方では痛み止めを常飲する習慣はないので恐らくそうなっているのではないかと』

そうなると困ってしまう。傷は塞がって何とか歩けているとは言っても、痛みまで完全に引いてはいない。瓶を眺めながら唸っているとリズルが察したらしく提案をしてくれた。

『アキ殿が抱えていらっしゃるお身体の痛みでしたら、私が消しましょうか』

「消す?」

『ハイ。完全に消してしまえば薬も必要なくなるでしょうから!』

すごくやる気満々の顔でこっちを見てきた。そんな行為を易々と受けて良いものなんだろうか。


『そもそもユシュトア様より彷徨人には困らぬ様に恩恵を授ける様仰せつかっていますので』

「そういうのはいいです」

「いらねえ」

「いらない」

『い、一斉に断らなくても良いのではないですか?!』

「兄さん達……」

「だってさ、神様とか言う大仰なモンからなんか貰ったら後から絶対大変だって〜」

「うーん」

『アキ殿も説得しては頂けませんか!?』

「そもそも恩恵って……何を授けられるんだ?俺達は」

『そうですね……皆様に見合った戦闘技能や武器や道具なんかを……』

「うん、それはいいや……」

『何故ですか!』

「シュウ兄の言う通りなんかあったら怖いしなあ……」

授けられかけた技能や武器がどういうものかは分からないがシュウ兄の言う通り後々何か面倒事が起きる可能性が大いにありそうだ。


「俺達は事情があって消えた洞窟に隠れて逃げようとしてたんだ。こっちが別の世界だからって悪目立ちしたくないんだよ」

『そうでしたか……』

「リズルのそういう気遣いはありがたいけどな」

『承知しました。そういうご事情ならばアキ殿のお身体の治癒だけさせて頂きますね』

「あ、それはもう決定なのか」

『それも駄目でしたか?!』

リズルは泣きそうな顔で慌てている。

「それは良いと思うよ」

「薬要らなくなるならいんじゃねぇの」

「いいよ~」

自分の意見は聞かないのか兄達。

自分としても痛みが取り除けるのは有り難い事なんだけど。この際どういう風に取るのかは聞かない。

こちらの薬事情では痛み止めも手に入りにくい様だし。後は歩き辛さと不意に力が入らない事がある程度の支障なのでそれは追々慣れていきたい。

「まあ、そういう事でよろしく」

『よかった……これも断られたら後どうしたら良いかと』

「なんか大変だな。リズルも」

『とんでもないです』


そういう訳で治して貰う為にリズルが近くに寄って来てくれた。肩に手を置かれるが、その感触は無い。見ているとリズルが肩に置いた手に淡い光が灯りすぐ消えてしまった。

『これで大丈夫ですよ』

「ありがとう」

『いえ。お力になれて良かったです』

微笑むリズルを横目に怪我をした箇所に触れるが先程まであった鈍い痛みは無い。こんな事が出来るなんて素直に凄いと思った。神様なので凄いのは当たり前なのかもしれないけど。

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