17.地下迷宮講習Ⅲ
「よし、予定通り此処で昼飯にしよう」
八階層。前にも通った草原の雰囲気に近い場所だ。サワサワと少し背の高い草が風に揺れている。風が地下でどう発生しているのかは分からないけど大分迷宮の不思議さには慣れて来た。
「腹減ったな〜」
「さっきの肉調理するにしても色々足りないな……」
肉を切る為のナイフは持っているけど、料理するとなると調理器具があった方が良さそうだ。焼くにしても串とか欲しい。周りに木は生えているし串くらいなら加工して調達出来そうではある。
「……良かったらこれ使って」
そう言ってアヴィが何か取り出していた。出てきたのは野外で使う為の調理器具一式。折りたたみ式の焼き台とかもある。
「あとこれも」
いくつか瓶も出てきた。一つ手に取ってみたが全て調味料の様だ。塩や胡椒の他にソースもある。
「色々揃えてるんだね」
「アヴィいつも食う物は妥協しないからさ」
「食は重要」
食べ物は士気に繋がるもんな。折角美味しそうな肉を手に入れたのだからちゃんと調理して食べたいのかもしれない。
「まあ確かに食は重要だが……にしても準備が整い過ぎだろ」
ウィドさんはちょっと呆れている雰囲気だ。
「食い物色々取り扱ってんだ、アヴィの実家。だから大体いつもこんな感じ」
「そうなのか」
「そう。私食べ物にはうるさい」
アヴィはちょっと得意げに胸を張っていた。実家は食堂でもやっているんだろうか。
折角アヴィが色々用立ててくれたので、全員で肉を焼く事にした。周りを少し探索すると小川が流れていたのでその近くに必要な物を設置してそれぞれ役割分担をし準備を進めた。
自分はリツ兄にナイフを借りて肉を切る手伝いをする。しかし改めてこれは衛生的に口にして良い物なんだろうか、と少し思った。
「こういうのって、食べて体調悪くなったりはしないんですか?」
「今の所聞いた事は無いな。流石に日数経つと傷むけどな、生物だし」
ウィドさんはそんな自分の疑問に少し不思議そうな顔をしつつも答えてくれた。
今回は皆で食べるけど、持ち帰って肉屋に卸したりする人もいるとか。
肉が焦げたりしない様に注意を払いつつ、食事を取りながら皆で他愛ない話をする。アヴィが用意してくれた調味料がいくつもあるので気になる物を二、三種類試してみた。甘味が強かったり辛味が効いていたりどれも味わった事のない味がして美味しい。
「皆は魔法って使わないの?」
ふと素朴な疑問を口にすると、何故かウィドさん以外の四人は唸っていた。
「私は苦手ー。そもそも獣人族は魔法不得意なのよ……」
イルミアは耳を伏せて残念そうに答える。セーナもそういえば獣人族は魔法が得意ではないと言っていた。代わりに身体能力の高さを生かして前衛をしているとの事。
「俺才能無いし」
「私も才能無い」
ディルとアヴィにはきっぱり答えられた。でも才能あったら魔法使いたかったらしい。憧れなのかな。
「魔法と剣……両方出来たら戦術の幅広がるし」
「たしかに」
「俺は火を少し……だな」
ファイは家が火を扱うから火の魔法を使えるらしい。でも火を起こしたり火力を強めたりする程度だそうだ。
「魔法自体、魔道具の開発が進んでからは使わない奴が多いからな」
ウィドさんが簡単に説明してくれた。学校で学習自体はするらしい。ただ、それから魔法を自主的に使う人は少ないそうだ。魔道具は魔力を通すだけで良いし簡単だからそれ以上を学ぶ必要もないのかもしれない。
「ウィドさんは?」
「俺は適正がそう高い訳じゃないが火の戦闘魔法は少し扱えるぞ」
「何でも出来るよな、アンタ」
「すげーなー」
リツ兄とシュウ兄は感心している。
「アキ、そういうお前は魔法自体どこまで使えるんだ?」
「えーと……」
火は起こせたし、光もやってみたら上手く発現出来た。後はセーナに軽く教わった水と土の扱いくらいだ。それを伝えるとウィドさんは腕を組み何か考えていた。
