18.地下迷宮講習Ⅳ
九階層も八階層の様な草原かと思ったが地面は平坦ではなく少し丘等の緩急もあった。
「あ、上」
「上?」
シュウ兄のそんな声に釣られて見上げると鳥の魔物が急降下してきた。もしかして攻撃なのかと思っていたらリツ兄が弾いて倒してくれた。
「お前狙われてんぞ」
「あいた」
短剣の柄で軽く小突かれる。自分は獲物に見えるらしい。まあ弱いし動けないので間違ってない。
「よーし。落とすか!」
ディルは矢を射って鳥を仕留め始めた。射られた鳥は上空で光の粒になって消えていく。
「ソウもやるよな」
「じゃあ手伝い程度に」
ソウ兄はディルの矢を避けて少しバランスを崩した鳥を撃ち落としていた。
自分も魔法で落とせるかな、と前に出した物より小さく発現させた火の玉を一羽の鳥に撃ってみた。躱されそうなので複数方向に撃ってみたが、狙い通りに初弾を躱され後から撃った玉に当たり鳥は力尽きた。
「アキは器用だな」
「そうですか?」
「火の玉を撃つなんて二日前に初めてやったばかりだろ。それを直ぐ物に出来てるならな」
自分ではもう少し訓練が必要そうだと思っていたけど。初弾で仕留められるならその方が良さそうだし。いっそ追尾とかしてくれたら楽かもしれない、なんて思った。
その後も全滅するまで何回か撃ってみたが、ディルやソウ兄みたいな精度は流石に望めない。それでも一応狙った鳥はちゃんと倒せたので良しとする。
鳥は羽根を残して消えたのがいるらしく、上からヒラヒラと何枚も落ちてきていて、手が空いていたアヴィ達が拾い集めてくれていた。
九階層もあの後特に難所らしい難所は無く、自分達は目的の十階層へと辿り着いていた。此処も来るまでに見かけた石積みの壁で出来た部屋と廊下で構成されている。ただ、下は石畳ではなく土が綺麗に均され敷かれていた。
「さて、目的の階層に着いたな」
ウィドさんは剣に手を掛けたまま喋り始めた。
「此処には地上へ戻る為の魔道具が設置されている部屋が向こう側にある。反対側の部屋には……」
「今までよりも強い魔物が出る」
「まあ、お前達の歯が立たない様なモノは基本出ないけどな」
扉を潜って着いた場所はちょうど目的の部屋と帰還用の部屋の中間地点だ。部屋と廊下がいくつか連なり続いているが扉などの障害物は魔物が居るらしい部屋以外には無い。
じゃあ向かおう、とウィドさんが先導し向かうのは勿論魔物がいるという部屋。兄達は少し怪訝な顔をしている。
「どうかした?」
「んー。何かやな気配がする〜」
シュウ兄はそう言いながら珍しく嫌そうな顔をしていた。
兄達はともかく、何かあっても咄嗟に対応の出来ない自分は一番後ろにいるしかなさそうなので周りを確認しながらついて行く。と、よそ見していたら部屋に到着した様で扉の開く音が聞こえた。
「……よりによってコイツが出るか……」
ウィドさんは魔物を見てそんな言葉を発した。見えたのは牛頭の二足歩行の魔物、らしきモノ。身長は自分達よりも高く、手には剣や斧を持っている。
「亜人じゃないですか!」
「こんなの出てくるのニャ……」
ディル達も緊張しながら武器を構えていた。兄達もいつの間にか武器を構えている。
「今回は撤退だ。反対側の帰還部屋まで急げ!」
ウィドさんの指示に従って急ぎ引き返す。のだけど自分は走れないのでソウ兄が背負ってくれた。亜人と呼ばれた牛頭の魔物は鈍足ながらも追いかけてくる。間の廊下はあまり広くなく、大柄な魔物は一頭ずつ並んで走って来ていた。これなら迎撃出来ないだろうか。
「アキ、何かあった?」
考えていると走りながらも余裕そうなソウ兄が自分の事を気にして声を掛けてくれた。
「此処の通路狭いから、魔法で足止め出来ないかなと思って」
「なるほどね。やってみる?」
