今朝のこと
……これは、今朝の話である。
誰もいない公園で、一人の男がそっとアンニュイな空気を発していた。
昨夜、勝利者権限で妙な一般人だった少女から聞き出した、彼女の目的とは簡素なものだった。
――復讐。
それが彼女から聞き出した、彼女の成そうとしている事だ。
「はぁー」
公園のベンチに座って溜息を洩らした。彼女の家の近くにあった公園だ。
「中々強かったなぁ」
竹刀の突きの速度が素人のそれではなかった。受け止めるつもりが、弾くことを強いられた。
だが、躊躇いがあった。誰とも知らない人間に向けることに対する躊躇いが。
かといって、情け容赦なく向かっていたとしても負けるつもりは皆無だが。
「襲われた……か」
話の最初から最後まで、少女は語ってくれた。いや、半ば語らせたようなものなのだけど。
「警察の怠慢……だけじゃあないよなぁ」
最近のこの辺りで、何か裏がありそうだ。連中が増長する何かが。
『どうして襲わないの』
あの少女が呟いたあの言葉は、理不尽を体験したが故の言葉だ。その言葉に込められた気持ちは、誰にも推し量れない。きっと、当人にさえ。
『俺が必要としていたのは、理由だからな』
そう返したオレに、彼女は不思議そうな顔をしていた。その気持ちも、何となく分かる。
オレのようなアウトローが、自分の欲望を抑えることが不思議だったのだろう。過去に欲望のままに襲われたことがあるのならなおさらだ。
「……やめる、か?」
彼女が、復讐を。……どちらともいえない。
時が癒すかも知れないし、癒さないかも知れない。ただ、一生忘れられない可能性は十分以上にある。
「放っては置けない、か」
何よりも、彼女の気持ちが理解できるから。
傷を抱えたまま、生きていくにはこの世界は寒すぎるから。
だから、何かをしてやりたいと思ったのだ。自分の仕事のついでに。
男はそっと身にまとうアンニュイな空気を振り払うようにバッと立ち上がると、昨日知った木造の民家へと足を進めた。




