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エピローグ

「ごめんなさい!」


 いつかのように清々しく晴れ渡った、青い空の下。大学のキャンパスにある白い五階建ての講義棟の横で、黒髪ボブカットの女性は頭を下げていた。

 女性の服装はコットンシルクの白いロングスカートとレースの走ったドビーシフォンブラウスの清楚で可愛らしい格好をしている。

 一方で、女性の前にいる男は茶髪のワイルドウルフ。下はジーンズ、上はジャケットを着込んでいて、耳にピアスをつけた線が細くてもワイルドさを漂わせている男性だ。

 しかし、男性は顔をしかめて驚いていているようだった。まさか断られるなんて、とでも言いたげだ。


「私、好きな人がいて……。ほんとにごめんなさい」


「そ、そうなんだ。はは、まいったな」


 男は、肩を落として去っていく。しばらくして女性もその場を離れようと歩き出すと、誰かが目の前に立ちはだかった。


「紗代、見てたわよ。これで九人斬りね」


 紗代の目の前に立ちはだかったのは、真理だった。明るい緑色のドット柄ブラウスと、紺のジーパンをはいている。

 その後ろでばつの悪そうに頭をかいている男は、灰色のシャンプレーシャツと黒のジーパンといった格好をしている。真理の彼氏の、義仁だった。


「いやー、止めたんだけどね。悪いやつだったらいけないからって、真理のやつが聞かなくて」


「何言ってるのよ。今年のミスキャンパスに何かあったら大変でしょ」


「ふふ、ありがと」


 紗代は困ったような顔をして、笑顔を作る。そんな紗代の前に、真理の手が差し出された。


「それに、今日はあの日でしょ。さ、行きましょう」


 紗代は頷くと、真理と義仁ともにあの場所へと歩き始めた。




 住宅街の中にある、小さな路地を抜けた先にある秋葉神社。義仁を生き返らせるために戦ったあの日から、三年。三人は、月に一度必ずこの場所を訪れていた。

 真理と紗代は、あの二人が必ずこの場所に来ると信じているのだ。いつの日か、大きな暗黒の穴が開いて、やってくるその日を。


「実感わかないな。ほんとに来るのか、その二人は?」


 義仁は、ポツリと呟く。義仁はあの二人と会っていないので、いまいち信じることができないでいるのだ。


「何言ってるのよ。マテウスはともかく、マクシミリアン君はやるといったらやるわよ」


「どうもしっくりこないんだよな、真理の言う二人組ってのが。生き返ったってのも、俺の葬式とか、墓とか、そういうの見ないと実感わかなかったし」


 真理と義仁が言葉を交わす横で、紗代は静かに手を合わせていた。

 紗代はいつも秋葉神社に神頼みをするのだ。それしかできないことを知っているから、必ずそれを怠らない。真理と義仁も、おしゃべりをやめて手を合わせる。

 今日も、何も起こらない。いつものように空は青く、ただただ時間だけが過ぎていく。

 沈黙のまま一時間もたったころ、ついに真理が口を開いた。


「中々こないわね。ね、ちょっと休憩しない? コンビニ行って来るけど」


「そうだな。このままってのは結構無理あるし」


「私はいいよ。二人とも、行って来て」


 紗代だけは首を横に振り、その場を動こうとせずに手を合わせて瞳を閉じてしまった。

 その行為が何かをもたらすわけではないが、真理には痛いほどよく分かったのでそれ以上の無理強いはしない。義仁を連れ立って、とりあえずコンビニで食べ物と飲み物を調達に向かおうと歩き出す。

 その時、紗代の目の前で、真理と義仁の背後で、パリパリッと音がした。次いで、刹那、無音で人が五人ほども通れそうな穴が出現したのだ。

 真っ暗な穴は光を拒み、中をうかがうことはできない。しかし、真理と紗代には聞き覚えのある声が、聞こえてきている。


「天才、今度こそ成功なんだろうな?」


「ああ、確率は二十パーセントだ」


「それは嬉しいお言葉だ、前より一パーセントも高いじゃないか! 前なんか黒くて小さなすばしっこい大軍団が現れて丸焼きにするのが大変だったからな! いい加減にしろ!」


「実は十九パーセントほどサバをよんだ。許せ」


「何だと!? よし、聞かなかったことにした!!」


 無駄に騒がしい声と、淡々とした冷静な声。近づいてくる声に、真理は、紗代は、義仁は、その鼓動を高鳴らせていた。

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