(5)
遥かな昔、地表に落ちた神と呼ばれた存在は、六つの化身に姿を変えた。
火、水、風、土、光、闇
それら化身はすでに神と呼べる存在ではなかった。いつかは死が運命付けられたからであった。彼らは交わり、自らの分身を残していった。闇の化身のみ地の底で眠りについた。
光と風が交わり空を創る。火と土が交わり火山を創り、光と水と土が交わり緑を創った。
人はそうした交わりの中で創造された。人にも属性が伝達され、火の属性はの人は戦いに向き、水、土野属性の人は漁師、百姓の才能がある。風は旅人、商人に。光は神を崇めるものに。
しかし人は地の底に眠る闇を見つけ眠りから目覚めさせてしまった。闇の化身はに人に倒された。しかしその屍は人を呪い、またそのものに力を与えた。闇属性の人の始まりであった。
新たな王が誕生した。その者は虐げられた闇の一族を従え、外敵を退け国内を平定し力を失った先王を追放した。そして一時期の平和が訪れた。
その王の名はソウリュウ。彼が一度剣を振るえば大地が切り裂け、怒号を発すれば雷鳴のごとく天空まで轟く。戦場に立てば、味方は歓喜の声を上げ、敵はその姿を見るやいなや後ずさりし逃亡したという。その武勇の王も今は政務に奮闘する。
黒光りする一枚板の机に頬杖をつき、飾り気は無いががっしりとした椅子に座るソウリュウ。彼の対面には政務官がずらりと並び、彼の決裁を待っている。その行列は執務室の入口を抜け廊下まで続いた。
ソウリュウは提出された書類に一つ一つ目を通す。つい一週間前までは有能な副官が彼の脇に立ち、助言なりアドバイスを与えていた。だから、このように政務が停滞することもなかったのだが。彼はため息をつく。
「アガスはまだ、自宅に謹慎しておるのか?」
「左様でございます」
「この有様を奴は知っているであろう。よくのんびりと自宅に籠っていられるものだ」
「王が自らご命令なさったからでありましょう。もう半月我慢なさるか、それとも謹慎の命を撤回されるしかありません」
行列の一番先頭の政務官の言に、ソウリュウは荒々しく書類に国璽を叩きつけた。
「これって、お爺さんの書いた小説の続きかしら……」
私は部屋の中の棚の一箇所を見る。第一巻から綺麗に並べらた数字は、棚の三段目まで続いている。パパによく読み聞かせてもらったこの本も、元々はお爺さんが、体が弱く家に閉じこもっていることの多いパパの為に書き始めた小説だった。
パパもお爺さんと同じように小説で私の寂しさを紛らわせたかったのだろうか。ママにこの本が遺書と言われて、私はもっと違うよう文章が綴られていると思っていた。