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彷徨人達の異世界生活記  作者: 香鈴
第1章:迷い込んだ『異世界』にて
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9.獣人の村Ⅲ

獣人の村に滞在させて貰う事になって二日目。


昨日は晩御飯をご馳走になってから共同浴場に行き宿に戻った。昨日も浴場は使用したのだけど、洗い場も浴槽も広々していて、広い風呂に浸かるのはなんだか新鮮で面白かった。元の世界では浴槽に湯を張って浸かる習慣はなかったし。


「よーし今日も頑張るぞ〜」

シュウ兄はいつもこんな呑気な感じで気合を入れている。話を聞いていると狩りの際に弓と剣の使い方は教わってるが結局普段通り殴ったり蹴ったりしているそうで。狩り大丈夫なんだろうか。怪我がないので一応問題はないんだろうけど。

「アキ、留守よろしくな」

「うん。気をつけて」

兄達を見送り馬の様子を見に行くと今日も歩く気満々の様で既に座って待機していた。何も言わずに乗ると立ち上がりゆっくり歩き出した。

「街に行く時はお前には一日歩いて貰わないといけないな…」

馬は了承の意味か一鳴きした。歩くのは単純に好きなんだろうけど、自分が乗っての移動だし疲れさせるのも良くない。少しは歩こうと思う。


「こんなにのんびりしてていいのかな」

『元の世界ではのんびりされていなかったのですか?』

「うーんそうだな……リズルおはよう……」

リズルは当然の様に来ている。そんなに要注意人物か自分達は。

『アキ殿は』

「うん?」

『私が警戒の為に来ているとお思いでしょうが…そうではないんです』

「違うのか?」

『此方には私と普通に会話をしてくれる人がいないので……』

「いや……それは当たり前だろ」


この世界では崇拝対象であろう神と普通こんな日常会話しないだろう。自分達はしているけど。

「寂しいんだリズル……」

『そうなんですー! アキ殿は私を邪険にしないのでつい……』

自分は特に何も思わないけど、兄達は多分そういう存在とあまり関わりたくないだけだ。多分。

しかしこんなに普通に神と日常会話してていいんだろうか。こっちの世界的に。

『また……と言って頂いたのもあって今日も姿を見せてしまいました』

「そっか。いや、俺はいいけど……この世界的にどうなんだ……」

『何かあればお守りしますので』

「やめよう。そういうの」

こんなの神職者が聞いたら発狂しそうな気がする。

『いえ……私が要因で皆様に何か被害があるのは見過ごせませんから』

「大丈夫だよ、きっと。じゃあ俺そろそろ戻るから。またそのうち」

『はい! よろしければ街に向かわれた時には教会にもお訪ねください』

そう言い残してリズルは消えた。元の世界の教会には全く興味がなくて足を運んだ事はないが、今は少し興味がある。



散歩から戻って、セーナの家の裏に向かう。家に隣接した畑の一角で薬草を栽培しているのだと言う。畑には何やら野菜であろう葉が植わっている。

「あっアキさん。うちの畑ってこんな感じなんですよ」

「水やり、大変そうだな」

「意外とそうでもないですよ〜」

そう言ってセーナは畑の真ん中に向かう。ついて行って見ると畑の中には直線上に置かれた棒状の物がいくつかあり、中央には地下から棒が突き刺さる形で立っている。セーナがその突き刺さった棒に手をかざすと水が棒状の物から徐々に吹き上げてきた。

