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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第1章:迷い込んだ『異世界』にて
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1.辿り着いたその先で

基本アキくん視点です。

暗く長い一本道が続く洞窟の中、眼前は尚闇のままだ。

普通は出口側から光が差し込んだりしているものだけど、それが無いということはもしかしたら出口の無い洞窟なのかもしれない。もしくは今までは一本道だったが近々分岐点などが出てくるのかもしれない。と、考えを巡らせていると遠くにポツンと小さな光の点が見え始めた。


「あれ、出口かな……」

「みたいだね」

進んで行く程に光の点は大きくなる。この洞窟の向こう側では一体何が待ち構えているのだろうか。不安を抱きながら、しかし止まる事はせずに、出口へと向かった。

時々体が軋む様な感覚を覚えたり、体の奥から鈍く痛みを訴えられる。出口が見えた安心感から疲労が押し寄せてきたのだろうか。


洞窟の外へと出ると暗闇に慣れた目には少々キツい程の光が迎えてくれた。程なくして光に慣れた眼前には生い茂った木々が広がっていて、遠くから鳥らしき鳴き声も聞こえる。上を向くと日は高く、今は昼の様だ。

「林抜けたのにまた林か?いや、森か……」

そうぼやくリツ兄は、少し面倒そうに崩れた髪を直しながら周りを見渡していた。しかし言う事も最もで、まだまだ歩き続けないと身を潜められる所を確保するのも難しそうに見える。


「アキくん。足大丈夫かー?」

溜息を吐くと下から覗き込む様にシュウ兄が見ていた。

「……少し痛いけどまだ大丈夫」

負傷してまだ完治とは言い難い足をさする。兄達がいつの間にか誂えてくれた杖をいきなりこんなに酷使するとは思わなかったが、これがあるだけでも随分と楽だ。

「太陽の位置がなんかおかしいな。こんなに時間が経過してるとは思えないんだけど……」

空を見ながら、ソウ兄が考え込んでいた。自分達が洞窟に入った時はまだ夜の明け始めた頃で、今昼を回っているとなると洞窟内を六時間以上歩いた様な計算になってしまう。体感ではそんなに長く歩いたつもりはない。

休憩もろくに取っていなかったし、仮にそんなに歩いているとしたらもっと疲労感が凄いと思う。などと考えれば考える程現在の状況と辻褄がどんどん合わなくなっていく事に少し怖気が立つ。


「あれ、スイッチ押したのに消えないな……」

ソウ兄は気を取り直してランタンを消そうとしていたが、スイッチが反応しないらしくひっくり返して確認している。

「壊れた?」

自分も見てみたがスイッチを動かしても光は消えてくれない。また、不思議な事に電池が入っている部分が最初からなかった様になくなっている。あちこち触る内にいつの間にか光は消えていた。

「なんか変だな、さっきから」

「うーん。色々おかしいとは思うけど」

先程から使っている杖の重みが少し変わった気がしているし、肩に掛けた鞄の重量にも少し違和感がある。洞窟を抜けてから違和感が生じてばかりだ。というよりも洞窟内ではとにかく先へ進むのに必死で細かな違和感に気付けなかったのかも。


「何にせよ先に進むしかねえだろ」

「それもそうだな……休憩も取りたいしね」

そう言われて、生じている違和感に関して考えるのを一旦止め、改めて周りを見渡した。

洞窟に入る前に抜けてきた林と同様に、道らしい道は全く無い。また木々の間を縫う様に歩く必要がありそうだ。ただ自分達には目的地が存在している訳でもないし、本来なら携帯必須である地図も持っては来れなかった。辛うじて方位磁針はあったはずだが、現在地も把握出来ない現時点でそれだけでは方角を把握できるだけ。

いっそ洞窟内に戻って少し休憩する方が合理的なのかも、と洞窟の方を向いた。が、その場所には何も存在していなかった。正確には通って来たはずの穴がなく、巨大な岩が鎮座しているだけの状態になっていた。

「え……?」

自分同様兄達もあり得ない状況に茫然としていた。

「こんな事ある?」

「夢かこれ」

「えー休む所なくなった……」

シュウ兄だけ少し論点がズレている。けど確かに休めるのではと思っていた場所が消えているのだ。自分達としては困る。


それにしても不可解な現象だ。試しに岩を触ってみるが簡単に穴の開きそうな硬さではない。では穴は一体何故、どのように消えてしまったんだろう。

「ていうか……最初から何もなかったようになってるけど」

「あったものがなくなるのっておかしいよな〜」

「うーん……」

とはいえなくなってしまったものをとやかく言っても仕方がない。

これでも十分に説明出来ない事柄にずっと混乱しているのだが、下手に騒いでその結果何かが起きては困る。人の気配はしなくても何が出てくるかも分からない森の中で、大した武器も無い状態で襲われてしまったらなす術も無い。


「諦めて日が高い内に先進むか、アキには悪りぃけど」

「ちゃんとついてく」

休憩出来る場所を見つけたら改めて状況確認をしようと思う。



兄達の後ろをついて行く形で森の中を進んで行くが、足場は先程の洞窟と比べれば格段に悪い。

時々木の根に足を取られかけたり、杖を引っ掛けたりして転けかけては前を歩くリツ兄にぶつかって軽く怒られていると先頭を歩いていたシュウ兄が立ち止まっていた。

「ちょっと拓けた所があるよ〜」

「ホントだ」

言われて覗いて見ると少し広い空間があった。倒木も横たわっており丁度椅子になりそうだ。

「一旦休憩取ろうか」

「おう」

幸い地面は濡れておらず短い草に覆われているのでそのまま腰を下ろしてもよさそうだったが、足の事もあるので倒木に腰掛けることにした。


手に持った杖を再確認する。表面がつるりとしたアクリルの持ち手は触り心地こそ変わらないが、何故か違和感がある。他は軽いアルミ製だったはずだが、改めて持って見ると重みに少し変化がある。後気になる事と言えば、持ち手と棒部分が分かれる構造になっている事だ。何か仕込まれているがそんなものは受け取った時にはなかった。少し弄ると持ち手が引ける様になり、案の定刺突用の剣が顔を出す。

「え、なにそれ」

シュウ兄が驚いた顔で杖を見ていた。

「分かんないけど……こんなの付いて無かった気がする」

「用意した兄ちゃんも知らないよこんなの」

ソウ兄も横から杖を触って確認していた。

用意した側が知らないのならやはり最初から存在していないものだ。だとしたらどうしてこんな風になっているのか。

そもそも、自分達は洞窟を抜けて何処に来てしまったのか。


『それは私から説明をさせてください』


ふいに掛けられた声の方向を見ると、身体の透けた女性が宙に浮きながら申し訳なさそうな顔をしていた。

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