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見渡す限りの青い空。
穏やかな風と暖かい日差し。
なんて素晴らしい昼寝日和なんだろう…
「暇ね」
今にもため息が出そうなくたびれた声が聞こえてくる。
透き通るような美声といって過言ではないものであったが、張りのなさから台無しである。
寝転がってる自分よりやや上のほうから聞こえてくるということは、声の主は座っているのだろう。
「暇だな」
目を閉じたまま言葉を返すも、こちらもやる気のない声。
壁に設置されたスピーカーからチャイムが鳴り始めるが動き出す気配はない。
そもそも二人がここに来てから数回チャイムが鳴っていた。
若者らしくゲームをするでもなくスマホをいじるでもなく、たまにするのは言葉遊び程度の短い会話。
それでも居続けるのは惰性によるものなのか。
単に動きたくないだけだろう、というのは全くもって否定できないところである。
「望んでた日常がこんなにもつまらないとは」
薄目を開け天辺に到着した太陽に向かって手を伸ばしてみる。
もちろん届くはずもなく、深いため息を吐いて腕を下ろす。
ため息を吐くと幸せが逃げるというが、幸せが逃げた後のため息はどうなのだろう。
しょうもないことを考えていると、不意にお腹から空腹を訴える音。
ジト目で見られている気がするけれどそんなものは無視である。
「飯、食いに行くか」
「…そうね」
上体を起こすと見えてくるのは住み慣れた町。
未だに懐かしい、という感覚が消えない我らがふるさとである。
大きく欠伸を一つして立ち上がり、固まった体をあちこち伸ばす。
んぅー、と気の抜ける声も聞こえるから同じことをやっているのだろう。
一通り終えて目が覚めてきたので屋上の扉を開ける。
裏には生徒立入禁止の文字。
鍵を閉め忘れると面倒なことになるから忘れないように、とこの鍵をくれた先輩のありがたいお言葉はきちんと守らねば。
うむと頷いて鍵を差し込んで、まだ壁に背を預けてぼーっとしている奴に声をかける。
別に俺が鍵をしめる必要もないか、と階段を降り始める。
今日も特に何もない半日が過ぎた。
この胸をよぎる寂寥感は錯覚であると信じたいものだ。