「こらこら! お前ら何してんだ……」
降ろして貰っていると殿を担当しているウィドさんにちょっと怒られた。
「魔法で足止めしてみてもいいですか?」
そう言いつつ、発現させる魔法の準備をする。倒す事は出来なくても、最低限足止めさえ出来たら逃げる余裕が出来る。
「中々勇気あるな」
「駄目そうなら俺が逃げれる様に補助はしますから」
「分かった。任せるぞ」
ソウ兄は隣で控えてくれていた。ウィドさんも直ぐ後ろで待機してくれるらしい。
「がんばれアキくん」
リツ兄とシュウ兄も少し後ろで気にかけてくれていた。
「……よし」
目標である魔物も捉えている。多分魔力で硬度は上げられるだろう、と希望的観測をした。杖に魔力を集中させて、地面を突いた。
「いけっ!」
途端に自分の目の前の少し先から、無数の槍状になった土が突出した。自分は目の前から少し先まで発現出来ればと考えていたが、どうも扉の手前程の距離まで発現した様で串刺し状態になった魔物達の悲鳴の様な鳴き声の様な声がいくつも響いた。
「うわあ……」
奥で光の粒が見えたのでこれで倒せたのもいたみたいだ。少しして土は形を保てなくなり崩れてしまう。致命傷は避けた魔物が残っているが動く事の出来ないのが殆どの様だ。動いていても既に満身創痍の状態なのか、先程と比べ脅威は感じない。
「止めを刺した方が良さそうだ」
「お、やるか」
ソウ兄が腰の短剣を抜いて魔物の方へ歩き出し、リツ兄もそれについて行ってしまった。
「お、おう。そうだな」
ウィドさんは自分のやった事に呆れた様な顔をしていたがすぐに我に返って剣を抜き二人の後に続いて行った。
「はあ……」
上手くいけば良いか位に思ってたので、想定外に威力があって流石に驚いた。緊張が解けて思わず座り込みそうになったのをすかさずシュウ兄が支えてくれた。
「アキくんおつかれー」
「疲れてはないけど緊張した……」
「アキ、大丈夫か?」
「すごい」
先に逃げてくれていた四人も戻ってきていた。皆怪我もなくて何よりだ。
「にしても……亜人に遭うとはなあ」
「あんな大型のは本当はもっと下層に出る、はず」
アヴィ達の話だと、どうも先程の魔物は今いる様な浅い階層にはあまり出ないらしい。
「アキ、お前……さっきの戦闘魔法は初めて使ったな?」
「そうです」
ウィドさんは少し険しい顔をして顎に手を当て何か考えていたが直ぐ自分を見て話を再開する。
「うーん……こういう場面じゃ推奨しないな。だが結果的に良かったからお咎め無しとするか」
「すいません、ありがとうございます」
戻って来た兄達の手には、倒した時に落ちたらしい角の様な物や武器があった。
「これ以外もまだなんか落ちてんだけど、どうする?」
「そうだな。折角だし全部拾っておこう」
魔物が居た辺りに散らばっている物を皆で手分けして拾う事にした。沢山居た訳じゃないのに随分色々落ちている。
「こういう武器ってそのまま誰かが使うんですか?」
「いや。大概は素材ごとに分解してしまう。亜人の使っている武器は内包する魔力が高いからな、金属部分ひとつ取っても需要はかなりある」
ウィドさんに聞いてみると答えがすぐ返ってくる。迷宮だと武器がこうやって残るのも不思議な事ではないのだろう。
「これは大男じゃないと振るえないな」
「私持ったら大剣使いになれる」
ファイとアヴィが拾った剣を見ながら話していた。
落ちていた物を全て回収し、確認をする。角と剣や斧等の武器、後は何故か布地や革紐があった。流石に肉は落ちていなかった。というか落ちていたら怖いし食べたくない。
一応ウィドさんに質問したけどやはり二足歩行系の亜人の魔物はそういった食肉系の物を落として消える事は無いと言う。ちょっと安心した。




