15.地下迷宮講習
迷宮探索の講習当日。
という事で昨日一緒に説明や実技試験を受けた四人組と一緒に迷宮へ向かうことになった。目の前には迷宮へと繋がるらしい扉がある。
因みに講習では十階層まで到達したら帰還する予定だ。
「しっかしいちいち面倒だよな……講習とか」
「でも講習で色々習うのは大事。今日ちゃんとやれば資格は貰える」
一番年下らしき射手の少年、ディルは少し不満げだ。それを諌める様に剣士の少女、アヴィラが諭している。
四人とは先程お互いに改めて自己紹介をした。折角一日一緒なのだし仲良く出来れば良いなと思う。
「二組とも揃ってるな。今日行く迷宮は初めて入る者でも難しくないから安心してくれ」
引率してくれる担当者のウィドさんは腰に剣とポーチを携えていた。荷物がそれ以外に無いのでポーチには多分収納魔法がかかっている。四人も荷物は小さめの鞄やポーチのみだった。本当に珍しくはないらしい。
「分かりました」
「よーし。どんどん行きましょう!」
四人組は講習を早く終わらせたいのだろうか。彼らなら資格証は貰えそうだしな。
などと思いながら迷宮の入り口を潜ると暗がりが広がっていた。
「明かりは持ってるか?」
「勿論」
「ソウ達は?」
「有りますよ」
何故かウィドさんは少し考えて自分の方を向いた。
「アキ、魔法で明かりを作れるか?」
「うーん。多分」
空の光の様な物が良いのだろうかと両手に収まるくらいの光の玉を想像しながら両手に魔力を流すと、徐々に光が生まれ、周りが見渡せる程明るくなる。というか光が目に直撃して眩しい。
「上出来だな」
手を退かすと、光はゆっくり上に行ってしまった。そのまま広範囲を照らしてくれている。これなら他に明かりは要らないかもしれない。
「迷宮は地下に伸びているんだが、下層へ向かうのは階段ではなくて扉だ。扉自体が次の階層への転移装置になってるから潜る時は慎重にな」
この下の階層からは明かりが不要になるとの事。自分達は迷宮自体がどういうものなのかも、中が一体どうなっているのかも全く知らないけど、ウィドさんは此処の迷宮を熟知している様なので指示に従うだけだ。
「大丈夫かな〜」
「そう心配するな。お前達程実力あれば此処に出て来る魔物は脅威じゃない。俺も引率しているし」
迷宮の魔物は地上とは少し違っているそうだ。とりあえず怪我だけはしない様に気を付けよう。
「アキ」
周りを見渡しながら歩いていると、いきなりアヴィラが隣に来て話しかけてきた。
「アヴィラ。えーと、どうかした?」
「アヴィでいい。貴方、魔物使いでもあるって聞いてるけど」
「俺、魔物使い……なのか?」
「だって魔物……連れてるって」
ルスタは魔物だし移動手段ではあるけど。尚今日はいない。
迷宮と地上の魔物は完全に隔絶されていて、地上の魔物は迷宮へは行けないし、迷宮の魔物は地上には出られない様になっているそうだ。理由は不明だが不思議な仕組みだ。ついて行きたそうだったが馬房の人にそう説明されて諦めてた。
「どうやって手懐けた?」
「いや……俺は手懐けてない……」
ルスタとの経緯を説明すると何故かアヴィは深く頷いている。
「こっち側の力量を示すのは大事なことだから」
「どう考えても俺の力量じゃないんだけど?」
「でも乗るのはアキだから、アキに懐くし指示も聞く訳。納得した」
「いや、まあ、そうだな……うん」
納得されたからこちらからは何も言わない事にした。事実ルスタは自分の言う事をちゃんと聞いてくれるし、自分や兄達が困る様な行動は取らないし。
「アヴィは魔物使いになりたいのか?」
「なりたい……実は昔から興味ある」
なりたくてなれるものなのかは分からないのだが、応援したい。
「折角なら強い奴使役してえよなあ。討伐楽になりそう」
ディルの意見もよく分かる。強い魔物なら戦闘員として頭数に入れられるし、合理的だと思う。
