16.地下迷宮講習Ⅱ
草原の次は石畳の廊下といくつかの部屋で構成されており如何にも迷宮という雰囲気がする。壁は同じ形に整えられた石を積んで造られている様だ。
「屋内になったり屋外になったり変なの〜」
「おい、シュウ」
先を歩くシュウ兄をリツ兄が呼び止めようとしていたが少し遅かったのか、床にいきなり穴が出現していた。済んでの所でシュウ兄は回避していたので落ちずに無事だったけど。
「危ねぇって言おうとしたけどシュウだから問題ねぇかと思った」
「言ってちゃんと!!」
どうも此処の階層には罠も少し張ってある様だ。リツ兄はそれとなく察知出来るらしいけど自分は全く感知出来ない。
「壁も迂闊に手をついたらなんか出てくるニャー」
「それは危ない」
「ちょっと良く見たら色とかが違うのよね、ほら」
イルミアも斥候役として働いていて、彼女も観察眼にかなり長けている。指差してくれた壁の一部は確かにほんの少し色が違った。確かによく床や壁を観察してみると罠のある場所には違和感がある。
「押したら何が出て来る?」
「矢とか?」
アヴィは罠が何か気になるらしい。でも押したら多分被害が出そうなので見送った。
此処でもスライムが出てきたので皆で手分けして倒していた。自分は基本出遅れてしまうので見学だ。もう少し参加した方が良い気がする。
「さて、いい時間だから予定通り今日は此処の階層で夜営するか」
またひとつ下も似たような階層で、罠を避けながら降りてきた。今は五階層にいるので予定の中間地点だ。
此処はどうも野営の為に存在している様な階層で、魔物も出なかったし罠やおかしな所もない。最早野営地というかキャンプ地といった雰囲気だ。探索してみると不思議と水場やトイレの様な場所もきちんと存在するのでこれはいよいよキャンプ地である。
それ以外に像が設置してある部屋が何故か通路を挟んで孤立して存在していた。部屋には行ってみたがこれといって特に何もなかった。
迷宮では時間の感覚が鈍りがちだが、時計を見ると時針は7を指していた。割ともう遅い時間だ。
「腹減ったしご飯かな〜」
「そうだな。後は火を起こして見張り順を決めて朝まで、ってとこだ」
ちゃんと薪も拾える様な場所があったので枝や枯草を集めて、火は試しに魔法で起こしてみた。火種程度の物でもちゃんと発現したので魔法は本当に便利だと思う。
火を起こしたから、とリツ兄は五徳と鍋を出して汲んだ水を沸かしている。
「何か作るの?」
「流石に作れねえな、茶を淹れる位か」
旅の為の調理器具は用意が無いし、既に切った食材とかあれば作れそうだと思う。こういう時の為に鞄の収納魔法は活用するのだろうか。後携帯用の食料はまだ手持ちがあったので買わなかったのだけど、戻ったらどういう物があるか見ておかないといけない。
沸かしたお茶は皆に配って、各々が持って来ている食料と一緒に飲んだ。
自分はビスケットと干し肉を食べて後は少し干し果物を齧っていた。アヴィ達にも良かったらと果物を分けるとお返しにと薄く切って干した野菜を貰った。薄らと塩味が付いて、食べるとパリパリしていて美味しかった。
夜番はイルミアとウィドさんとさせて貰う事になった。焚いた火を囲む様に座る。暗くなかったはずの迷宮内もこの時間になると何故か暗くなってしまった。
寝ている皆の迷惑にならない程度に二人と色々話をする。
「兄弟で国出奔って四人も中々大変な事してるのニャ」
「でも、今は国抜け出して良かったとは思うよ」
イルミアとファイは同郷なんだそう。この街からは結構離れた小さい町で昔から格闘術を習っていて、将来的町の自警団を担う為、討伐者の資格を取っておきたいそうだ。今はまだあちこち迷宮探索をしたりしたいと言う。アヴィとディルとは一年程前町の自警団同士の交流で知り合ったらしい。お互い迷宮探索をしたい同士なので組んだとか。
「何処でも魔物って脅威なんですね」
