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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第2章:街での新しい生活
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1.家と鞍と

ギルドから渡された書類の中にあった地図に従って向かったのは、街の北区から更に少し奥。

そもそもこの近辺は住宅地らしく幾つも家が並んでいて、庭で子供が遊んでいたり、洗濯物が干されていたりする。


「此処だ」

借家は門も設置されていて、門から玄関までの通路は石畳で綺麗に整備されている。広めの庭も付いているのでルスタは此処に居て貰えそうだ。

家の裏には井戸と排水の為の側溝がある。多分この辺り一帯の家の共用施設だと思われる。


周りを確認し終えたので家の中へ入ると、一階は台所やトイレ等の共用部が占めていた。水回りはきちんと整備されていて、調理器具もある程度揃っている。今日から料理も出来そうだとリツ兄は喜んでた。風呂は結構近場に共同浴場がある。


後は個室に出来そうな部屋が一階に一部屋と二階に三部屋あった。

「アキは一階にしとく?」

「うん、そうする」

家の階段の上り下り程度はすごく大変ではないけど、毎日だと案外堪えそうなので1階の部屋で寝起きすることにした。

ベッドは備え付けられた物があるが、シーツ類や布団は準備した方が良さそうなので、必要な物を揃える為買い物に出た。



必要品の買い物の前に自分はルスタを迎えに行き、先に鞍を誂える為ウィドさんの紹介の店を探す。南区の正門近くで、看板の下に蹄鉄が下がっている店と聞いていたのであまり迷わずに見つけられた。

「すいません」

教えて貰った店に入ると、老年の男性が此方を見やる。

「何だ坊、使いか?」

「いえ、馬の鞍を見繕いたくて。これ紹介状です」

自分の言葉に男性はフンと鼻を鳴らしてカウンターから出てきた。がっしりとした体格をしていて自分よりも背が高い。現役の職人なんだろう。紹介状を受け取り確認した後自分を見てくる。

「ウィドからじゃねえか。坊、馬は連れて来てるのか?」

「はい」

店の外へ出るとルスタが気付いて少し寄って来てくれる。少し遅れて男性も出て来てくれた。

「キュリルスタング……なんだ坊は魔物使いか」

「そう、ですね……」

魔物使いという響きに未だに慣れない。

「儂が鞍を作るから希望を聞かせて貰うか。坊、名前は」

「アキと言います」

「儂はジョルツィオだ。ジョーで良いぞ」

「ジョーさん。よろしくお願いします」

いくつか希望をジョーさんへ伝える。自分が横乗りが基本な事と、兄達が乗る可能性もあるので通常の乗り方でも使いたい事、後は荷物を括り付けられる様にしたい事。ジョーさんは珍しい注文だと笑いつつしっかり紙に書き留めてくれていた。ルスタに合うように作る為に採寸したいとの事だったので、ルスタには大人しくしてる様に伝えた。ジョーさんに胴回り等を採寸されている間ルスタは身動(みじろ)ぎ一つしなかった。良く出来た馬だ。

「アキ坊が歩いて引く為の手綱も付けた方が良いな」

「引く為のですか?」

「見てりゃアキ坊の言う事をちゃんと聞いてるのが分かるが、使役者が従えてるのが分かりやすいと周りが安心するからな」

ルスタは多分何も言わなくてもついて来てくれるだろうけど、魔物だから手綱を握っているだけで周りの漠然とした不安が解消されるだろうという事だ。

「一週間程時間をくれ。完璧に仕上げてやる」

「はい。とても楽しみです。でも、お金足りるかな……」

最初に予算の話をするべきかと思っていたがすっかり忘れていた。ジョーさんは笑って、後からの支払いでも分割して払っても良いと言ってくれた。完成までは仮の物を貸し出してくれると言うので、そのまま店の外で着け方を教わっているとソウ兄が店に来てくれた。