「え。可愛いふわふわした魔物がいい」
アヴィのそれは愛玩用なのではないだろうか。強くて可愛いのがいると良いなとは思う。いるんだろうかそんな条件満たしてるの。
「ディルとアヴィ意見の不一致じゃーん」
「イルミアは?」
「私が頼るのは自分の拳のみなので!」
そう言いながらなんかカッコいいポーズを決めてくれた猫耳の少女、ことイルミアは格闘家らしくナックルを付けている。出し入れ可能な爪も付いていて斬撃も可能だとか。
「ファイは?」
「あまり興味ないな」
ファイと呼ばれた青年は槍使いだ。答えた後はディルと何か話を始めてしまった。
「また魔物、仲間にしたら教えて欲しい」
「うん、それは構わないけど……」
その予定は立ってすらいない訳だが、そんな曖昧な約束をしても良いのか。という事はアヴィにはつっこめなかった。
「おっ魔物だな。お前達倒してみろ」
ウィドさんに言われて進行方向を見ると橙色の、半透明の体をした何かがうねうね動きながら近付いて来ていた。体の中には球が浮いている。
「スライムじゃん」
ディルが弓を射るとその魔物の球に見事に刺さる。緩慢に動いていた魔物はそのまま動きを止め、しばらくして光の粒になり消滅した。
「あの球が弱点なんだ……」
「スライムは核を壊されたり攻撃されると死ぬし動きを止める。なるべく遠距離から牽制しつつ攻撃するのが最善だ」
「消えたのはそういう仕組みなんですか?」
「ああ。迷宮の魔物は不思議なもんで、倒すとああいう風に消滅してしまう。時々体の部位を残すのもいるからそれを素材として持ち帰ってるんだ」
「そうなんですね」
「おりゃー!」
シュウ兄はウィドさんの戦い方の話をまるっと無視してスライムを殴って壁に叩きつけていた。核は衝撃で割れてスライムは消えた。
「えーと。あれはどうなんですか……?」
「スライムは動きも緩慢だし攻撃動作も分かりやすいけど酸を吐くからな。まあそれに気をつけてれば大丈夫だろ。というかシュウはなんなんだ」
「長く弟やってますけどよく分かりません」
シュウ兄の格闘センスは群を抜いて良いと思うけど感覚的にやってるというか。動物的というか。なんとも説明し難い。
ソウ兄はちゃんと離れた場所から矢を射っているしちゃんと仕留めている。リツ兄は手は出さないらしいけどナイフを構えてちゃんと周りを警戒していた。
「全滅した」
「アヴィ、報告ありがとさん。じゃあ下の階層に向かうか」
スライムが出た以外は静かなもので、先行してくれるウィドさんの後ろをついて扉の方へ進む。
扉を潜ると、目の前には草原。そよ風も吹いていてとても地下とは思えない風景が広がっている。
「すごいな〜迷宮って」
「ここも大した魔物は出てこない。あそこに見えてるのが扉だからさっさと先に進むぞ」
ウィドさんの指差した先には不自然に扉が浮かんでいた。確かに此処ではあまり魔物は襲って来ない。時々向かって来る兎の魔物はディルとソウ兄が矢で仕留めていた。
「ソウ、中々やるじゃん」
「ディルは昔から弓の腕鍛えてるの?」
「俺ンチ代々狩人だからさあ。もう十年は親父に鍛えられてるぜ……普段も小さい魔物は狩ってるし」
「ああ、それは凄腕なのも頷けるね」
二人は射手同士そこそこ意気投合している。ディルは口こそ少し悪いけど、気に障る様な雰囲気は無い少年だ。弟がいたらこんな感じなのかもしれない。
「アキ、お前の荷物持つから貸してくれ」
「えっ。いいよ大丈夫。大した物入ってないから」
皆より遅れて歩いていたらファイがいつの間にか横に来て気にかけてくれた。自分では普通に歩いてるつもりでもこの足ではつい遅れをとってしまう。
「おっと、すまないな。此処の階層は殆ど用がなくてつい急ぎ足になってたか」
「とんでもないです。お気遣いありがとうございます」
そうこうしていたら見えていた扉の前に辿り着いていた。次の階層はどうなっているのだろう。少し楽しみだ。




