続・拉致
ゲームの中で拉致されたと報告された私
拉致は本当か? 犯人の目的はなんなのか・・
うん・・・・暗い・・何時だろう・・
手探りで携帯電話を探すと時間を見る 21時10分・・・予定よりちょっと寝過ごした
慌てて起きて電気をつける
それからいつものようにパソコンの前へ
美智子の姿はない 彼女は今頃親子での団欒を過ごしているのだろうか 子供も大きくなり夫と二人でのんびりしているのか
昼間の彼女からは想像つかない家庭の様子を考えながらヘッドセットをつけてゲームの世界へ
採取はとっくに終わっていてチャット欄にはギルメン達の楽しそうな会話が広がっている
「おはよー」 カチャカチャとタイピングすると、メンバーたちが挨拶を交わす
今日は23:00からギルドの会議がある
それまでにレベル上げをしようと みんな必死で狩りをしているようだ
「遅いぞ、ギルマスとしての責任放棄だ」 低い声(予想)でサブマスが私を責める
無論 これは冗談であることはみんな知っている そう言いながらギルメンをまとめているのは責任感が強いからか
それともただ暇なだけなのか?
しばらく他愛のない話をした後に ふと寝る前のメッセージを思い出す
・・そういえば・・・まりぃ☆がそろそろ来る頃か・・・
会議までまだ時間があるからとボス戦の手伝いに行っているとあっという間に時間になる
夢中になって狩っていたがまだまりぃ☆と戦士はログインしてない
まさか本当に拉致されたのか・・・・?
会議が始まり サブマスが話を進めていく 頼りになるサブマスだ 戦いでは素早く敵を倒し 初心者には優しい
なぜか私にだけはきつい言い方をするがそこはもう何度目か同じくするゲームでの相棒であるがゆえの気軽さなのか
とにかく まりぃ☆について何か知っているものがいないか聞いてみるか・・・
拉致のことは言わず まりぃ☆と戦士が出席していないことを尋ねてみることにした
誰も特に気にする様子はなく 会議に出席してないことに初めて気がついた者もいた
・・・なにもなしか・・
会議は終わり 血気盛んなギルメン達は我先にと狩場へ出かけていった
ギルド倉庫の整理をしながら考えていると サブマスがやってきた
「今日のギルマスは何か気になることがあるようだったが・・・」
ははっ・・・やはり気がついていたみたいだな・・ 観察力のあるサブマスを頼もしいと感じつつ、まりぃ☆のことについて話すことにした
「実は今朝な・・まりぃ☆からメッセがきた・・・ 拉致られてる・・助けてってな・・・」
少し驚いたようだったサブマスが 「なるほど・・」とつぶやいた
なぜ なるほどなのか? 気にしていると話し出した
「実は・・前に一度だけ狩りに行ったことがある。 恋人同士だと思っていたが どうも違うようだった・・どちらかというと戦士にむりやりさせられているようだった・・・・ あまりにもうまくいかないので戦士は怒ってまりぃ☆に落ちろと命令していた
あの時 まるで一緒に住んでいるような感じだった」
「恋人同士なら同棲もするだろうし 二人ともゲーム好きなら一緒に同じゲームもするだろう・・・それなら拉致とは言わないだろう・・・」 私は即座にそう言ったが まりぃ☆はゲームが嫌いなのに無理やりさせられてた・・ってことか・・・?
それとも・・・・・?
この件に関してはこれ以上考えても埒があかないので その後はみんなで狩りに行きいつものように朝まで過ごした
結局その日はまりぃ☆と戦士の姿は見えなかった
ゴクゴクゴク・・・・・・・狩りも終わり休憩してカフェオレを飲みながらニュースを見ていると 相変わらず首相退陣の話やら 保険金詐欺 誘拐 交通事故など さまざまなニュースが流れている
日本も危ない世の中になってきたものだ 自分たちが子供の頃は・・・なんて考えてみる
父がいて母がいて・・私も笑っていた・・・・ 勉強もスポーツもそつなくこなしていたあの頃 なんでもできると思っていた
友達もたくさんいて・・・家に帰るのがもったいないくらい外で、図書館で 友人と語らっていた
美智子もまだ痩せていて近所では評判の美人だといわれていた
私と美智子が並ぶとピンクレディーみたいだって言われたこともある
どこから狂っちゃったんだろう・・・
テレビではまだ誘拐のニュースが流れている 女の子ばっかりが誘拐される時代じゃないんだね・・小学五年生か・・・かわいそうに・・・・
そのままシャワーを浴びに行って戻ってきたら いつもより早く美智子が出勤していた
「おはよぉ~♪ 牛乳が切れてたでしょー? 恭子はミルクないとコーヒー飲めないからね^^」
そういいながら牛乳や買ってきたものを冷蔵庫に放り込む さすが親友・・いや悪友か? 好みもしっかり把握されている
こんな優しいサポーターがいるから 私は快適にひきこもり生活が過ごせるのだなぁ・・と感謝
母親でさえ自分の幸せを最優先に私を置いて出て行ったっていうのに・・・・ あぁ・・考えると暗くなるので却下
美智子の買ってきたものを見ながらふと聞いてみる
「ねぇ・・ネットゲームで拉致されたって手紙が来たんだけど・・・・どう思う?」
美智子は聞き違えたと思ったのか何度も確認してきた 「拉致?? 拉致って捕まったり 縛られたりしちゃう拉致?」
ハハハハ・・・・・縛られるとは限らないと思うけど・・・と思いながら 「多分・・・」と答える
縛ると言う言葉に興奮したのか 美智子は興味津々な目でいろいろ聞いてくる