「アキ、買い物は終わった?」

「さっき鞍の注文終わったところ……」

ソウ兄は多分もう買い物を終わらせて来たらしいが、鞄は収納魔法がかかっているから荷物がなくて分かりにくい。

「アキ坊の兄貴か」

「はい。あと二人います」

ジョーさんはソウ兄をまじまじと見ていた。似てねえなあと呟かれたので同じ孤児院出身とだけ伝えたらそれとなく事情を把握してくれた。

「鞍の件、俺からもよろしくお願いします」

「おう。任せておけ」

「また来ます」

ジョーさんに一礼して、他に必要な物を買いに行く。ルスタは手綱を手にしてはいるが何も言わなくても少し後ろをついて来てくれている。

「ソウ兄は何か買ったの?」

「予備の矢とか手入れ道具とか、裁縫道具をね」

自分も欲しかった筆記具などを買って、ルスタの食べる飼い葉を注文してからリツ兄とシュウ兄とも合流した。

布団や調理器具も用意しないといけないので、皆で生活用品店へ向かう。掛け布団の中身は綿や羽毛が主流らしい。軽い羽毛に決めて注文すると魔道具で圧縮されて折り畳まれた布団が用意される。持ち運びを考慮されていて素直に凄いと感心してしまった。徐々に圧縮から戻ってしまうみたいなので一旦家に戻って布団を各部屋に置いた。



再び街中へ出て、今度は食材の買い出しだ。ルスタには留守番をお願いした。

市場は基本的に一日中開かれていて、決まった広さの区画に屋台が展開されてたり地面に布を置き商品が広げられている。夕方は野菜等の食材と日用品の取り扱いが多い。肉や卵等の生物類は朝市だけ取り扱っていて後は通年営業している店で買えるらしい。

「とりあえず今日明日で食うモン買うか」

「肉買おう!」

「はいはい」

畜産や酪農は隣町で盛んな産業のひとつで、街には毎日新鮮な肉や乳や卵、あと加工された製品などが入荷してくるらしい。

場合によっては時々魔物の肉も並んでいるとの事。魔物と言っても肉として見ると殆ど動物と扱いは変わらない様だ。ただ入るタイミングは分からないので基本は牛や豚、馬や鳥の肉を食べている。


肉屋の近くに干し果物の屋台があってつい立ち止まってしまった。リツ兄はシュウ兄と肉を買って来るとそのまま店に入って、ソウ兄は待機してくれていた。

「こんなに色々あるんだ……」

「お、何か買って行くかい少年」

興味津々に見ていた所為か、恰幅の良いおじさんが色々と試食させてくれた。ただ乾燥させただけの物以外に砂糖、こっちでは粉糖と呼ぶ物に漬けて水分を飛ばした物と、凍らせてから水分を抜いた物等々色んな手法で作られた物がある。

ソウ兄に買っても良いか聞いたら好きな物買いなさいと許可を貰ったので気になる何種類かをお願いした。量り売りみたいなので一旦は同じだけ。少しおまけも貰った。三日に一回程度出店しているそうなので今度また買いたい。

「アキ、それ好きなの?」

「うん」

「そっか。アキの好きな物ってよく分かんなかったんだけど……」

ソウ兄から見てると自分は食に無頓着に見えるらしい。お互い好き嫌いの話もしないし自分でも好きな物はこれという物が無いが、前より色々な物食べる機会が増えたし、他にも好きな物を見つけたいなとは思う。


ソウ兄と話しながら店に入っている2人を待って、市場で野菜を何種類か買って家に戻った。

家の台所には保冷庫が備え付けられていて、魔力を通すと冷却をする魔道具が中にある。この中なら生物は一日くらい、野菜なら数日は大丈夫そうだ。冷却用の魔道具を増やせばもう少し日数を持たせられるのかも。

「さーて、何作るかな」

リツ兄は新しい調理器具片手に少し楽しそうにしている。元の世界じゃ好きに料理作ったり出来なくてちょっと鬱屈していたみたいだし。

「俺もルスタの世話してから手伝う」

「おう頼むわ」

「俺達はその間に洗濯物でも干すね」

ルスタは庭で寛いでいた。鞍を外し撫でていると頼んだ飼い葉を店の人が持ってきてくれたので、庭の隅に置いて貰った。餌箱も一緒に用意して貰えたのですぐ飼い葉を入れると、もそもそと食べ始めた。ついでに薬草も一束程入れようとしたらすかさず横から掻っ攫われたのでもう一束出して入れた。


戻って野菜と燻製肉で炒め物と、生のままでも食べられる野菜でサラダを作る。リツ兄は一羽丸ごと買っていた鳥肉の中に野菜を詰めて焼いた物を作っていた。引っ越し祝いも兼ねて少し豪華な夕食だ。

サラダは調味料を適当に混ぜて簡単に作ったソースをかけたけど、何か物足りなかった。


明日からは討伐の依頼を受け仕事を始める事になる。何も問題無く達成できると良いな、と思う。

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