母のような女性とのショッピング
デパートの中にあるブティックで香織に見繕ってもらった服は、若者受けしそうなシックなデザインのものをメインとして、ほかにジーンズとTシャツと言ったラフなものもあった。
因みに今は、ストライプの柄シャツの上にセーターと、黒いジャケットを着ている。下の傷だらけのジーンズはダメージパンツと言うものらしい。いろいろ説明を受けたが、そんなものは知るかとばかりに和樹はただあてがわれた服に是非の判断を付けただけだ。
正直言って、よれよれのYシャツから文字通り垢ぬけた姿となった和樹に、視線が幾つも突き刺さる。
ただ、一向に手放さない煤けたコートだけが、妙に浮いた組み合わせとなった。
初めは新しいコートを持ってきた香織だったが、コートについてだけは強硬に否定した和樹に譲れないものを感じ、すぐに諦めてくれたのは幸いであった。
「うーん……なんか、注目されてるなぁ」
和樹が戸惑いの声を漏らすと、横でくすりと笑った香織が上目遣いで覗き込んで言う。
「和樹さんが魅力的だからですよ。そんな和樹さんと買い物ができて、私は鼻高々です」
「あなた人妻でしょう。何トチ狂ったこと言ってるんだ!」
悪態を言いつつ、和樹は香織に付いて買い物を済ませる。デパートの地下と言う、いつも商店街を利用している和樹からすればただでさえ気後れしそうな場所での買い物だったが、周囲八方からなじるような視線がさらに精神的に追い詰める。
特に多いのが中年のおばさんと、何故かカップルの視線だ。
……よもや、香織とカップルと思われていると言うことはないと思うが。
「……何でもいいから、早く済ませて帰りましょう」
憮然とした態度で言う。気後れなど、微塵も感じさせないその態度に、周囲は呑まれるかのようだ。
それでもやせ我慢に過ぎない和樹は本心からそう言っていた。
大体、自分が魅力的だなんて土台信じられる話ではない。
そもそも何でこんなところで買うのか……デパートの市場に興味はあるけども、こんなに注目を集めるのなら商店街で良いではないか。
「まぁまぁ」
それが何に対する「まぁまぁ」だったのか。素直に慰めていたのか、子供染みたわがままを諌めていたのか、ただの相槌か。それを知る機会はなかったけれども、結局この日は三時間以上もデパートで過ごした。




