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壱-宿
誰にも感知出来ず。
誰にも想われる事は無く。
誰にも望まれず。
誰にも認められない。
そんなモノが今、
静かに宿木を探していた。
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ある雨の降り始めた昼下がり、
洗濯物を干していた二十代の若い女性は、
急いで洗濯物を取り込もうとベランダへ出た。
何気なく外を見上げると。
ビー玉程の大きさの黒い塊が雲の間から落ちてくるのが見えた。
女性の手は、女性の意思に反して落ちてくる黒い塊を受け止めた。
するとその、黒い塊は女性の手の中に吸い込まれていったように消えてしまう。
驚いた女性が辺りを見回したり、自分の手を確認しても、
あの黒い塊の欠片すら見えることは無かった。
なにも変化が無い女性は安堵した息を吐き、
洗濯物を抱えて部屋の中へ戻っていったのだった。
それが…
これから起こる全ての始まりだとも気付かないままに。
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黒いモノは静かに体内を巡り、
しっかりと脈動し、機能を働かせているある部分への侵入を開始した。
女性の持つ端末機のアラーム音と共に。
歪-壱-宿
終。