トレイシー、報復する
エドガー様の友人は先ほど「ここでも~手を出している」と言っていました。つまり、他所でも被害に遭っている女性がいるはずです。
私とミーティアは手分けして調査することに。
ここで大神殿の神官という肩書きがとても役に立ちました。祈祷を行うと言えば、貴族の屋敷から高級そうなお店まで容易に入れます。
毎回私達は形だけの祈祷を手早く済ませた後、使用人達との雑談で情報を収集。
次々にエドガー様の毒牙にかかった女性を見つけていきました。
お店で給仕をする女性や下級貴族の令嬢など、その数なんと総勢九人。私とミーティアが加われば球蹴りゲームのチームが作れるほどです。
全員に大神殿の一室までご足労願い、話を伺うことにしました。
彼女達の口から飛び出したのは恨みつらみの数々。いずれも少しの期間、関係を持ったのちにあっさりと捨てられたようです。
自分より立場の弱い女性ばかりを狙っていますし、エドガー様は思っていた以上に下衆でした。
「皆さんの恨みつらみ、直接あの方にぶつけてみませんか?」
私のこの提案に、ミーティアがすかさず合いの手を。
「私達が最高の舞台をご用意します。たっぷりと報いを受けさせてやりましょう!」
すると、女性達は「あの男に報いを!」と連呼し、立ち上がって拳を掲げました。
固い決意の下に、私達は一つのチームになったのです。
さて、エドガー様は近々大事な結婚を控えているという話でした。
私とミーティアはもちろんそれについても調査。どうやら侯爵家の令嬢を妻に迎え、その場で正式に伯爵家の後継者となることを宣言するようです。
深夜、神官の休憩室にて私とミーティアは計画を詰めていました。
「大貴族同士の縁組なので、やはり結婚式はこの大神殿で行われるようです。日時も調べてきましたよ」
「報復の場としてこれ以上はないでしょう。ですが、ただ一斉に糾弾するだけではつまりません」
「確かに。何かいい案でも?」
私が尋ねるとミーティアはにやりと微笑みました。
「ここは神殿なのですから、神様に手伝っていただきましょう」
――――。
結婚式当日、神殿の一番広い間にて式は粛々と進みました。いよいよ神の前で誓いの言葉を交わそうとエドガー様とその婚約者が壇上に。
脇から様子を窺っていた私とミーティアは頷き合い、二人で小さな祭壇を式場内に運搬。参列者がいる後方に設置しました。
私達の行動に場の全員が目を丸くしています。
エドガー様が困惑した表情で尋ねてきました。
「ふ、二人は、そこで何をしているんだ……?」
「あ、お構いなく。この部屋が一番広いので、少し後ろのスペースをお借りするだけです」
本当に困惑するのはこれからですよ。
私がミニ祭壇の前に立つと、ミーティアが高々と宣言。
「ただ今より、不運と不幸に見舞われた女性達の思いの丈を神様にお届けし、その魂を救っていただきます! 皆さん、こちらへ!」
彼女の合図で九人の女性が入場。まずその一人がミニ祭壇へと進み、祈る仕草で膝をつきました。
これに応じるように私は彼女の頭上に手を。
「さあ、あなたの思いの丈を存分に述べるのです」
「はい、私はしがない男爵家の次女です。爵位はあっても平民と変わらない暮らしぶり。こんな私にはよい縁談など、と思っていたある日、あの方が現れました」
「どの方ですか?」
「今そこにおられる伯爵家のエドガー様です。彼は私に来る日も来る日も愛の言葉を囁き続け、また私を伯爵夫人にしてくれるとも仰いました。それで私はついに彼に体を許し……。ところが、関係が続いた一か月後、エドガー様は突然『もう飽きた』と仰って、私とは二度と会わないと……」
「なんと、実に酷い話ですね。さぞ辛い思いを抱えてきたことでしょう」
「それはもう! 遥かに格上の貴族だけに文句の言いようもない! 私はただ弄ばれただけ! 神様! どうか私の無念をお聞き届けください!」
神様が聞き届けてくれたかどうかは定かではありませんが、式場の参列者全員が聞いてくれました。
壇上のエドガー様に突き刺すような視線が集中します。
たった一人の告発で結構な効果ですが、被害者はまだまだいます。
私達はこれを八回繰り返しました。いずれの告発も聞くに堪えない話ばかり。中には地位だけじゃなくお金をちらつかせたエピソードも。
回数を重ねるごとにエドガー様の下衆ぶりが如実に明らかとなっていきました。
皆で一斉に文句を言うよりも効果は絶大。
九人全員の告発が終わった時、エドガー様は壇上で崩れて座りこんでいました。
最後に私が彼に問いかけを。
「ここまで女性達が話したことは真実ですか? 神様の前です。嘘をつけば永遠に地獄の業火で焼かれますよ。よく考えてお答えを」
魂が抜けたように白くなってしまったエドガー様は絞り出した声で。
「……全て、真実です……、神様……」
これを受けて婚約者である侯爵家の令嬢が壇上から下りていきます。
「危うく大変な男性と結婚するところでした! お父様、あとはよろしくお願いします!」
怒りと呆れ半々といった様子で、彼女は足早に式場から去っていきました。
あとを頼まれた侯爵様は伯爵様に視線を移します。
「……この始末、どうおつけになるつもりですかな?」
「分かっております……。エドガー、お前は当家から追放処分とする」
だそうですよ、エドガー様。
あ、もう声を絞り出すこともできないくらい抜け殻に。
もう一つトレイシーの短編(姉妹短編)があります。
この下にリンクを設置しました。
ワンクリで移動、同じく5分で読めます。
よろしければそちらも。
……トレイシーがまたろくでもない伯爵に引っかかります。