「いや、そこまで使えるなら風の属性も使えるんじゃないかと思ってな」
「風ですか……」
吹いてる風をどう扱うのかあまり思い浮かばない。
「あまり難しく考え込まなくても良いと思うが。火と同じ様に起こせる物だと思えば良い」
「うーん」
風と言うと嵐とか竜巻とか、そういう本で読んだ自然現象くらいしか知らない。
「ねえねえ、水の魔法は何が出来るのニャ?」
「うーんと、これくらい」
イルミアに尋ねられたので披露してみようと小川に手を浸け魔力を通す。先日よりももっと簡単に水の球体を作って浮かせられた。動かしてみるとゆっくりだが特に難なく移動してくれる。二回目にしてはすんなりと出来たけど、本来何度も使って感覚を覚えるものだよな、こういうの。
「おー。すごいすごい」
「アキ、水や土の戦闘魔法は何か使えそうか?」
「うーん……」
水も土も、ただ当てるだけでは威力無いし。圧縮して硬くした上で矢や槍の様に尖らせれば出来るのかもしれない。水はかなり加圧すると金属にも穴を開けたり出来ると何かで読んだ覚えがあるし。ただ、土も水もその場に使える環境がないと厳しそうだ。
「どの程度戦闘で役に立つか分からないですけど、何となくは」
「俺としては講習中にお前の戦闘魔法も見せて貰いたいから頼むぞ」
「あ」
すっかり忘れていたけど一応試験も兼ねているんだった。兄達は問題ないだろうけど、自分だけ落ちたらそれはそれで辛いものがある。
「ええと……頑張ります」
「アキなら大丈夫、と思う。頑張れ」
「ありがとう……」
アヴィが励ましてくれた。彼女は小柄だけど剣の扱いはウィドさんも感心していた程洗練されている。ただ本人曰く実戦経験が少ないらしい。経験を積んだらきっともっと強くなるんだろうなあ。
話しながら食事をしていたから自分では結構な量の肉を食べたな、と思う。食器を置いて食べるのを終え、言われた魔法について少し構想を練っていたら周りからは少食じゃないのかと心配された。危うく皿に肉を盛られかけた。
「いや、アキはいつもこんなだぞ」
「そうそう、てかいつもより食べてるよ〜」
「えっ二人共フォローなのそれ……」
「通りで私より細い訳ニャ」
「細い」
女性陣からの視線がなんか痛い。
「イルミアは格闘家なんだし、アヴィは剣士なんだから鍛えててちゃんと筋肉あるだけじゃない?」
「ニャ……そう言われるとそうなのかもだけど」
「アキを鍛えるしかない」
「……俺が鍛えられる流れ……」
これでも怪我をする前はちゃんと鍛錬してたしもう少し筋肉ついてたけど。臥せってた期間で筋肉も体重も削いでしまったからなあ。とりあえず二人に鍛えられるのは回避した。
その後も雑談しながら手分けして食事の片付けをする。
「これ」
アヴィから渡されたのは水の入っている瓶だ。
「この水は?」
「浄化魔法掛かってる。洗い物用」
「……そういうのも持ち歩いてるんだ」
浄化魔法の掛かった水を掛けただけで油等で汚れた皿が綺麗になる。後は普通の水で少し洗うだけみたいなので随分楽だ。
「浄化魔法も誰でも使える訳じゃないんですよね」
「そうだな。浄化と治癒、空間の魔法については全く別の才能の分野だな」
「浄化と空間魔法を使えたら大抵付与魔法も使えるわよ。使える才能あれば職に困らない良い魔法ニャー」
浄化作用のある水を作ったり、空間魔法を鞄等に掛けたりする仕事は完全に専門職の様だ。
「浄化と治癒魔法両方使えるなら神職に就かされる可能性があるけど」
「それはそれで辛いものがあるわよねえ」
「そうなんだ」
「いや常識だろー」
ディルはそんな話につまらなさそうにしている。自分達が無知なだけで誰でも知っている様な話を振ってしまったらしい。
「使ってても良く知らなかったから」
「そーそー」
「ふーん。そっか」
知らない事を訝しむ様な雰囲気はなかったので少し安心した。そこで怪しまれたり問い詰められても特に何も言い訳は無いけど。