「まあな。戦闘技能と経験がないと無事じゃ済まない事も多いが……ただ小さい魔物なら資格の無い狩人や自警団程度でも撃退出来る」
「町を守れる力量がある人は勿論多い方が良いわ。でもいつだってそういう人員は足りないニャ……」
たしかに。必ず一匹と対峙する訳じゃないし。実際群れを成す魔物もいるそうだ。
魔物や迷宮の存在で、そういう事を仕事にしている人は多いのかと勝手に思っていた。でもウィドさんの話では資格を取れる技量があっても魔物を殺す事に抵抗がある人もいるらしいし、難しい問題だ。
後この機会にウィドさんにルスタの鞍を誂えたい旨を伝え良い店がないか聞くと、馬や牛なんかにつける鞍とかを専門に作っている店があるそうで教えて貰った。他にも革製品の取り扱いをしているので必要な物があればそこで買い揃えるのが良いみたいだ。戻ったら紹介状を書いて貰える事になった。
二人と話し込んでいたら、いつの間にか交代時間になっていたので鞄を枕に眠る事にした。迷宮内は暑くも寒くもなく割と過ごしやすい為かすぐに寝てしまった。
翌朝。といっても迷宮内はイマイチ時間が分かりにくい。水場で顔を洗って朝ごはんにパンを齧る。
準備を整え、扉を潜ると今度は森の中だった。獣道かと思ったが地面は割と平坦で歩き辛さはない。
「魔物が飛び出て来るかもしれないから気をつけろよ」
ウィドさんの忠告に少し警戒しながら歩き、出てきた魔物は手分けして倒す。自分は相変わらずほとんど参加できないのと、つい槍が珍しいのもあってファイを見ていた。持っているのは突くのも斬るのも可能な刃のある槍だ。ファイ自身も槍と相性が良いんだろうか、飛び出して来た魔物を一突きで葬っている。
「槍珍しいか?」
「俺は使った事ないかな……棒術は少し出来るよ」
「ファイんちは鍛冶屋やってるんニャ」
「へぇ」
討伐者の武器を直接依頼されて作ったり、既定の型の武器を作って取り扱う店に卸したりしているらしい。後は生活用具も作っているとか。
ファイ自身は鍛治は見習いだけど、製造品の練度を見る為に試しに振るう役なので武器は一通り扱えると言う。
「イルミアのナックルもうちの親父が作った特注品なんだ」
「凄い」
「そう。私コイツの嫁予定だから特別価格で」
「嫁予定」
「待て……いつの間に親父とそんな話に……」
イルミアの発言にだいぶ驚いた顔をしてしまった。同郷なのは昨晩聞いていた。一緒に町も出てきた様だしお互いに長い付き合いなのだろうという雰囲気は感じていたんだけど、恋愛経験が乏しい自分ではそれ以上の事はよく分からない。
で、それ以上はファイに強制終了させられたので話は終わった。特に問い詰める気はないけど武器の話はもう少し聞きたかったかも。イルミアは「もうちょい押してみるかニャー」と腕組みして考えていた。頑張れ。
その後森を抜けるまではちょこちょこと魔物が出てきて、倒すと時たま肉として食べれそうな部位や最早ただの塊肉を残して消える魔物もいた。この肉は昼に皆で食べようという事になっている。でも肉が塊で残るのは何とも言えない。これが迷宮なんだ、と自分を納得させた。
「最初伝えた通り、今日十階層まで降りたら迷宮の講習は終わりだ。この調子なら八階層辺りで昼だな」
「どうやって帰るんですか?」
「五階層でも見かけたと思うけど、像が設置してある部屋があったろ。ほら、球が浮いてる」
「ありましたね」
「あれは地上へ移動する装置でな、一定階層に現れる仕組みなんだ。十階層にもあるはずだからそれで戻る予定だ」
そんな帰還の為の装置が備わっていたり魔物も出ずに寝る為の階層があったり、迷宮は探索する人達にとって割と都合が良いというか、敢えて迷宮を探索させる為に人側に都合よく作られていると思わざるを得ない。
危険を感じたら引き返せるし、余計な緊張感なく野営出来るのは面白いなとも思う。あまり出入りする機会はなさそうだけど、各地にあるらしいから観光程度に入れるならちょっと覗いてみたいかもしれない。




