決意
杏華は冬の寒空の広がる窓の外を眺めていた。受験も最終局面に差し掛かったが故の、先ほどから教室内を漂う、教師の必死な言葉も無視している。
授業は退屈だった。いつもと何も変わらないように過ぎていく公の時間は、けれど杏華の中ではいつもと異なる色をして過ぎていた。
――復讐。
たったの二文字に出来る言葉が、杏華の思考を周囲から隔絶させる。
ふくしゅう。今までの人生なら、この音をする言葉から拾えるのは、毎日のように繰り返す夜の勉強だけだったのに。杏華自身と同様に、たったの数日でその意味は変わってしまった。
それを成し遂げるために必要だと杏華がまず考えたのは、何はともあれ当人たちを見付けなければと言うものだった。知っているのは、相手の顔だけ。曖昧な記憶の中で、深く刻み込まれたように浮かぶ悪魔の顔たち。
ただ、当てがないわけではなかった。別に、杏華本人がそういったアウトローな人生を送ったことがある、というわけではなく、この街の人間なら誰でも知っているようなアウトローの巣窟が存在するのだ。
杏華はその場所の記憶を呼び起こして、僅かに眉を潜ませながら、それでも自身の行動を明確化させるためにそっと呟いた。
「やっぱり、あそこに行くのが一番確実……かな」
一般の人からは『外れ通り』と呼ばれる通りがある。小さな商店街のようなところだが、対面する店の間に広がる道は、商店街と比べてずいぶんと広い。いくつもの集団が横行できる場所だ。
昼は学校を休む不良の常習犯などが多くを占める人気のない場所だが、夜はその手の――良識の反対にある商売が横行するある意味賑わう場所。
特に、夜の通りは昼に訪れる人もまず訪れない。正真正銘の裏の場所だ。街の不良の間では、深夜のその町に行くことが一種のステータスでもあるらしいが、そのまま裏の世界に引きずり込まれた……と言う話も聞かないでもない。
「……仕方がない、よね」
自分に言い訳をするように、杏華は呟いた。
ぽつりと呟いた言葉は、窓の外の冬の風に同調するかのように流れて、温もりを失くして消えていく。
教室内に響く雑音は、全て杏華の意識の外の出来事だった。