外れ通りの光景
注意深く通りを進んで、相手を探す。なんだか視線が少なからず集まる気もしなくはなかったが、無視して歩を進めた。
外れ通りは端から端まで百メートルもない。徒歩で一分程度しか掛からないし、ゆっくり歩いても五分と掛からない。
――いない。
通りを抜けて、馴染の深い夜闇の町を見付けた時、杏華の胸には僅かな安堵と残念さがあった。
もう一度戻ってみるべきか、一度出てから時間をおいて、再び入るべきか――。
悩み、そしてもう往復するだけしてみようと言う答えに達した。
先ほど見た店並びを、逆から眺めながら人に注視して歩を進める。
さほど広くない道では、再びまみえる人も少なからずいる。彼らは再び歩いてきた杏華に向かって、何度か声を掛けた。
「ねぇきみ、うちで遊んで行かない?」
「いえ、結構です」
ホスト風の男子に断りを入れる。
「君、いくら?」
「……何を言っているんですか?」
「いくらだって言ってるんだ。ウリだろ」
「違います。では、急いでいるので」
売春と勘違いした中年男性の脇をすり抜ける。
「なぁ、あんた。クスリに興味ないか? あんたなら良い夢見られると思うんだけどなぁ」
「ありません。自分を壊す気はありませんので」
薬物を売りつけようとしたまだ若そうな少年を置いて行く。
「あら、……あなたかわいいわね。どう、うちでバイトしない? 言っちゃなんだけど、あなたなら高くつくと思うわよ」
「必要ありません。お金に困っている訳でもないので」
如何にもいかがわしい商売だと言わんばかりの、艶めかしい女性に背を向ける。
何人もの人に声を掛けられ、似たようなやり取りの後になりようやく抜けた通りを再び遠目で確認していく。また、居なかった。