「こうやって毎日水やりしてるんです」

「へぇ…すごいな」

端の作物にはかかる量が少ないらしくそちらは後から手作業でまいていた。

「薬草は色んな種類植えて喧嘩しないんだな」

「そうですね〜今植えてるやつは大丈夫です。たまに相性悪い草もいますけど」

悪条件でも育つ強いものは植木鉢で別に育てているそうだ。他の草の栄養取りそうだもんな。


「あと今日はここを耕すんですよー」

「ああ、魔法でだっけ」

セーナの話だと、畑を耕すのに土属性の魔法を使うらしい。どういう風に使うのか実演してもらった。

手を地面に置いて、少しするとセーナの前一メートル程が隆起し、下からボコボコと耕されて、種を植えられる程度の柔らかい土になった。

「こうやって自分の出来る最大範囲を耕してます」

「こういう使い方なのか……」

「アキさんもやってみませんか!」

同じ様に地面に手を置く。地中から土を起こすイメージで魔力を手の方に流してみるが特に何も起こらない。

「難しい……」

「アキさんならきっとできますよ〜」

二回程挑戦してやっと少しの範囲を同じ様に耕せた。反復練習を続けたらセーナくらいの範囲も出来る様になるだろうか。


「あんまり魔法に馴染み無くて分かんなかったけど、出来ると面白いな」

「そう思ってくれて良かったです! アキさんもどこかで畑作りする予定なんですか?」

「うーんどうだろう」

元の世界では孤児院で少し菜園を手伝っていた位で農業知識は無いし、住む場所どころか行き先すら決まっていない現段階では何とも言えない。

「でも、何か作物育てるのは興味あるよ」

「いつか実現したら良いですよ〜」

「そうだな」

まだ来たばかりの世界だ。すぐでなくてもいつか家庭菜園が出来る庭のある家を建てられたらやってみたい。

「他の属性の魔法も使ってみますか?」

「セーナは他にも出来るのか」

「私は後は水を少し」

そう言ってセーナは近くの水汲み場に手を入れる。すると、水の一部が球体に変わり宙に浮いた。

「すごいな」

「浮かせるくらいならできるんですけどねー。これを動かせはしないんです」

スス、と球体が動いたと思ったら直ぐに形を崩して落ちてしまった。


「アキさんも試してみますか?」

「うん」

水の中に手を入れる。ここから球体を汲み取る様な感じかな、と魔力を通すとふわりと球体が浮き出てきた。

「わ、すごいですね。動かしてみます?」

「やってみる」

球体の下に手をやって、魔力を通しながら動かす様にする。ゆっくりだけど球体はちゃんと移動して行った。

「おおー」

「難しいな……」

水汲み場から少し離れた地面に球体は落ちて水に戻っていった。

「アキさん、やっぱり元々素質があるんですねー」

「そう、なのかな」

「一回でそれだけ出来たなら、多分!」

グッと拳を握りしめて言われた。まあ素質はないよりある方が嬉しいか。

「後は私全然ダメなんです。獣人族は元々そんなに魔法に強くないってのもありますけど」

「そっか。得意不得意あるよな」

代わりに嗅覚はかなり鋭いらしい。やはり犬系なのか。獣人族にも色々種類がいる様で、多分これから見る機会もあるだろう。


それから少し、セーナと自分達のこれまでの話をした。流石に出身が別の世界だとは言えないのでぼかした言い方になったけど。後は今後これから何処に行ってどう生活するか、という話を少し。

「隣の街は大きいから、行ってみたらどうですか?」

「俺達身分証明出来る物無いけど」

「入る時にお金を払う必要はありますけど大丈夫ですよ。街の討伐者の組合で資格を取ったら身分証も手に入りますし」

「討伐者?」

「はい。皆さん魔物討伐出来る実力があるから取ってて損はないと思って、お勧めしました」

大きい街なので単に観光するにも良いのではないかとの事だ。セーナも時々薬を卸しに行くみたいで、街の中の事も教えて貰った。

「兄さん達にも伝えて決めようかな。明日には発とうと思っていたし」

「ちょっと寂しくなりますね〜。でもアキさん達がこの国気に入ってくれたら嬉しいです」

自分も、最初に出会って世話になったのがセーナ達で良かったと思う。まあ実際最初と言うとリズルなんだろうけど、人じゃなくて神だし。



兄達は今日も色々狩ってきていた。小型だけど魔物も出てきたらしいがそれも倒したそうで。また解体の勉強をさせてもらって、セーナの家に肉を持って行って料理を手伝った。

明日には村を発つ予定を伝えると、寂しがられた。

セーナの家族は皆仲が良くて、素性の知れない自分達にも良くしてくれてとても有り難い。いつか、ちゃんと御礼をしたいと思う。

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