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今日から学校と仕事、始まります。①莞

転生して無又する感じにお願い

作者: 孤独

神様は死んだ者に問う。


『汝、何を願う』


白く広い空間に魂が一つやってきた。

可哀想にも今しがた、理科室にある人体模型を見てビックリし、その拍子で頭を床に打って死んだ男子。


「ぼ、僕はどうなったんですか?」

『死んだよ』


その事実を見えぬ者に言われて、すぐに納得できるか。いや、これはアレだろう。あのノリだろう。そうか、これは転生するチャンスというこよか。ならばと、当たり前に吼える。


「て、転生したい!」

『ほう』

「もっと強くて、モテて、うはうはで、可愛い子とお付き合いできる異世界物で」

『死んでるくせに要望が多いな』

「死んでるからこそ良いじゃないか!」


ついウッカリ、ノリツッコミな反応をしてしまい、神様にご機嫌を損ねさせてしまうミス。即座に返す言葉は、自分を虐める不良共に言うこと。


「あ、すんません。調子に乗ってました。お許しください、神様」

『あー、いいよ別に。要望を一度に沢山言われると、日が暮れちゃう事あるから、とりあえずね』



神様はやはり不良と違って、寛大だった。

とはいえ、夢を聞くのは妄想の中にして欲しいのか。送ってきたのは、1枚の原稿用紙と1本の鉛筆であった。


『箇条書きで良いから、希望を書いて提出して欲しい。条件として、文字数を超えない範囲で記入して』

「ほ、本当ですか!?記入すれば何でも叶いますか!?20行、20字の願いですか!」

『あーうん。興奮せずにゆっくり書いてくれたまえ。ちょっと、席を外すよ』


そう言って神様の気配が消える。自分しかいない世界で、1枚の原稿用紙と1本の鉛筆が、転生する要望を叶えてくれる。


「よーーし」


『転生して無双する感じにお願い』

『可愛い女の子と友達』

『ステータスはカンスト』

『ハーレム』

『チート』

『大金持ち』

『部下は大勢』

『血筋は有能』

『妹が欲しい』

『イケメンとして転生、頭も良い』

『使用する武器は槍』

『自分を崇拝する後輩が欲しい』


などなど


ヤバイ!20行じゃ足りなさ過ぎる!20個じゃ、お願い足りない。



『希望できて、叶う願いは∞個』


こーゆうことを書いておけば、原稿用紙の範囲を超えてもOKだろ。好きなだけ、思っただけ書けるぞ!



30分後。


神様が戻ってくる。


『願いはできたかね?』


神様が原稿用紙を見た時、そこには大小の文字が原稿用紙の枠をはみ出て、大量の願いが記されていた。

どんだけこいつは欲張りなのだろうか、そう思った事だろう。単刀直入に嫌らしく、傷つく事を言う。


『これじゃあ、なんの願いが書いてあるか分からないよ』

「ぐあぁっ!?今、178個目の要望を書いたのに!ここに叶う願いは∞個って書いてあるから!全部叶えてくれるだろ!神様に二言は無いだろう!」


そうやって強気な事を神様に言って、優位に立とうとしてみたが、


『じゃあ、∞個の願いを書いてよ。そうしないと、何も願いを叶えないよ?』


予想外にして、もっとも嫌らしい返しをしてきた神様。調子に乗って墓穴を掘ってしまった。∞個もこの原稿用紙には書けないし、そもそも浮かばない。100ぐらいにしておけば良かった。


『まぁいいや。100以上もう書いているみたいし、この中からテキトーに選ぶよ』

「え!?」

『全部、叶えられるわけないじゃないか。まぁ、しても良いけど。君、こんな要望を全部通したら、死ぬまで決められた人生を送るよ。ここに書いてある女の子と絶対結婚するし、浮気もできない、要望が全部完了するまで、死ぬこともできない。笑う顔をする時はいつも同じになるよ』