んん・・・・聞いたのが間違いだったかな・・・・・・(笑)
パソコンでチャットはしても ゲームなんかはしたことがない美智子だ 全然わからないだろうな・・
「んーなんか・・ごめんね・・・お仕事しちゃっていいよ^^ 」遠慮しながら言うと 美智子はまだ話足りなそうな様子を見せながらも
チャットの準備をはじめた
「今日はRと約束しててさ・・ごめんね」 そして美智子は26歳に変わった
・・・寝るまでにはまだ時間がある
もうちょっと狩りするか・・・
ゲーム画面に目をやると そこにはさっきまでいなかったはずのまりぃ☆がいる
公には口には出せないので内緒で話かける
「まりぃ☆! 昨日のメッセは何なんだ? 昨日から気になってて・・拉致がなんだって?」
「・・・・・・・・。」 そして彼女はゲームの中から消えた・・オフラインになったのだ
・・・・・・なんだったんだ・・・・後味の悪い終わり方に嫌気がさしながらもうすぐこのゲームのクローズ期間が終了することを思い出していた
あと三日でこのゲームは不具合報告を元に修正され 次に始まるオープンテストまでは休みとなる
運営によってすぐにオープンテストが始まるところもあれば 人気がないもの 修正に時間がかかるものなどは始まる日さえ未定となる
・・・いづれにしても それまでの間柄か・・・・ サブマスのように信頼できて他のゲームをわたり歩いたとしても続いている友達(ネット上ではあるが)もいる
ギルドの雰囲気が気に入って一緒についてくるギルメンもいることはいるが 戦士とまりぃ☆の場合今回限りな気がする
流れ者の雰囲気だ それとも業者か・・・
まぁいい・・普通にゲームができるということは拉致なんてちょっとした気を引くための狂言だったのかもしれない
そう思いながら二杯目のミルクコーヒーを注いで戻ってくると 画面には休みのために再度入りなおしてきたサブマスがいた
彼は社会人のようでいつも1:00すぎたら寝るために落ちる あとは仕事が終わって帰ってきたら入ってくるが社会人にとってはあまり狩りをする時間もなく 一日に15時間以上やっている私との差は歴然のはずなのに なぜかあまり差がついていない
彼がRMTをしているという噂もある ゲームに時間が使えないが 強くなりたい社会人がよく使う手だ
私のようにこつこつと時間をかけてレベルをあげるよりは短い時間でお金さえ出せば強くなれるので効率いい手ではある
まぁ・・これも噂で本人にきいた話ではないし RMTについては容認派と非容認派がいる為口にだしていうことではない
彼からのささやきでまりぃ☆が彼にもメッセを送ってきていたことがわかった
・・・・・・私が聞いた時はだまって落ちたのに・・・少しムッときたが 話を聞いていると 拉致があながち狂言ではないようなことだった
まりぃ☆からのメッセはこんな感じだった
①男に拉致されている
②場所は分からないがアパートかマンションのようだ
③拉致されてから三日ほどむりやりゲームをさせられていた
④男が買い物にでたので話しているが普段はずっと近くにいるので話せない
⑤さっき落ちたのは忘れ物をした男が戻ってきた
⑥早く家に帰りたい
「言いたいことだけ言うとすぐに落ちて行ったよ・・相当ぱにくってるようすだ 拉致は本当みたいだし彼女の精神状態も心配だな」
・・・・とは言っても・・・ 場所も特定できない 名前も分からないでは 行動できないじゃないか・・・おまけに私は外には出れない
「とりあえずちょっと調べてみるよ ギルマスはもう寝る時間だろ? 夜までにしっかり休んでおけよ」
・・・・相変わらず頼りになるサブマスだ(笑) どうしようもない時は 寝るに限るか・・
あとのことはサブマスにまかせて放置採取の準備をしてディスプレイの前を離れる
んん・・・美智子はまだRとチャット中のようだ 二人でお楽しみ中なのかな・・・
そろそろお昼の時間だ
いつも用意をしてもらってるのは悪いので 今日は美智子の為にパスタを作ることにした
お湯をゆでながら考える
男が出かけた間に家から逃げられないのか・・・・ ゲームをさせるために拉致? ほんとに変な世の中だ
ゲームは自分が楽しむためにあるものだ・・・それをむりやり他人にやらせて なにが楽しいんだ?
犯人はあの戦士でキャラを育ててアイテムを売る業者なんだろうか・・・・
「ほらっ お湯沸いてるよ^^ 慣れないことするから~ こういうのは私に任せなさいって!」
後ろから急に美智子が声をかけてきた
どうやら考え事をしてボーっとしていたらしい・・・ やっぱ睡眠不足かな・・・
美智子にむりやり席に座らされ てきぱきとパスタをゆでていく美智子の背中を眺めながらつぶやく
「やっぱ 拉致ってほんとみたいだ・・・」
美智子が急いでゆでたパスタにソースをかけながら言う 「え? さっき言ってたあれ? 大変じゃない!! 警察には言ったの?
犯人はどんな人なの??」
・・・・・はじまった・・・・明らかに興味を持った返事だ
美智子は推理小説が大好きなのだ・・・
今日知ったことを美智子に話すと 美智子に「どうするの?」と聞かれた
「どうするって・・・・・ネット上での話だし・・・・場所も名前もわからないしな・・・・助けたくても手が打てない・・」
私が悔しそうにつぶやくと 美智子がちょっと含み笑いをしながら言った
「もしかしたら どうにかなるかもしれないよ」