なんだか急に焦らせてくる言葉の言い回しに、焦り始める。

そう言われたら、ハーレムになったとしても全然恩恵がねぇかも。そして、神様は原稿用紙を持ち去ろうとしていた


「ああー待って!タンマタンマ!」


それを取り替えそうと、あるいはちゃんとした本心の願いを叶えて欲しいと、持っていた鉛筆で最後の。本当の願いを書こうとしたが、



『時間切れ。目覚めたら、要望は叶っているよ』


本当の願いを書く前に、神様は要望に応えてくれる原稿用紙を持って帰ってしまった……。

トホホホ……なんの要望が叶うのやら




◇   ◇



「ハッ!」


目が覚めると、僕は起きていた。


「ううっ、なんだったんだ。あの神様は……ともあれ、場所は……」


目覚めた場所は薄暗いところ。しかし、奇妙にも机や椅子もあって、白板もあって、ビーカーやら置かれて、人体模型もあって……ってことは、ここ普通の理科室じゃん!全然、代わってない!神様なんて幻だったか。


「くそー、甘い話なんてあるわけないか。というか、不良の連中。僕をここに閉じ込めて」


起き上がって、なんとか鍵の閉められたこの理科室から出ようとする。財布もとられちゃってる。いつも、飲み物を買うくらいのお金しか持ち歩いていないけど。


「理科室の水はマズイよね……あれ?なんか重い」


そのとき、不意に自分の体の異変に気付いた。胸がなんか重い。

窓に薄く映る自分の、普通のブレザー姿にも違和感がある。顔もなんか、かなり女らしいというか、理想とする彼女の顔で……胸を見たら、明らかに膨らんでいて



「女になってるーーー!!?」


股を触れば、男のアレも消えていた。


◇    ◇



「広嶋くん、これなんて読む?」


アシズムはとりあえず、本来の原稿用紙の一行目の願いを叶えようと思った。


「字、汚ねぇ。なんだよ、その殴り書きは」

「説明してなかったっけ?”要望用紙”っていう能力なんだ。試しに使ってみた」


スタイル:魔術

スタイル名:要望用紙


専用の原稿用紙に専用の鉛筆で書いた要望を叶える事ができる能力。

ただし、能力者は要望を記す事ができない。記された要望は全て叶えられるが、叶えられるまで次の要望が叶う事はない。無理難題を記した場合、要望を出した者は∞ループに入り、世界から孤立する。死にたくても死ねず、生きたくても生きることができない。要望用紙が使えるのは1人に付き、1枚だけ。


「選択を希望してるから、この一行目を叶えようと思うんだけど。読めなくてね」


読めないというよりか、鉛筆の線が上手いこと一文字に入って、日本語にされなくなった。


『転生して無又する感じにお願い』


無又むまたって何?そんな言葉、日本人って作ってるっけ?」

「神様やってるテメェが分からないなら、俺もしらねぇよ。日本人でも日本語理解できてねぇの多いから」


面倒くせぇ、そーゆう顔が滲み出て、想像の範囲内でテキトーに言葉を合わせる広嶋。


「無い又って考えて、……玉を取れって事だろ?転生って言葉も入っているし、そんな感じで良いだろう?つーか、どーでもいい」

「なるほど。まぁ、そーなのかもね。じゃあ、僅かに見える女の子の特徴をインプットしてあげようっと」



◇    ◇



「や、やばい!!やばいよ!なぜか分からないが女になってる!?それも」


神様がホントにいたとか、そんなレベルじゃない。何がヤバイってこの顔、この体。間違いない。男子用のブレザーを着ていても、ハッキリと分かる。


「ぼ、僕の好きな……名前も知らないけど、あの子と同じ顔、同じ体型になってる!!?」


な、なんでだ!?入れ替わった!?違う!これは僕の肉体なのは絶対間違いない!どうする!?どうやって戻れるんだろう!これは今から理科室を出て、少しでも人と会えば大変な事になる!あ、でも今。理科室から出られないんだった。


「いや、そんなこと言っている場合!?」


興奮しながら、なぜだか頭も妙に冴える。理科室の上の小窓。あそこはこちらからでも開くし、廊下に出られる。椅子をいくつか重ねて、なんとかよじ登って……



「ほっ!出れた!」


そして、どうすれば良い?まずはこの子に会いに行くべき!もしかすると、身体が入れ替わっただけかもしれない。いやでも、そんなわけないような。っていうか、何組の子さえも知らないし!


「うああぁぁっ!」


とりあえず、廊下を走ろう。胸が重いけど、思いっきり走って、教師の前でも猛烈に走って~



「何をしている風岡!!廊下を走るなーー!」

「はっ!ごめんなさい!」


教師の怒鳴り声。肝心なことはこの子の名前!



「私は風岡って言うんですね~!」

「!?というか、風岡!なぜ男子の制服を着ているーー!?」


注意した教師も振り切るほど走る。自分の体だったら、凄く弱いからもうバテバテになるけれど、この風岡ちゃんの身体って凄く頑丈だ!名前は分かったけど、結局まだどこに行けば良いか分からない!風岡ちゃん、本体は一体どこに……?


「風岡さーーーん!」


そう迷った時。自分も風岡だけれど、風岡って叫ぶ。珍しい苗字だからその声に反応して周囲が動くだろう。にしても、声のトーンまで女の子になっている。きっと、風岡ちゃんの声なんだろう。

しかし、予想外な出会い。


「私を呼んだー?」


なんと、教室からご本人である風岡さんが飛び出して来る珍事。ダッシュで走っていた自分はそれに気付くも、停まる事ができず



ドガーーーーンッ



「あいたたた」

「もう、なによ……」


奇しくも倒れ方が同じ。唯一、違うのは女性用のブレザーを着ている本物と、男性用のブレザーを着ている自分という偽物。その目と目が合う。


「「あ、」」


分かっていても、分かっていなくても、鏡のように映る自分自身に



「「ドッペルゲンガーだーーーー!」」


恐怖を感じ取って叫び、互いに気を失うのであった。ぶつかった衝撃も因果関係としてあるけれど……。





◇     ◇




『風岡さん、この神様から頼みがあります』


風岡さんは朦朧とした意識の中、神様の声を聞き、1枚の原稿用紙と1本の鉛筆を渡された。


『高橋くんを元に戻して欲しいという、要望を書いて欲しいです』

「あの。私、死にましたよね?私、神様にあったら自分のお願いをしたかったんですけど」

『死んでません。生きてます。しかし、要望を書いてくれないと現世に返すわけにもいかないんです』


わけわからん。高橋って誰?


「なぜ神様が人間にお願いするんです?」

『愚かな人間の醜い願いを叶えてしまったからです。人間の罪は人間が償うべきかと』

「神様のミスじゃないですか」

『あ、はい。そうです。返す言葉もありません』


随分、腰の低い神様だ。理解してできないだろうが、説明はする。


『高橋くんの願いは、あなたに生まれ変わる事だったんです。願いを叶えてみたら、ご本人のあなたにも迷惑が行ってしまい、もう止めた方が良いかなと』

「気持ち悪い。とはいえ、確かにその願いをしないと大変ね」

『はい、その通りです。さっそくお願いします』


そうして、風岡さんは”要望用紙”に仕方なく、『高橋くんを元に戻して欲しい』と記入した。



◇      ◇


「あいたたたた」


意識は現実に戻る。先ほどまで、まったく同じドッペルゲンガーがいたが、ぶつかった拍子か用紙に要望を書いたからか、元の姿に戻っていた。


「ちょっとどこ見てたのよ!?」

「あ、ああ。ごめんなさい」


夢の一時が終わった高橋くんは起き上がり、謝る。その面をマジマジと見る風岡さん。


「あー」

「本当にごめんなさい」

「!」


ただの気持ち悪い男子を想像していたが、


「あんた。いえ、高橋くん。ケーバン教えなさいよ」

「え?」


男子が妬むのも理解できる、小動物みたいな可愛い系の男であると知り、すぐに連絡先を訪ねる風岡さんであった。



『めでたしめでたし』

「んなわけねぇだろ!」


その様子にホッとしているアシズムに、殴りかかる広嶋であった。

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